植物園に行かなくなった理由
私は花の名前なんて全然詳しくないし、貰ったとて「おお、花か」ぐらいのものだと思う。
それでも大学生で在った4年間は、結構な頻度で植物園に訪れたと思う。それもあちこち行った。
扉を開けるとムワッと感じられる全てから花や草の匂いがして、ちょっと外より蒸し暑くて、眼前には色とりどり可愛い表情をした花たちが現れる。
普段道端に咲いている花なんかには目もくれない性分だが、植物園はそれらを見ることしかできない。それらが見てくれ!と私の前に立ちはだかるのだから。
博物館や科学館みたいにいちいち花の説明文なんかも読まない。ただそこにいるだけで満足してしまう。
私が植物園から興味を削がれたのは、傍から見たら心底どうでも良い理由からである。
植物園は、恋人、夫婦、家族連れが大半だった。1人で来ているようなそんな酔狂な奴はいなかったと思う。そんなに周りを気にしたことは無かったが、私が浮いているというのはなんとなく感じていた。
最後に行った植物園はたしか大阪の郊外。若い恋人がゆっくりゆっくり中で歩みを進めていて、それにどうにか追いつかないように私もゆっくり周った。
彼女と思しき女性が、花の名前や性質を彼氏と思しき男性に熱心に教えていた。男性は、花なんかよりそんな彼女の横顔をただ眺めていた。
「この花、似合うよ」「また来ようね」「プロポーズはこの花がいい!」
心底げんなりしてしまった。私なんかが1人で来るような場所ではないと教えられた。
分からない。恋愛が上手くいっていない時期だったのもあるかもしれない。でも、1人より2人の方がよっぽど楽しいんだと痛感させられてしまった。
私は、恋人とそのような場所に行ったことがない。植物園もそうだが、いわゆる「恋人スポット」に行けた試しがない。それでいいと思っていた。
でも欲が出た。1人であちこち行けばそれでいいと思っていたのに、2人がいいと思ってしまった。
それからは植物園を調べることすらなくなった。
本当はお花畑なんかにも行ってみたいが、そんなのは到底無理そうだ。
ネモフィラってどんななんだろう、と思いながら死ぬのかなと思うとちょっと笑えてくる。
それでもいいか。私だし。