天はヘルパーの上にケアマネを造らず
マウント取り合戦の現代である。もしかしたら今に始まったことではないかもしれないが、最近では「上級国民」なんて言葉が皮肉も含めて使われている。
「あの人よりもウチの方が余程〇〇」「あんなの大したことない」「あれで△△長なんてよく言えたもの」そんな言葉たちは一体一日にどのくらい口から出てくるのであろうか。自分が他者より大きく強く、また立派な存在であると、存在価値の高いものであると、悲しいかな、思いたがってしまうのである。
恥ずかしいことに僕もその一人である。キレイな女優さんや女子アナさんの熱愛報道なんて出た日には、自分の稼ぎや素行はそっちのけで「僕の方がどんなに誠実で彼女に相応しいか」などと妄想してしまう癖が有る。妄想もここまで来ると、ほとんどビョーキだな(笑)
さて。自分を他人より上に見たがる(他人を下に見る)傾向は、ごく稀に良い結果を生むこともあるが、ほとんどの場合は周囲に対していい効果を生じない。特に友人関係、クラブ活動など。そして実害をもたらすのが職場での関係性におけるマウント取りである。
介護現場をみてみよう。経験年数、保持資格などがマウント取りの常連アイテムである。相手よりも長く働いていることは「よく知っている」または「できる」ことに自動変換され、その分だけ下駄を履いて上からモノを言う人が居る。僕は現場における経験値は伊達ではないと感じ、考えている。なぜかと言うと、多くの利用者さんに出会い、別れも経験する中で得たマインドとスキルを密かに持ち合わせている先輩たちにこれまで多く出会えたからである。彼ら彼女らに共通しているのは謙虚で尚且つ貪欲なことである。だから経験年数を振りかざしてモノを言うなどは決してしない。下駄を履いていないのである。僕みたいな、青臭いことしか言わない若造からも何か一つでも学び盗んでやろうという気概が感じられたことに圧倒されたものである。
介護福祉士の資格取得者が増えてきて、介護保険も施行から年数が経ってきた頃、僕は今まで無かったヒエラルキーを発見した。ヘルパー事業所やデイサービス事業所は居宅ケアマネに直参して営業活動をする。頭を下げてケースを回していただけるよう頼み込む。介護福祉士を取って一定の年数現場で頑張ったら、次は“上位資格”であるケアマネジャー(介護支援専門員)に成りたい、という上昇志向もよく目にするようになった。ケアマネは介護福祉士の「上」なのだろうか?現場で汗を流すよりデスクワークの方が身体的に楽…果たしてそうなんだろうか?
“上位資格”が欲しくてケアマネジャーと成った人たちはすぐわかる。研修なんかに出かけると大体グループワークが有って、そこでマウント取りする人がそういう傾向にある。そんなケアマネはおそらくヘルパーやデイに大きな態度をとっている。わかりやすく言えば、偉そう。仕事が早くて正確ならばそれでも許せる余地が有るが、態度が3Lなのにハリボテの場合はかなりがっかりである。在宅介護(施設だってそうだが、特に)がチームワークである以上、そのコーディネーターでありファシリテーターであるケアマネの力量がケアの質に大きく関わる。残念なケアマネのケースは減っていき、本気でケアマネジメントに取り組む有能なケアマネの元にはいくら多忙でも仕事の依頼が来る。自明の理である。
僕はケアマネジャーとそれぞれのサービス事業所の関係は上下ではなくフラットで、それぞれ与えられて全うすべき役割が違うと考えている。書類の処理で忙殺されそうなのがケアマネであり、それでもしっかり必要なときに訪問して利用者さんの課題をギュッと掴んで離さない、時間をうまく調整しながら書面での指示だし(ケアプラン)に余念がない。そんなケアマネさんをたくさん知っているし、心から尊敬している。彼ら彼女らはヘルパーさんの、デイサービスさんの、福祉用具さんの…それぞれのサービス事業所さんたちの仕事に敬意を払っているし、各々の立場からの意見を聞きながら伝えるべきことは伝えるという関係の下でマネジメントを行っている。
ケアマネジャーが基礎資格の経験5年以上という受験資格をもつ資格である以上、“上位”であるという印象を持たれても仕方がないのかもしれない。しかし内実は、びっくりするほど給料が上がる訳じゃないし(夜勤手当が無くなるんで下手すると…の場合も)、デスクワークが楽かと言えば、調整役であるからこその心労や想定以上の事務仕事量に追われ、夜間や休日も業務用ケータイの鳴動を気にし、度々ある研修で説明される理想のケアプランにほど遠い自分の計画にため息をつく…そんな日々でもケアマネジャーさんたちは頑張っている。でも、現場から羨ましがられるのはそういう中でもよきチームをつくろうと日夜苦しみもがいている姿などではなく、事務所に座ってパソコンを叩いている姿である。ああ、無情。
多職種連携とは、お互いの仕事を尊重し上下ではない関係から成り立つと思う。ユーザーに最適なケアを提供するという意味合いからすれば、どこの施設や事業所内とて同様である。
さあ、周りを見渡してみよう。つまらない(と自分が思える)輩はいるだろうか?もしその人が居なくなった現場はどうなるだろうか?自分の方が上手くやれる、ホントにそうだろうか?
組織の中での立場によっても見方は変わると思うが、見直してみると結構気付けるものが有るはずである。