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良書ご紹介 「WORKRULES!」

またもや期間が開いてしまったポンコツぶりを発揮してしまいました。

今回ご紹介いたします書籍は、グーグルの人事制度の良い点が多数紹介されている、WORKRULES!です。

グーグルの名称でイメージするGmailやAndroid、Chromeのようなテクノロジー系のプロダクト、これらを作り上げた優れた技術者の方々をグーグルはどのようにして集め、そして世界有数の企業になったのか、その仕組みをこの書籍を読むことで理解することが可能です(洋書なので若干日本語として頭に入ってきにくいところもありますが)。

結論といたしましては、

企業や経営者は意味のあるミッションを定義し、限りない企業の透明性を維持し、社員へ自由な発言権を与え、意思決定権を現場に委譲し、データを基に意思決定し、採用にとてつもない力を入れ、生産性を上げる為には資源を惜しまず、公正さを確保し、既得権を排除し、業績に基づく公正な報酬を与え、仕事を楽しむ環境を構築することで、優良企業が出来上がるというものです。

550ページの大作をまとめるとこのような感じです。文字に起こせば簡単です。実現可能性を考えると無理ゲーに近いですが、これを実現できると厳しい競争環境で生き残っていけるのではないだろうかと考えましたので、どうぞご一読くださいませ。

序章 

経営者に求められることは、生産性を上げ成長していく企業の組織風土を形作るために、ミッションや透明性や社員の発言権を認め、権力を解放する必要があると述べられています。

のっけから「難解」な問題にぶち当たりました。実行できている状態を作り維持するのは非常に難しいからです。多くの企業で「透明性」「発言権」は無きに等しい状況でしょう。グーグルも100%では当然ありません。

序章には他にも

・最も有能な人々の性質と採用に至るプロセス

・自由裁量権を与える障壁

・最も有能な人材を引きつけるためのリーダーの重要性

・権力者が権力を手放す重要性

・社員へ自由を与えることによる生産性向上

などグーグルを支える仕組みが記載されています。腹落ちする内容ばかりですが、組織に定着させられるかはまた別問題でしょう。

第一章 創業者になる

この章では創業者の考えはどうあるべきか?を論じられています。創業者の言葉として、

リーダーとしての仕事は全てのメンバーが素晴らしい機会を持てるようにすること。メンバーが社会の改善に貢献していると感じられるようにすること。

であるべきだと述べられています。多くの企業でも同じ内容を創業者や経営者が述べることはできるでしょう。しかし現実ではほとんどの企業の実態はこれとは程遠いものでしょう。リーダーは部下であるメンバーを自らの思考の枠内で活動するよう制限をかけ、メンバーは社会の改善への貢献ではなく、いかに売上を上げたか、上司の言う通りに作業したかといったような、貢献をする主体が内向きになっていると思います。言うは易し行うは難しですね。

第二章 文化が戦略を食う

この章ではグーグルの文化を定義する3つの要素
① ミッション
② 透明性
③ 発言権

の重要性が述べられています。

文化は変化する、時に経年劣化する。なので現在の文化を改善していかねばならない。文化の劣化を防止するには、社員同士が議論しやすい環境を構築せねばならない、と述べられています。また従来企業は自由度が低いモデルでも高いモデルでも成功はしてきた、ともあります。

たしかに外部環境をうまく捉えシェアを獲得した企業もあります。しかし、例えば機能的便益をもとにシェアを獲得した企業は、このご時世情報技術の発展ですぐに模倣され、シェアが低下します。しっかり情緒的便益も向上させられる社員が所属していれば、それを一定量防ぐことができます。そういった社員を所属させるには上記3つの要素は必要でしょう。

その他には、有能なプロフェッショナルはこうした企業を求める、自分がして欲しいことを他人にしてあげるという道徳的な文化も重要と述べられています。当たり前のように感じますが、これを実践するのはなかなか難しいのではないでしょうか。

第三章 レイク・ウォビゴンの幻想

この章では採用の重要性を説いています。

高い報酬を用意すればよいのか?社員を一から鍛えればよいのか?

いえ、優秀な人材を採用すればよいのです、著しく高いお金は必要ありません。

どうすればよいか?まず採用に時間をかけましょう。そして面接官は自分より優秀な人を採用しましょう。シンプルに言うとこれだけです。その際「採用に関する権限をマネージャーに手放してもらう」ことが重要と書かれています。加えて採用される人の部下になる人の意見も大事と。謙虚さと誠実さを持ち、賢いというだけで無く、自社の環境下で成功を収め、ともに働く全ての人をいっそうの成功に導いてくれる最高の人材をみつけることが重要、としています。皆の手本になる人を採用しなさいと言うことですね。短いコミュニケーションだけでは難しいですが。

第四章 最高の人材を探す方法

この章では優秀な人材を採用するには具体的にどうしたら良いか、という内容が述べられています。しかし「How」だけ取り入れようと考えてしまう方(経営者)は多いと思います。が、前提であるミッションや透明性や社員の発言権がなければ、「How」は成り立ちません。

重要なこととして、

・面接官が正しい判断を下すわけではない。だから客観的な基準に従うべきだ。
・新入社員に求めることは、新事業に対して意欲に満ち、賢明で、興味を抱き、情熱的であるということ。
・常に人材の質に妥協をしてはならない、地球上で最高の人材を探し出して育成するという目標を追求。小さい企業にはあとになって使い物にならないとわかるような人材を雇う余裕はない。無能な人材や社内政治が好きな人々はチームに悪影響を及ぼす。指導をしたり追放するには経営陣が相当な時間を無駄にしなければならないからだ。
・社員一人一人がリクルーターになるべき。

とあります。どこまで徹底できるかは企業次第ですが、どの企業でも実現できる内容です。

第五章 直感を信じてはいけない

この章では面接官の直感を信じてはいけない、面接官は自分の第一印象で応募者に点数をつけ、あとの時間はその点数とした理由を探すだけにしてしまう、人はバイアスや信念に強く影響された判断を即座に無意識に下す、とあります。

なので、面接の目的を「採用候補者がどのくらいの力を発揮するかを予測」することにせよ、とされています。

面接官もまずは専門のリクルーターが行い、バイアスを除くことを徹底し、さらに一人の意見に左右されないよう、複数の面接官の採点を参考にし、しっかり「文化」に適合するか判断せよ、とも記載されています。現場のマネージャーだけが面接官をすると、上述の通り「自分の好き嫌い、自分の手足になるか、自分の立場を脅かさないか」といった生産性とは関係の無い判断基準で面接をしてしまうので、まず専門のリクルーターが面接をすることでこうした障害を取り除くことができます。

第六章 避難所の運営は避難者に任せる

この章では、リーダーから権力を取り上げ、社員を信頼して運営を任せることが大事だ、と述べられています。イギリスの歴史家アクトン卿の言葉を引用してその理由が述べられています。

「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」彼の主張は続きます。
偉大な人間は大抵悪人であり、権力だけでなく影響力を振るうときでさえそれは変わらない。権力が腐敗しやすいこと、あるいは必ず腐敗することを考えれば尚更だ。権力者の行動を客観的な評価ができない時点で、目的が手段を正当化するようになる。

ぶっちゃけ人は何らかの権力を持つと腐るということです。これはほとんど否定できません。なので腐ってない人に組織の運営を任せるべきであると。

加えて以下のようにリーダーの性質が述べられています。抗える人は少ないでしょう。

リーダーが犯す過ちは「管理しすぎること」。他人の行動を絶えず監視するのは気が楽であるのだ。本質的にリーダーの自信のなさを示すものである。これによりリーダーは役に立っているという幻想を抱く。そしてスタッフに対する信頼が欠如しているということでもある。大事なのはリーダーがステータスシンボルを放棄し、メンバーに関心を寄せている姿勢なのだ。

他にも、

・人間は権威に従い、ヒエラルキーを求め、狭小な自己の利害に集中するように作られている。

・人間はルールに極めて従順な生き物。だからこそ最高の人材はその性質を打ち破り理にかなう場合は自分の判断でルールを破るのだ。
・経営者が社員は優秀と信じ、組織が有効な採用活動をできるなら、社員に自由をあたえても恐れることはない。
・職場とは社員が自由に創造し、開発し、成長できる場所でなければならない。すなわち自由に振る舞える環境を経営者は用意せねばならないということだ。
・経営者はまず社員が自由に意見を言える環境を作る。日本の出る杭は打たれるは服従せよとの警告である。

と、人間の性質をもとに、どのような仕組みを構築すれば良いか述べられています。

合わせて意思決定するにしても、データに基づいた判断をせよと述べられています。あらゆる話し合いにはデータの裏付けを求めることにより、マネージャーの昔ながらの役割を覆す。マネージャーは直感の指示者から、真実の探究における進行役となる、と述べられています。声の大きい人の意見が採用されることがないようにする仕組みですね。

グーグル社員への業績評価もデータに基づいたものであり、公正が担保されています。マネージャーが贔屓をできない仕組みです。

他にも以下の通り組織やリーダーの性質が述べられています。

・ほとんどの組織は変化に抵抗し、社員の力を奪うようにできている。よくある反応は「理屈としては素晴らしいが自社ではうまくいかない」。あれこれ理屈をつけてリーダーが限界を正当化するならばそれが限界。byリチャード・バック
・リーダーは地位に伴う指揮統制の衝動と戦うべきだ。組織は優れた社員を見つけるために大変な努力を傾けるのに、その後はリーダーの職務以外の領域に影響を及ぼすメンバーの能力を抑制する衝動を抑えねばならない。
・うまくいかなかった時のキャリア危機を恐れてはならない。自分が支配権を放棄するたびに、チームにとってはステップアップのすばらしいチャンスが生まれる。

衝動を抑える難しさはありますが。。。

第七章 誰もが嫌う業績管理とグーグルの決めたこと

この章では評価や金銭的報酬でなく、個人の成長に焦点を合わせることにより業績を改善することが重要と述べられています。

多くの組織で実行されている業績管理は、規則に基づく官僚的プロセスになっていて、実際に業績を改善するより、管理自体が目的になっている業績管理システムがうまく機能するという証拠はまだない。実際の行動変化をもたらす内容であるかが重要なのだ、と本文にあります。前述の通り管理する衝動があるから業績管理システムがあるのでしょう。業績評価システムに科学的結論はなく、細分化することで精度が上がる証拠もないともされています。

では社員の評価をどうすれば良いか、「OKR:目標と主要な結果」結果は具体的、計測可能、検証可能なものであるという指標をもとにせよと述べられています。そして評価する際も、公正さを確保することが極めて重要で、マネージャーは集団で社員を評価し、皆が合意できる公正な評価を下す。これによりバイアスも減じることが可能で、マネージャーは自分が下した評価の正当性を互いに証明せねばならない、と述べられています。前述の通り権限が奪われている前提なので実現することはなかなか難しいです。

そしてグーグルは評価の軸に「学び」を重視しており、社員の内発的動機を引き出すことが重要と述べられています。内発的動機を軸にした評価のメリットと外発的動機を軸にしたデメリットがここでは述べられています。

第八章 2本のテール

この章では人材を評価する際に、平均を軸にするのではなく、優秀な人は業績インパクトに基づき評価せよと述べられています。極めて優れた人材にはその他の人材としっかり差をつけるべきと。

そして最高の社員にはしっかり報酬で報いて、優れたノウハウを他のメンバーに移植させよと述べられています。リーダーはメンバー全員の生産性を上げ、結果メンバー全員が働くことが楽しくなる職場をつくるべきで、それが業績向上や離職率低下につながると述べられています。

加えて評価するにあたっての注意点として「スタックランキングを導入して社員を管理してはならない、社員は底辺を避けたいがため、自社内であらそい、文化が堕落する。マイクロソフトでもその弊害があったのだ」とあります。スタックランキングは社員をランク付けして社員間の競争を生み出すものですが、この仕組みを否定しています。この仕組みは少数の社員を必ず「成績が悪い人」に指定しなければなりません。

私がかつて所属していた企業の一つでもこの仕組みが導入されていました。成績が悪い人の報酬を下げたい企業の考えは理解できます。期末前後で大概「不正」が発生していました。業務手法にも不正を発生させる要因があったのですが、「成績が悪い人」になると給与がガクンと下がりますので、それを嫌がり不正を起こす社員が発生するのです。

本書では成績が悪い人が本人の資質であるのか否かを客観的に証明できねばならない旨を述べられています。スタックランキングを導入するなら、社員の能力の定義を客観的な指標に基づき、さらに全員がその指標に同意せねばならないのでしょうが、それを実現する方がよほど難しそうです。

第九章 学習する組織を築こう

この章では前述した優秀な人材のノウハウを他のメンバーに移植させよ、の具体的な内容が述べられています。その背景に企業のトレーニングの大半は的の絞り方が不十分でふさわしい人物に指導をさせず、成果などを測定する基準が間違っている、とあります。外部から招致するなら、自社の優秀な社員を指導役にした方が全然マシということです。

そして教える側も、他のメンバーに自らのノウハウを教えることでさらに成長するからと述べられています。体系化、再現性を備えたノウハウにするには言語化能力も必要です。しっかり自分の成果を振り返ることでこれを成し、自らのスキルとして定着もできるでしょう。

第十章 報酬は不公平でいい

この章では報酬に大きな差があってかまわない、と述べられています。前述した通り極めて優秀な社員には高い報酬を払うべき、とつながります。

一般的な企業では役職や能力のレンジに応じて給与が決められています。極めて優秀な人材は会社にもたらした利益が極めて多くても、その対価として得られる報酬はレンジ内になります。前述の通り働く動機は内発的動機によるべきですが、極めて高い成果にはそれに対して公正に報酬を支払うべきでもあります。インパクトに対する報酬があまりに低いと優秀な社員が組織を去る動機になってしまうからです。

加えてその評価となるプロセスも、公表し他のメンバーが活用できる状態にせよと述べられています。プロセスが非公開では他のメンバーの嫉妬の嵐が起きるからです。

報酬の内容はお金がわかりやすいのですが、本書ではその後の生産性の高さを鑑みるとお金ではなく、「高い価値の体験」とあります。一例では高額な旅行です。これは日本でもたまに耳にしますね。グーグルだと額の桁やレベルが違うのでしょう。

第十一章 タダほど素敵なものはない

この章ではグーグルの人事プログラムの大半は真似できる、とあります。

グーグル創業者の言葉として「会社は人がいなければ存在できない。経済状況が厳しくなると利益率を維持しようと必死になり、労働時間や福利厚生を削減する。社員は仕事があればましと思い、仕事は惨めなものとなる。そして景気が上向くと、会社を辞める人が急増していく。無料の食事、医師の診察、多くの独自の福利厚生を社員に提供している。福利厚生は社員の相当な時間を節約し、健康と生産性を向上させる。この分野は些細な負担を惜しんでも大金を無駄にするものだ」とあります。

グーグルの福利厚生プログラムの目標は3つ。効率を高め、コミュニティを形成し、イノベーションを促すこと、とあります。

内容と社員の負担ありなしと、プログラムによる効果が本書では述べられています。例としては以下の通りです。
託児所     :会社負担多く、社員負担あり、効率性の恩恵
送迎シャトルバス:会社負担多く、社員負担なし、効率性の恩恵
無料の食事   :会社負担多く、社員負担なし、コミュニティとイノベーションの恩恵
マッサージ   :会社負担少ない、社員負担あり、効率性の恩恵
昼寝カプセル  :会社負担わずか、社員負担なし、効率性の恩恵
コンシェルジュ :会社負担わずか、社員負担なし、効率性の恩恵

他にも会社負担がゼロで、社員が立ち上げたプログラムも多数あります。例えば有機食品の配達サービスや、クリーニング、自転車の修理など。なので上述の通り大半は真似できる(コストがかからない)と言われているのです。

自社で丸々仕組みを構築することはできないにしても、日本国内には社食の仕組みの代替となるサービスを提供する企業や(弁当配達ではなく健康訴求の食事)、コンシェルジュ機能のサービスを提供する企業があります。社員の生産性を高める為にあるサービスと言えるでしょう。

社員の生産性向上を支援すると、結果として社員の定着率も上がっていると本書では述べられています。グーグルが導入しているサービスならば何でも良いとは申しませんが、「データで判断」を是としている同社が導入している内容であれば生産性向上寄与に一定の信頼ができるでしょう。

一旦導入すると仮にプログラムを止める時にハレーションが起きると懸念する人事担当者もいるようですが、これには社員へ「価値が証明されたら」継続すると事前に伝えておけばよい、とされていますので、導入後効果が無ければ止めればよいので、自社でインフラを抱えるなど高コストとなる施策以外はリスクをそれほど考える必要はないでしょう。

一点注意をしないといけないのは、本書でグーグルが生産性向上に寄与しているとは発信していない内容が主となるアウトソーシングサービスもありますので、従業員一人当たりの料金で選ぶのではなく、生産性向上にどれだけ寄与するかといった視点でサービスを選ぶ事が重要です。

福利厚生プログラムに加えて、社員が一番必要としている時に寄り添うことの重要性も述べられています。社員が仮に亡くなった場合の遺族への補償や出産後のフォローです。一定の社員数の規模であれば、こうしたケアに対するコスト増は微々たるものでしょう。

第十二章 ナッジ/選択の背中を押す

「ナッジ:さりげなく働きかけ行動をうながす」
人間は自分を理性的と思っていても、実際はそうでない場合が多い。何も知らないまま、環境や他人、あるいは自分自身の無意識に誘導され、翻弄されている、とあります。人間は自分が思っているほど「一貫性」がなく、客観的でも公平でもなく、自分を正しく認識できない。だからこそ会社や組織がよりよい意思決定を手助けできる余地がある、とあります。

ちゃんとした判断をしてもらう為に、誰かがちょっとしたアドバイスを添えてあげるといいよ、と言うことです。押し付けがましくすると聞いてもらえにくいので、本人の意思を尊重してあげることが大切です。

以上のようにそれぞれの施策実施の目的や手法は驚くような内容ではありません。言われてみれば当たり前ではないか、と言うような内容がほとんどです。

本書の文中にはなぜそれをするのか、データや論文といった「FACT」に基づいて説明されています。多くの人が納得しやすく説明されています。思いつきや直感を全否定するわけではありませんが、データを無視して直感で判断された内容がもたらす未来は不幸の確率を高めます。

日本人一人当たりの労働生産性の低さが問題となっている昨今、本書がその解決の一助になるのではとも思いますので、是非ご購読ください。


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