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自分のちからたろうを作りたい。『ちからたろう』――絵本を思い出すところ#15
絵本の中の風景へ想いを巡らすとき、それを手にした幼い頃の記憶もまた、絵本の思い出の一部になっていく――そんな「絵本を思い出すところ」を編集者とカメラマンが探していきます。
いつまでも記憶に残る絵本。
「ちからたろう」
この6文字が忘れられない。
ちからたろうを求めて、
狭い部屋を出て
遠く離れた、
この河原にやってきた。
ごろんと転がった石ころ。
むき出しの粘土層。
岩を削り取る川の流れを、素足で渡る。
みどうっこたろうも、いしこたろうも、
ちからたろうにはかなわなかった。
ばけものをやっつける、
ちからたろうの躍動する姿。
その強さにあこがれた。
自分のちからたろうを作りたい。
穴に手を突っこみ、土を取りだす。
体の垢をこそぐように
土を捏ねて現れた、
生まれたばかりのちからたろう。
白いまんまを、
わしわし食べるのだ。
その百貫目の金棒で、
どんなに固い岩も
まっぷたつに割れるだろう。
その力強い腕で、
どんなに重い石も
つまんでぽいと投げるだろう。
どぼん!
ちからたろうのように、
ばけものを退治してやろう!
ふはははは。
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『ちからたろう』 文/今江祥智 絵/田島征三
これまで多くの作家が取りあげてきた日本の昔話。おじいさんとおばあさんの体のこんび(垢)から生まれた「ちからたろう」が、町を荒らすばけものを退治し、やがて幸せに暮らすというお話には、貧しい農民の生活への希望が込められていると言われています。
このポプラ社版は、刊行の2年後である1969年に第2回世界絵本原画展にて「金のりんご賞」を受賞しています。民衆の声を汲んだ力強い文章と、それに拮抗するエネルギーを爆発させた絵が素晴らしく、多くの読者にインパクトを与え続けている作品です。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/3010005.html
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(文・編集/齋藤侑太 写真/白井晴幸)
ポプラ社 齋藤侑太
1985年、茨城県生まれ。2012年、ポプラ社入社。営業職、社内デザイナー、幼児向け書籍の編集を経て、2020年から絵本の編集を中心に担当。
白井晴幸
東京都生まれ。2010年、多摩美術大学卒。作家として活動する傍らカメラマンとして本の装丁や風景、建築などを撮影している。≪Website≫