![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/74637525/rectangle_large_type_2_ed3ef740e0183eec88b897e33d4ef599.jpeg?width=1200)
嘆きの壁
いつなのか、どこなのか
嘆きの壁と呼ばれる壁がありました
この壁は、
ある人には厚く、
ある人には薄く、
ある人には存在しない、
不可思議な壁でありました
![](https://assets.st-note.com/img/1647748051556-ptejcblvYq.jpg?width=1200)
その壁は、
ある人の周りでは天に届くかの如く聳え立ち、
ある人の周りでは丘のように越えるのが簡単で、
ある人の周りでは校庭に描かれた白い線のように
朧げな壁でもありました
![](https://assets.st-note.com/img/1647747472654-4MNgJTmm9S.jpg?width=1200)
手で触ってみるとボロボロと崩れ、
手が壁の中にぬっぺりと入り込みそうになり、
壁が自分自身の一部となってしまうような
そんな手触りをしていました
もちろん、壁を知ることがない人は
その壁の手触りを確かめる術はありません
「壁は、触ってもさらりとしていた」と言う人もいます
![](https://assets.st-note.com/img/1647748074971-U59hUDfDGh.jpg?width=1200)
砂埃のようなほこり臭さがあり、
それを吸い込むとせき込む人もいました
壁が見えない人には、その姿を訝しげに思い首をかしげていました
「なぜ、あの人には壁が見えて、私には見えないのか」
![](https://assets.st-note.com/img/1647748101222-wMbDkdtKtl.png?width=1200)
ある人が「壁は存在しない」と言うと
ある人が「確かに壁があるではありませんか、私は知っている」と言い
ある人が「壁がないと言うなら、それは壁の存在を否定することになる」と言い
ある人は「壁を超えろ」と言い
ある人は「私は自らの行動の中で、壁を定義する」と言い
ある人は「私が思えば壁はここにあり、ゆえに私は存在する」と言いました
![](https://assets.st-note.com/img/1647748144329-PvIOjgE3es.jpg?width=1200)
壁のこちら側の人は、遥か彼方に見える壁の先を憂い、
壁の向こう側の人は、壁の反対側を呪い、
壁に阻まれる人は、壁の外の存在をも知らず生き、
それぞれが壁の存在を疎ましく思うも、
まぁ、それなりに幸せに生きていました
ある日
「すべての壁を撤去します」とお触れがありました
人々は喜びましたが、
壁がなくなることに、どことない不安を覚えました
なぜなら、生まれた時から今まで、壁と共に存在していたからです
壁がない、ということがどのようなことか、
わからないゆえ恐れました
![](https://assets.st-note.com/img/1647748184516-wLFTcgWrqF.png?width=1200)
壁のこちら側の人は、遥か彼方を想像し、
出発する準備を整え始めました
壁の向こう側の人は、壁の反対側には行かないと決め、
今の生活を守り抜く決意を固めました
壁に阻まれる人は、壁の外の存在を初めて知り、
畏れから壁を神聖なものと崇め、祈るようになりました
壁がなくなりました
ある人が「私が思えば壁はここにあり、ゆえに私は存在する」と言い
ある人が「私は自らの行動の中で、壁を定義する」と言い
ある人が「壁を超えた」と言い
ある人は「壁があると言うなら、それは壁の存在を否定することになる」と言い
ある人は「確かに壁はないではありませんか、私は知っている」と言い
ある人は「壁は存在する」と言いました
![](https://assets.st-note.com/img/1647748468657-Q57jvYjUQk.jpg?width=1200)
いつなのか、どこなのか
嘆きの壁と呼ばれる壁がありました