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「SKIO」ひと目で気分を動かすD2Cブランディング

「SKIO」はロート製薬によるはじめてのD2Cブランドです。社内ベンチャーのような心意気で立ち上った新商品プロジェクト。POOL inc.は商品の開発段階から相談を受けました。

言葉やストーリー、ロゴ開発、パッケージ。ECによる販売なので、どのようにWEB上で触れてもらい、どのようにお客様のもとへ届けることができるのか。パッケージや外装を含め、一連の〝体験〟までを含めて提案しました。

発売後、「リアルタイム総合ランキング1位」に加え、「美容コスメ・香水ランキング1位」「スキンケアランキング1位」「美容液ランキング1位」と4冠を達成。

今回はPOOL inc.によるSKIOのクリエイティブ戦略について紹介します。

※D2C(Direct to Consumer)は、メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社のECサイトを用いて直接消費者に販売する仕組み)。


このプロジェクトに関わったメンバー

・是永聡/エクゼクティブクリエイティブディレクター(POOL inc.)
・小林麻衣子/クリエイティブディレクター・コピーライター(POOL inc.)
・宮内賢治/アートディレクター(POOL inc.)
・後藤亮平/コピーライター(POOL inc.)
・桑原加菜/デザイナー(POOL inc.)
・中島光葉/プロジェクトマネージャー(POOL inc.)

〈ビジョン〉

世の中に、「新しいスキンケア」ではなく、「新しいスキンケアの体験」を提案したい

───今回のプロジェクトはどのようにはじまったのでしょうか?

小林
「世の中のあらゆるものが進化しているのに、どうしてスキンケアは進化していないのか?」という問いがロートさんのこのプロジェクトの出発点でした。スキンケアは洗顔の後、化粧水、美容液、乳液をつけるというステップが一般的です。ITはこれほどまで進化しているのに、スキンケアは未だに変わらない。スキンケアだってテクノロジーのはずなのに。

そこで従来のステップを打破して、化粧水ではなく「美容液を最初に塗る」という革新的な商品ができました。ただし気を付けなければならない点は、世の中にある「オールインワン」など、ステップを省くことで「ずぼら」や「手抜き」という商品と同じに見られてしまうことです。アンケートの統計などで数値的にわかっていることなのですが、セットの工程や時間を短縮する───いわゆる「ずぼら美容」にはみんな興味があるんですね。ただ、人から「手抜き」とは思われたくない。特に大人の女性ほどそうです。

SKIOの強みは、ステップを減らしつつ、かつ効果を倍増した点です。製薬会社だからこそのこだわりです。
若い層のターゲットのコスメであれば「手を抜いてもかわいくなれる」というような文脈もたくさんあるのですが、SKIOはそうではなく、自分や社会に「無理なこと」「無駄なこと」はやめよう、賢く気持ちよく美しくなろう、というメッセージを打ち出しました。手抜き美容ではなく、賢く、ちゃんと効果を出す。そのようなことを伝えたいというのがチームの根本にありました。

〈課題〉

SNS上で「ひと目で残す」

───店頭商品と、今回のSKIOのようにWEBで販売する商品のメッセージやデザインの考え方は意識して変えていかれたのでしょうか?

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是永
コンセプトもそうだし、特にSNS広告としてタイムラインでどのような商品の「一枚絵」が流れてくるかは、お互い前向きに議論しました。

小林
ロートさんにとっても、CMを出稿して店頭誘引するタイプのマーケティングではなく、D2Cは初めてのトライでした。今まで私もお手伝いしていたCMによるブランディングや販促の時よりも強く、スマホやPCの画面上でスクロールされた時に、一発で目に留まって意味が分かるというスピードを大切にしました。
そして、伝えたいところを、デザインと言葉で分担しながら設計していった。「数秒で伝わるのは何か」というポイントに重点を置きながら、引き算してしつらえていきました。


宮内
今回は店頭販売などの条件がないという点が難しい部分でした。以前に担当したロートさんのコスメブランドSUGAOの時は、店頭でいかに目立って行くのかということを提案していたのですが、今回はWEB上でワンビジュアルでどのように伝えていくのかというところに終始していました。全く文脈が違います。

小林
今までやっていたドラッグストア系のスキンケアはとにかく情報を詰め込むんですね。売るためには詰め込んでなんぼといったところがある。その手法とは違い、EC上でいかに引き算をして、短い時間の中で直感的に選択させるか。とにかくまず、スマホをタップさせること。
そして、今まで「店頭」で訴求していたような「情報・お得感」は、その一つ下の階層で存分に語る。女性は特に〝お得感〟やこの商品のメリットがはっきりしないと購買までは進んでくれませんから、もちろんこれも大切です。

〈コンセプトコピー〉

無理なく、無駄なく、美しく。

小林
まず前提として、イメージ的なワードではなく、商品の提供価値がはっきりとわかり、SNSでスピーディーに、女性へのメリットが伝わるものにこだわりました。

是永
タイムライン上ですぐにわかるということ。それから人から人へ語りやすいものにしたいという話をしたよね。
最初は、商品に合ったコピーやタグラインを先方に求められていた。もともと「浸透力」が売りの新しいスキンケアということで、「超浸透」や「〇〇浸透テクノロジーSKIO」のような方向性で提案していた。その中で、「でも、やっぱり新しい商品で、新しい考え方をビジョン的に世の中へ発信したい」という話になった。議論の中で、今の言葉のベクトルへとシフトする瞬間があった。

後藤
当初は「スマート・テック・スキンケア」というようなタグラインを提案していましたね。要は、この新しい商品が何者か?を打ち出すタグラインです。しかし議論を重ね、アイデアを提案する中で次第に、「何者かを定義するよりも、ブランドの意志やビジョンを宣言するコンセプトをタグラインにしたい」というロートさんの気持ちに触れ、そちらにシフトしました。

小林
確かに、世の中に新しい提案をしようとしているブランドとしては、そのビジョンを高らかに言うのもかっこいいなと。スキンケアは、現実的な効果効能やわかりやすさも売上には必要だけど、女性にとってはとてもエモーショナルなものでもあるので、直感的に共感できる意志みたいなものも大切だと思うので。前述したような「無理も無駄もなくして、賢く気持ちよくきれいになろうよ」というメッセージをメインに打ち出すことになりました。

普通の化粧品会社であれば、売るためのプロモーショナルなワードをのせるはずです。でも、ロートさんの話を聴いていると、本当のライバル会社は競合の化粧品会社というより、他の領域も含めた新進気鋭のスタートアップ企業だということがわかってきた。なんならAppleがライバルですねと(笑)そもそも対象となるレイヤーが違うことに気付いた。タグラインにビジョンを持ってきた理由は、そんな話の延長にあります。

〈デザイン〉

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宮内
雫をキーにすることによってワンビジュアルで「浸透力」や「シズル」を感じさせるという方向性で進めました。説明的ではなく、いかに直感的に効能を感じさせるか。これが大きなこだわりのひとつでした。雫の見せ方も相当な数のパターンを検証した上で、今のイエローを色面とすることに決めた。雫をマークとしてどーんと大きく見せたり、波打った形状のものや水に浸っているものなど。コピーとの相性を考慮しながら「SNS上でどれが一番おもしろく映るか」ということを議論して、今のデザインへと調整していった。

小林
楽天ショッピングページに、デザイン案を入れ込むなど、徹底的に検証をしました。PDF上で見ていてもECのデザインってわかりづらいんですね。そのために、スマホのレイアウトにはめこんだりして、それらの工程も大事だったように思います。

宮内
そう、他の商品と並んでいる状態を見せる。僕たちもそれを見ながら「これは映える」「これは映えない」ということを議論した。パッケージ自体、今は白基調のボトルにイエローの雫なのですが、直前までは茶色の瓶にシールを貼ったものとして進めていました。高級感があって大人っぽく、それも素敵だったのですが、ロートさんから「もう少し差別化をしたい」という要望がありました。そこで諦めず、より良くなるようにボトル自体をマットな白に塗り上げた。

工程としてもコストがかかるのですが、あえてそちらを選択しています。白と黄色の世界観がしっかりと見えるようにディレクションしました。視覚的にユニークなものになったと思います。

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小林
「ひと目で記憶に残るデザイン」「一言で説明できるデザイン」にしたいと思った。「あの黄色いやつ」「雫のやつ」「潤いそうなやつ」といったことを印象として残せるように。それは最初からどのデザインでもこだわっていました。

スキンケアの情報というのは数多あります。でも、難しい内容だと覚えてもらうことはできません。ECの良さは、消費者の心に引っかかると見てもらえるということ。気になってもらうことができれば、タップした先でいくらでも情報を詰め込むことができます。そこが一面で伝えなくてはならない店頭販売との違いですよね。

緻密に計算されたデザイン

宮内
「とろみを出す」ということが大事で。とろみは雫が垂れていく時間で感じます。垂れはじめる部分は曲線が強くて、少しぽてっとした印象です。もちろんストレートな線など、いくつかのパターンを検証しました。肌への抵抗が少しありながら染み込んでいくイメージ。雫としての濃度、浸透を表わすベストな形状を検証しました。

小林
ほんのちょっとしたことでねばねばして見えたり、汗っぽくべたべたした印象になったりするんです。直感的にタップしたくなるというのは、もはや理屈ではなく、感覚的なところなので、それはデザインの検証とセンスによります。そこはデータだけではつくることはできない。

左脳的な計算された部分と、右脳の感覚的な部分の両方の要素が必要となります。これはデータとして数字が出ているのですが、女性は調べて調べて、いろんな人のインスタのコメントなどを見て、ようやくお財布を開くんですね。ただ、最初にタップさせなくちゃいけない。

タップさせるのは直感です。でも、最後に背中を押すのは左脳的な部分。でも、直感の部分で嫌われてしまうといくら理屈が通っていても終わりなんです。そこをつくるのがD2Cの鍵になります。デザインや言葉のちょっとした感覚。クリエイティブとしてお手伝いできるのがまさにその部分だと思うので、POOL inc.としては大いにやりがいがありますね。


体験によって「気分が動く」までがデザイン

是永
D2Cならではというところで言うと、チームのみんなでよく議論していたことは、「届いた時の体験」ですね。デザインだったり、開けた時にどのようなメッセージや体験がそこにあるのか。

後藤
〝体験〟については最初からこだわりたいというのはみんなで話していました。有名な例を出すと、Appleの製品は届いた時に「Hello」というメッセージが現れます。あれって当時、すごくうれしかったじゃないですか。届いたときの体験メッセージについては、ロートさんとも議論を重ね、トライアルセットから商品を手に取ると、裏に「Enjoy your skin」というメッセージが出てくるようにしています。

小林
また、SKIOで最も特徴的なのものの一つは、プチプチのエアー緩衝材(バブルパック)をパッケージにしたことです。
ロートさんからの依頼としては「外装のデザイン」ではあったのですが、単なる表面のデザインというよりは、そこも体験ごと考えたいと思っていて。

一般的にECの商品は「過剰包装で自宅に届く」というネガティブな印象があります。ゴミの処理も面倒だし、素材ももったいない。そこで、「無駄なく」というコンセプトを生かして、過剰包装をやめちゃえばいいんじゃないかな?と。ただし、素っ気ないデザインではダメで。スキンケアだから、そこには夢や艶がなければならない。

是永
そう、気分が上がらなくちゃいけない。

小林
それを両立するために、注目したのが透明なプチプチの緩衝材です。あれって、すごく機能的でありながら、見た目が可愛いんですよね。これをベースに外装パッケージをデザインしたら、女性もよろこぶものができそうだなと。
普通ならプチプチ(バブルバック)で包んだものがダンボールなどに入って送られてくると思うのですが、あえてプチプチ(バブルパック)を外装にして、そのまま送られてくるシステムにしました。かわいいし、捨てやすいし、エコだし、いいとこ取りなんです(笑)

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宮内
さらには「中を見せる」という効果もある。透明のバブルパックで、どのように商品の黄色の印象を新しく見せていくかというデザインにもこだわりましたね。最終的に、裏側に成分表示が記載されている半透明のテープで止めているのですが、商品を取り出した後、テープで包んでそのまま捨てることができます。プチプチをデザイン化したところで良いシグナルになっています。包材というテーマにしたデザインを守っている。かなりこだわって仕上げました。

小林
これはPOOL inc.としても実現してよかったですね。ロートさんも新しい挑戦ということで、資材屋さんや製造現場ともかなり協議してくれました。エコでサスティナブルで、時代的なストーリーとしてもよく、さらにそれがPRのニュースになったりして、売上にも繋がった。ロートさんに最も喜ばれたアイデアですね。POOL inc.らしさのある良い提案だったように思います。

〈キービジュアル〉

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宮内
キービジュアルで雫を見せることで、ブランドのキーになるものを見せて、ロゴをしっかりと見せる大胆なデザインです。基本的に、スキンケアの広告はモデルさんが立っていて、カメラ目線で美しい表情をしているという写真がキービジュアルの王道としてあります。ただ今回はそこからさらに主役を「肌」に限定した。

コピーに合うモデルさんを選ぶため、たくさんオーディションをしました。肌を美しくするために髪をどのように束ねたらいいか、目線や顎の角度、顔全体を見せるのではなく、トリミングすることで肌に目が行きます。肌を見てもらいたいため、モデルさんの視線を意図的にカメラから外しました。

小林
雫をいかに記憶に残すかということは先ほどの話にもつながります。一つ補足すると、SNSではビジュアルだけでもいい(人の顔は要らない)という考えも実はあるんですね。だけど、女性の目や顔、肌が見えていた方が売り上げに貢献するというのが、いままでのスキンケア広告の経験で肌感覚としてありましたので、それは信じました。

尚且つ、イメージとしての顔だとイメージ広告になってしまうので、顔と黄色、雫の両立は大事なところでした。そのような肌の採用の仕方をしています。

宮内
撮影自体も、ほぼすっぴんの状態です。最終的にはレタッチで補正をするのですが、極力それも最小限に留めて、なるべく露出肌が美しい艶感にはこだわりました。

小林
主力商品は、黄色の美容液にしたいので、イエローをブランドカラーにする戦略です。展開としては様々な色を打ち出していくけれど、ブランドカラーとしてはとにかく黄色と雫でSNSの面をとっていく。


今後の商品展開

宮内
今後の展開としては、デザイン的なフォーマットをどのように生かしていくかという発想で提案しています。しっかりと流れを汲んで横展開を考えたブランディングなので、急に全く違う印象の商品が出てこないようにできています。

小林
たとえば「このロゴだったらアクションをつけやすいね」とか「水にたぷたぷ浮いているような動きをつくりやすいね」とか「雫が垂れるアクション」とか。SNS上での印象的な動きを見据えて視点をつくっていきました。

ですので、「ポスターに貼った時」というようなロゴの考え方ではなく、あらゆる起用のされ方、動き方をSNSから逆算して次のタイムラインで流れてくる景色を想像しながら言葉とデザインをつくっているというのがこの仕事の根本にありました。

是永
CMに頼らないで情報を発信し続けるためのフレームだよね。どのような絵にも一目でSKIOとわかる質感を。

小林
コラボレーションとして展開しやすいし、新しいラインが出たときに色を変えても展開できる。そのような「展開力」は最初から視野に入れていました。展開しやすく、人の印象に残りやすいブランディングとしてのデザイン。

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宮内
一回広げてしまうと、やり直しがきかなくなる。展開を考えなければ、全てをやり変えることになってしまいます。一時の誘惑に負けないように、俯瞰して見ていく。そういう意味でも店頭で勝負していないというところが効いているかもしれませんね。

小林
ロゴをつくって、ネーミングをつくって、パッケージをつくりました、というところで終わる仕事ではなく、体験やその先の未来に起こる衝動までを想像して提案する。それは代表の小西利行の主義でもあり、POOLinc.のこだわりでもあります。街づくりも、プロダクトづくりも、ぜんぶ同じ考え方ですね。

是永
スキンケアの商品開発も、ホテルにおける街づくりも、僕たちの中ではあまり変わらない。クライアントとお客さんとの接点をどのようなストーリーでつくっていくかという考え方で。それは〝考え方〟だけでは伝わらないので、伝わるためのデザインだったり、実際体験できるデザインだったり、それを可視化してあげることは重要です。
クライアントの中だけではできないということでもあるので、僕たちのような外部がストーリーやデザインという立場から商品開発に対してものを言うことが重要だと思っています。

小林
そうですね。今回はロートさんとお互いプロの目線で、ちゃんと肩を並べて、有意義な議論を重ねることができて、とても感謝しています。そして、素敵なブランドづくりがご一緒できたことが、とてもうれしくて、楽しかったです。

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次回のPOOL SIDE STORYもお楽しみに!

取材・文/嶋津亮太

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