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ジェフ・バックリィの本棚

アシッド・フォークの天才であったティム・バックリィの一人息子であるジェフ・バックリィ。
父親のティムやエリオット・スミス、ニック・ドレイク、カート・コバーンらと同じくして夭折してしまったジェフ。
ジェフはその容貌や美声、音楽的才能や詩など、素晴らしい魅力に溢れた人間だったが、その詩の源泉には大量の読書があったらしい。

調べてみると、ジェフの大量の蔵書のリスト(英語)があった。
そこには、哲学・思想書から小説、詩、伝記、評論、エッセイまで多様な本がある。日本語での紹介はまだされていないようなので、日本初公開となるだろうか。
ただし、和訳されていない本、和訳されていたが絶版となり入手困難な本は割愛する。読者には、ジェフをきっかけに新たな読書の道が容易に開けていくことを希望するからだ。(2023年2月現在絶版でないもの)

それにしてもジェフ、文学者や作家、文芸評論家にもなれそうな読書量であるな。


1.『君主論』N.マキアヴェリ

「人はただ結果だけで見てしまう」「愛されるより恐れられるほうが、はるかに安全である」等の文句で、目的のためには手段を選ばない権謀術数の書のレッテルを貼られ「マキアヴェリズム」という言葉を生んだ古典的名著の隠された真髄とは? 訳者・池田廉による詳細な解説、訳注に加え、佐藤優の現代政治と対比した新たな解説を加えた新版。

※中公文庫の訳が評判が良い。

2.『フランケンシュタイン』M.シェリー

天才科学者フランケンシュタインは生命の秘密を探り当て、ついに人造人間を生み出すことに成功する。しかし誕生した生物は、その醜悪な姿のためフランケンシュタインに見捨てられる。やがて知性と感情を獲得した「怪物」は、人間の理解と愛を求めるが、拒絶され疎外されて…。若き女性作家が書いた最も哀切な“怪奇小説”。

※光文社古典新訳文庫の訳が評判が良い。

3.『草の葉』W.ホイットマン

本当のアメリカはこの詩篇のなかに生きている!
自由と民主主義を謳った魂の叫び
「おれはおれを祝福し、おれのことを歌う」
若きアメリカを代表する偉大な詩人・ホイットマン。
その豪放かつおおらかな官能性に満ちた詩篇は、アメリカという国家のあるべき姿を力強く謳っている。

※長大な詩集『草の葉』に入門するためにはこの短い抄から読むことを推奨したい。

4.『イクストランへの旅』C.カスタネダ

最も新しい古典にして、永遠の問題作。
刊行以来世界中に影響を与えつづける
カスタネダのドン・ファンシリーズ、新装刊行中!
「世界を止める」「死をアドバイザーとする」「力が自分に近づく」ーー
呪術、シャーマニズムの至高へ旅立つ第3作。

よしもとばなな氏推薦:
"イクストランをめざす私の旅は終わりがなく孤独だが、
きっと顔の見えない多くの同胞がいる。
命へのこれほど大きな愛を描いた作品を他に知らない! "

5.『ドリアン・グレイの肖像』O.ワイルド

美貌の青年ドリアンと彼に魅了される画家バジル。そしてドリアンを自分の色に染めようとする快楽主義者のヘンリー卿。卿に感化され、快楽に耽り堕落していくドリアンは、その肖像画だけが醜く変貌し、本人は美貌と若さを失うことはなかったが…。

※光文社古典新訳文庫の訳が評判が良い。

6.『カッコーの巣の上で』K.キージー

体制に抵抗する者たちの鮮烈な冒険譚
精神病院にやってきた本書の主人公ランドル・パトリック・マックマーフィ。彼の性格は騒々しく、乱暴で、陽気で愛情のあふれる、反逆者である。そして、女好きで人生に前向きな戦士でもある。
看護師長ラチェッドの独裁にうんざりしていたマックマーフィは、ラチェッドに反旗を翻した。周りの患者たちも同意し結集していった。
病院の規律を破り、病棟でのギャンブルを盛り上げ、ひそかに女性たちを連れ込みワインを調達するなど、あらゆる場面で自由に振舞った。
最初は戯れとして始まったこの反抗は、すぐに厳しい闘争へと発展する。絶対的権威を背景とする師長ラチェッドと、自身の不屈の意志に従って行動するマックマーフィ。
ラチェッド師長がマックマーフィに対して究極の攻撃を行ったとき、何が起きたか。物語は衝撃的なクライマックスを迎える。

※ジャック・ニコルソン主演の著名な映画化作品もあるので、そちらから見てもいいかもしれない。

7.『不滅』M.クンデラ

美しい女性アニェスと愛に貪欲な妹ローラ、文豪ゲーテとその恋人ベッティーナ…。さまざまな女性たちが時空を超えて往きかい、存在の不滅、魂の永遠性を奏でる愛の物語。20世紀文学の最高傑作。

8.『言語・思考・現実』B.L.ウォーフ

アメリカの言語学者ウォーフはアズテク、マヤ等のメキシコ古代語や、アメリカ・インディアンのホーピ語を研究し、言語の違いはものの見方そのものに影響することを実証した。言語の型と文化の型の相関関係を先駆的に明らかにして、絶対視されがちだった西欧の言語を諸言語との対比によって相対化したのである。現代の文化記号論に大きな影響を与えた「言語的相対論」の理解に必須の主要論文7篇を精選した必読の書。

9.『夜の果てへの旅』L.F.セリーヌ

第一次大戦の前線へ志願兵として送り込まれたフランス人の医学生バルダミュ。腐乱死体と汚泥にまみれた戦地で一切の希望を失い、アフリカの植民地、アメリカの工業地帯へと地獄めぐりの放浪へと旅立つ。二十世紀の呪詛を背負った作家セリーヌの、鮮烈な出発点。中上健次らによる座談会「根源での爆発、そして毒」を新たに収録。

10.『なしくずしの死』L.F.セリーヌ

『夜の果てへの旅』の爆発的な成功で一躍有名になった作者が四年後の一九三六年に発表した本書は、その斬新さのあまり非難と攻撃によって迎えられた。今日では二十世紀の最も重要な作家の一人として評価されるセリーヌは、自伝的な少年時代を描いた本書で、さらなる文体破壊を極め良俗を侵犯しつつ、弱者を蹂躙する世界の悪に満ちた意志を糾弾する。

11.『ペスト』A.カミュ

194*年4月、オラン市に突如発生した死の伝染病ペスト。病床や埋葬地は不足、市境は封鎖され、人々は恋人や家族と離れた生活を強いられる。一方、リュー医師ら有志の市民は保健隊を結成し、事態の収拾に奔走するが……。不条理下の人間の心理や行動を恐るべき洞察力で描いた長篇小説。
「どうして、未来と移動と議論とを禁じるペストのことなど考えられただろうか? 彼らは自分を自由だと考えていたが、天災があるかぎり、人間はけっして自由になどなれはしないのだ」(第I部)
今回のコロナ禍を予見したとしか思えない一節です。すなわち、この状態がいつまで続くか分からないという未来の展望の欠如。疫病の感染拡大を恐れるがゆえの人々の移動の禁止。すみやかな決定をよしとし、対面での議論をできるかぎり回避する傾向。コロナ禍が脅かしたものは、私たちの自由そのものだったのです。(解説)

※光文社古典新訳文庫の訳が評判が良い。

12.『夜と霧』V.E.フランクル

〈わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
では、この人間とはなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ〉

「言語を絶する感動」と評され、人間の偉大と悲惨をあますところなく描いた本書は、
日本をはじめ世界的なロングセラーとして600万を超える読者に読みつがれ、現在にいたっている。
原著の初版は1947年、日本語版の初版は1956年。その後著者は、1977年に新たに手を加えた改訂版を出版した。

13.『ヴォイツェク、ダントンの死、レンツ』G.ビューヒナー

ドイツの自然科学者・劇作家ビューヒナーは、23歳と4カ月の短い生涯を彗星のごとく全力で駆け抜けた。残された作品はわずかだが、いずれもずば抜けた先駆性を持っている。その一切の規定を拒む“規格外”の作品は、不死鳥のように永遠の若さを保ち、新たな輝きを放ち続けるだろう。戯曲2篇、短篇小説1篇。

※ジェフの本棚には、ビューヒナーの『レオンスとレーナ』も入っていたが、これは岩波文庫版には未加入である😿

14.『見えない人間』R.エリスン

町の有力者の集まりでバトルロイヤルに参加させられ、演説を行なった代償に、黒人大学の奨学金を貰った“僕”は、北部出身の白人理事を旧奴隷地区へ案内するという失敗を犯して大学を追い出されてしまう。学費を稼ぐためニューヨークへやってきたが、学長の紹介状は役に立たず、ようやく採用されたペンキ工場ではさらなる災難が…。地下の穴ぐらに住み、不可視の存在となった黒人青年の遍歴を描いた20世紀アメリカ文学の名作。全米図書賞受賞。

15.『裸のランチ』W.S.バロウズ

一九五〇年代に始まる文学運動は、ビート・ジェネレーションを生み出した。ケルアック、ギンズバーグら錚々たる作家たち(ビートニク)の中でも、バロウズはその先鋭さで極立っている。脈絡のない錯綜した超現実的イメージは、驚くべき実験小説である本書に結実し、ビートニクの最高傑作となった。映画化もされた名作の待望の文庫化。

16.『ドゥイノの悲歌』R.M.リルケ

『オルフォイスによせるソネット』と並ぶリルケ(1875-1926)畢生の大作。〈ああ、いかにわたしが叫んだとて、いかなる天使が/はるかの高みからそれを聞こうぞ?〉と書き始められたこの悲歌は、全10篇の完成に実に10年もの歳月を要した。様々な要素をはらんだ複雑な作品の理解を深めるための詳細な註解を付す。

17.『若き詩人への手紙』R.M.リルケ

それは、人生に迷うあなたへの手紙。
詩聖が癒す、19通の文学的カウンセリング。

「若き詩人への手紙」は、一人の青年が直面した生死、孤独、恋愛、創作などへの純粋な苦悩に対して、孤独の詩人リルケが深い共感にみちた助言を送りつづけた書簡集。
「若き女性への手紙」は、教養に富む若き女性が長い苛酷な生活に臆することなく、大地を踏みしめて立つ日まで書き送った手紙の数々。その交響楽にも似た美しい人間性への共同作業は、我々にひそかな励ましと力を与えてくれる。

18.『荒野のおおかみ』H.ヘッセ

自分はほんとうは人間ではなくて、荒野から出てきたおおかみだということを、
心の底でいつも知っていた――。
大批判を受けたため、「絶望したものの書ではなく、信じる者の書」と著者自身が強調した一編。
文豪ヘッセの仮借ない自己告白である。

物質の過剰に陶酔している現代社会で、それと同調して市民的に生きることのできない放浪者ハリー・ハラーを“荒野のおおかみ"に擬し、自己の内部と、自己と世界との間の二重の分裂に苦悩するアウトサイダーの魂の苦しみを描く。本書は、同時に機械文明の発達に幻惑されて無反省に惰性的に生きている同時代に対する痛烈な文明批判を試みた、詩人五十歳の記念的作品である。

19.『人工の冬』A.ニン

バイセクシュアルな三角関係を濃密に描く「ジューナ」、父と娘のインセストを赤裸々に描く「リリス」、告白する女たちと精神分析医の物語「声」。アメリカで発禁となっていた先駆的な性愛小説三篇が原形のまま70年ぶりに復活。

20.『パリの憂鬱』ボードレール

「酔え、絶えず汝を酔わしめてあれ! 」
浪費、麻薬、梅毒……過激すぎる人生から紡ぎだされた、『悪の華』に並ぶ傑作散文詩集。
詩人・三好達治の名訳で。昭和二十六年刊行の名著。

父母兄弟よりも、祖国よりも、お金よりも、雲を愛すると宣言して、詩人の立場を鮮明に打ち出した『異人さん』。耐えがたいこの世からの脱出を叫ぶ『どこへでも此世の外へ』。ほかに、パリの群衆の中での孤独を半ば自伝的にしるした散文詩全50篇を収録。
『悪の華』と双璧をなし、後世の文学に絶大な影響を与えたボードレール晩年の成果を、わが国の天才詩人三好達治の名訳で贈る。

※他にも荻原足穂訳、福永武彦訳などがある。

21.『地獄の季節』A.ランボー

16歳にして第一級の詩をうみだし、数年のうちに他の文学者の一生にも比すべき文学的燃焼をなしとげて彗星のごとく消え去った詩人ランボオ(1854‐91)。ヴェルレーヌが「非凡な心理的自伝」と評した散文詩『地獄の季節』は彼が文学にたたきつけた絶縁状であり、若き天才の圧縮された文学的生涯のすべてがここに結晶している。

22.『北回帰線』H.ミラー

現実、そして夢や幻想、性の交わり――。
小説か、エッセイか、自叙伝なのか、ファンタジーか。
過激な性描写ゆえ物議を醸した、著者の処女作長編。

“ぼくは諸君のために歌おうとしている。すこしは調子がはずれるかもしれないが、とにかく歌うつもりだ。諸君が泣きごとを言っているひまに、ぼくは歌う。諸君のきたならしい死骸の上で踊ってやる"
その激越な性描写ゆえに長く発禁を免れなかった本書は、衰弱し活力を失った現代人に最後の戦慄を与え、輝かしい生命を吹きこむ。放浪のパリ時代の体験を奔放に綴った記念すべき処女作。

23.『真夜中の子供たち』S.ラシュディ

1947年8月15日、インド独立の日の真夜中に、不思議な能力とともに生まれた子供たち。なかでも0時ちょうどに生まれたサリームの運命は、革命、戦争、そして古い物語と魔法が絡みあう祖国の歴史と分かちがたく結びつき―。刊行当時「『百年の孤独』以来の衝撃」とも言われた、20世紀小説を代表する一作。1993年“ブッカー賞の中のブッカー賞”を、2008年“ベスト・オブ・ブッカー賞”を受賞。

24.『オデュッセイア』ホメーロス

トロイア戦争が終結。英雄オデュッセウスは故国イタケへの帰途、嵐に襲われて漂流、さらに10年にわたる冒険が始まる。『イリアス』とともにヨーロッパ文学の源泉と仰がれる、ギリシア最古の大英雄叙事詩の、新たな訳者による新版。(全二冊)

25.『坊っちゃん』夏目漱石

親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている――。
歯切れのよい文章のリズム、思わずニヤリのユーモア、そして爽快感。マドンナ、赤シャツ、山嵐…、登場人物もヒト癖、フタ癖。自身の体験をもとに描く、漱石初期の代表作。

松山中学在任当時の体験を背景とした初期の代表作。物理学校を卒業後ただちに四国の中学に数学教師として赴任した直情径行の青年“坊っちゃん"が、周囲の愚劣、無気力などに反撥し、職をなげうって東京に帰る。主人公の反俗精神に貫かれた奔放な行動は、滑稽と人情の巧みな交錯となって、漱石の作品中最も広く愛読されている。
近代小説に勧善懲悪の主題を復活させた快作である。用語、時代背景などについての詳細な注解、江藤淳の解説を付す。

※ジェフの本棚の中で唯一の日本の作家の小説である。彼が漱石を愛読していたとは…なんだか嬉しい^^


参考文献
「Personal Stuff | Jeff Buckley」(Personal Stuff | Jeff Buckley)(2023年2月17日閲覧).


ジェフが大層な読書家であったことは明瞭だろう。世界文学の詰め合わせといってよい本棚である。
ここには載せられなかった本も大量にある。総合して見てみると、彼が好きな作家は、アナイス・ニン、ヘンリー・ミラー、リルケ、ワイルド、スタインベック、バロウズ、ジャン・コクトー、クンデラ、セリーヌ、ジャック・ケルアック、ラシュディなどのようだ。また、(多様な)性愛に関する文学や思想書もジェフは好んでいたようである。

また、もしジェフが生き延びていたら、彼の本棚にはどんな本が増えていたのだろか、ということも気になる。
このラインアップでは、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、西脇順三郎、ポール・ヴァレリー、ニーチェ、ハイデガー、フロイト、高橋源一郎、村上龍、村上春樹なども入っていたかもしれない。

今度紹介したのは25冊だが、この豊富な本棚は読者を長い間楽しませてくれることだろう。
この記事が読者のリーディングライフをより活性化させることになれば、筆者はとても幸福である。

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