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センスメイキング理論 良書 世界基準の経営理論より

「センスメイキング理論」

「未来は作り出せる」は、決して妄想ではない。VUCAが加速した昨今にちょっとした希望となるかもしれない「センスメイキング理論」についてまとめてみました。

『世界標準の経営理論』 入山章栄著 ダイヤモンド社  第23章より

この書籍の第23章「センスメイキング理論」を拝読しての結論は、当理論を理解して、「まずは行動、そして振り返る。それを何度も繰り返す。これが今持つべきマインド」ということです。

図1

1.センスメイキング理論とは何か。

利害関係者に「腹落ち」「納得」感を与え、彼らに行動してもらうための理論です。
組織のメンバーや利害関係者が、やるべきことついて納得(腹落ち)し、行動に移すためのプロセスを説明する理論です。

本理論は組織心理学者:カール・ワイク氏を中心とした学者の方々による理論です。

センスメイキング理論は精神論ではありません。組織心理学者の方々が長年研究し続けている理論です。そして完全な体系化まではまだされていない発展途上の理論でもあります。

本理論に注目(ハッとした)した背景は(一部本文を引用していますが)先の見通しが難しく大きな変化が起き続けている世の中で、
・「イノベーション」
・「組織学習」
・「ダイナミック・ケイパビリティ(企業の変化)」
・「リーダーシップ」
・「意思決定」

などに影響を与えるとされる本理論を学ぶことは、組織の意思決定に伴う行動の成功確率を高める。

そして新しい価値を生み出したりする力になり、そして本理論のエッセンスは現在の日本の大手・中堅企業に最も欠けているのではないか(もっというと残念ながら自分が所属していた全ての会社と組織)。という文章が頭に浮かんだことによるものです。

2.センスメイキングの概要(全体像)を理解する。

センスメイキング理論の全体像は、相対主義を前提としています(相対主義や対となる実証主義は後述)。主体(自分)と客体(周囲の環境)の関連性について、動的に循環し続けるプロセスとしてこの理論の全体像をとらえます。

図2

プロセスは三段階存在します。
1) 環境を感知する
ここでいう環境とは新しい、予期していない、混乱的、先行きが見通しにくいという状態を指します。

環境はさらに3分類に分かれます。
① 危機的な状況の発生
市場の大幅な低迷、ライバル企業の攻勢、急速な技術変化、天変地異、企業スキャンダルなどに直面した状況。まさに2020年現在の世界情勢といえます。

② アイデンティティへの脅威の発生
自社の事業・強みが陳腐化して「方向性」「存在意義」が揺らいでいる状況。DXを他社が進める中それができないかったり、そもそものミッション(存在意義)が世間に求められるものではないという状況にある組織がこれにあたりそうです。上述の通り筆者の職場がこれにあたるという偶然が発生しました。

③ 意図的な変化を起こす
新事業創造やイノベーション投資をする状況はこれにあたります。

上記3分類は現在多くの組織が直面しているケースでもあり、そうでない組織も今後直面する可能性が高い要素です。

このような環境では①と②の認識も重要ですが、③の状況を意図的に起こし、自身が変化していくことが長期的な生存に向けて望ましいと考えられます。なぜなら過去の資産が陳腐化する恐れが強いからです。

2) 解釈を揃える
ここでの重要なワード:多義性(=意味合いが多様になるということ)
相対主義を前提とするセンスメイキングでは、人は自身の認識フィルターを通してでしか物事を見られないという人の一面も内包します。

同じ環境でも人により感知した環境をどう解釈するかで、意味合いや理解の内容は異なります。すなわちこの世は多義性であるということです。

この多義性はVUCAとよばれる現在ではより顕著に発生すると考えられます。確実と思える情報を得ることは誰にでも難しく、今直面している事象に対する経験も誰もが少ない。

今何が起きているか、問題の原因は何か、何をすべきか、などについて絶対的な解はないとも言えます。そのような状況では利害関係者が集まる集団(企業)として、限りある資源を効果的に活用する為にも、利害関係者それぞれが持つアイデンティティとその揺らぎ(バラツキ)への対応をせねばなりません。以下はその一例です。

ソニー(グループ)の社員はかつて自社を「イノベーション」「エレキ」など特徴付け、統一された特徴がない時期がありました。「ソニーとは?」に対する回答が異なっていた状態です。

社員それぞれが多義的に特徴をとらえることは間違いではありませんが、組織の資源を効率的に活用せねばならない状況(例えば危機的状況)では、組織を一つに束ねて力を集約すべきである考えることも重要です。ここではアイデンティティを揃えることが重要ということになります。これを成すプロセスを「組織化」と呼びます。
(書籍には記載されていませんが、組織化は特定人物にとって都合の良い解釈を利害関係者に押し付けた結果、同質化や同調圧力を生じさせる、ということではないと考えます)

ここで組織やリーダーに求められるのは、利害関係者に生じる多様な解釈から特定のものを選別し、選別された解釈に意味づけをし、周囲にその意味を理解させ、納得・腹落ち(センスメイキング)してもらい、組織全体での解釈の方向性を揃えることとなります。ここでの重要な力は利害関係者に生じる「納得性」です。

取り巻く環境が多様であるように見え、自らの認識できる範囲で状況理解ができない中では、人は現状を良き方向に導く為に納得性の高い情報を求め、結果として現状打破を実現し、将来に対する期待が生まれ、そして行動に移行することが理想と考えます。

この状況でのセンスメイキングのコンセプトは「正確性」よりも「納得性」の方が人や組織に行動や学習を促す指針になります。

行動を起こす際に注意すべきは、事象を理解するために実証主義・相対主義両方の理論を使い分けることです。どちらかの理論が絶対解ではないと認識すべきです。

客観的な分析が重要な場合は実証主義に基づき結論を導きます。客観的な情報(データ)が取れない(例えるなら新規プロジェクト)場合には相対主義(認識的相対主義)により結論を導くという、使い分け(バランス)が必要です。

事象を人がどのように理解するかは、その人の思考のフィルターを通した結果となり、人によりどう受け止めるかということで千差万別となります。

実証主義に基づく事象の理解は、一つの事象(実証した結果)を分析し理解することにより「客観的に正確に分析した実証結果は、誰にでも共有できる普遍的な真理・真実である」となります。

反対に相対主義は「物の見方・認識は主体と客体の相互依存の関係で成立するという」考えを取ります。人の考えや理解は、その人の周辺事象が絡み合う結果として存在するものであり、その人単独で実証されるものではありません。

様々な事象と相互に関係し依存し合うことで、人は事象を理解し、その結果得た認識がその人のフィルター(コンテクスト、文脈)となり、物事を認識できるようになります。

自分の行動結果と経験から、人は物事を認識判断するようになるということです。これを認識的相対主義といいます。

知識を頭に入れた時に、知識に関連する経験があると理解がしやすく(組み合わせにより間違った理解の危険もありますが)、未経験の事柄に関連するとなかなか頭に定着しにくい、記憶に残りにくいというのもこれによるものと考えます(これも自身の経験)。

通常事業環境を分析する場合、実証主義を前提とします。ただしVUCAの時代にはその手法が正解とはなりにくい可能性が高くなると考えます。その為現状把握し、何をすべきか考え、大まかな方向性を出し、それに意味を与え、周囲に納得させる言葉をかけ、全体の足並みを揃えることが重要となると考えます。

そして周囲を納得させ行動に移してもらうためにリーダーが発する「ストーリー」が重要となると考えます。

この状況で求められるリーダー像は、ストーリーを語り、腹落ちさせられる技術を持つ必要があります。
一見感覚的とも思えるストーリーテリングは、海外のコミュニケーション論や経営学では多くの研究蓄積があります。

資金調達という分野においても有効であるようです。投資家は多義的(それぞれ立場が違う)であるので、自社を理解してもらい、多くの資金を調達するためには投資家の解釈を揃える必要があるからです。

加えて最終的な投資判断は納得できるストーリーがあるかるかないかで決めるという投資家も多いようです。事業計画が真っ当なものよりクレイジーなものに投資される事例などの事例記事などもあるようです。

上述のソニーは自社のことを「感動会社」と定義しています。ソニーは何のための会社か、という問いに対して解釈を集約し、それぞれの事業分野で消費者に感動を届ける会社として定義をしました(2012年社長就任の平井氏)。その結果としてセンスメイキングが進んだようです。

3) イナクトメント(行動)
センスメイキング理論では「行動」が重要な要素となります。多義的な世界では「何となくの方向性」により行動を起こし、周囲に働きかけることで、新しい情報を感知して行動を進めていくという循環が有効とも考えられています。周囲(環境)に行動をもって影響を与える(働きかける)ことを、イナクトメントといいます。

予想外の事態が起きた瞬間に冷静に現状分析をする余裕はありません。必死の行動から事態を乗り越えた後に、事態の全容を振り返り必死の行動を納得(センスメイキング)します。この行動を「レトロスペクティブ(振り返り)・センスメイキング」といいます。

熱せられた鍋を素手で掴んだ瞬間に人は条件反射で手を離します。冷静にあと何秒触るとやけどをするから今すぐ手を離すべきであると状況分析してから意思決定をする(手を離す)人は恐らく極少数でしょう。

緊急事態を乗り越えたこととは、その人が何らかの行動を起こし、特定の方向(何となくの方向)に進み事態を解決したこととも言えます(センスメイキングして実現)。行動しなければ周囲(環境)は変わりませんし、センスメイキングの機会も発生しません。

まずは行動することで人はセンスメイキングを続けられます。

危機的な状況下などではセンスメイキングは組織に多大な影響を与えます(マイナスも当然あるはず)。
一般的にセンスメイキングの高まった組織ほど、極限な事態でも、それを乗り越えやすくなることをカール・ワイク氏はじめ多くの学者が示しています。

1987年ハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載された「ストラテジー・クラフティング」:ヘンリー・ミンツバーグ氏によりますと、

「新規事業の計画も、まず初めにはとにかく行動し、次第に大まかな方向性が見えてきて、形になっていく」としています。

一時期のサントリーのように「やってみなはれ」精神にも通じます。これは緻密な環境分析(実証主義)との対極にあります(それでも環境分析はできる限りやるべきであり、どちらかの理論に偏るというのは危険と考えます)。

センスメイキングの重要な示唆の一つとして、「冷静で客観的だったら不可能だったことを、できると思い込むことで実現してしまう効果がある」ことが挙げられます。

センスメイキングには「大まかな意思・方向性を持ち、それを信じて進むことで、客観的に見れば起きえないはずのことを起こす力を人は持つ」という要素があると考えられます。この要素を自己成就(セルフ・フルフィリング)といいます。

優れた経営者やリーダーが組織、周囲の利害関係者のセンスメイキングを高めれば、客観的に見て起きえない事態を社会現象として起こせるという「未来を作り出す」ことも可能です。

必要なのは、多義的な世界で「未来へのストーリーを語り」「周囲をセンスメイキングさせ」「足並みを揃え」「周囲に働きかけて」「まず行動する(イナクトメント)」ことですね。

3.センスメイキングに必要な要素とは?(7大要素)

1)アイデンティティ:センスメイキングはこれに基づく
2)回想・振り返り:センスメイキングはこれ無しには成立しない
3)行為:行動により周囲に働きかけ、センスメイキングは成立する
4)社会性:他者との関連性があってセンスメイキングは成立する
5)継続性:繰り返されるプロセスの循環によりセンスメイキングは成立する
6)環境情報の部分的感知:個人の認識は全体の一部ではないと認識すること
7)説得性・納得性:人は正確性では動かない

書籍には記載されていませんが、センスメイキングの要素には行動を指揮するリーダーに「透明性」が欠かせないと考えます。仮に立件されていないとしても不誠実(不正)な事業を推進するリーダーは世の中に数えきれないほど存在するでしょう。

そのようなリーダーの行動に巻き込まれる利害関係者は意図せず不誠実な事業を推進する仲間となってしまう。それが利害関係者の望むことか否かは疑問となるところです。

参考:2019年に株式会社KPMGが実施した日本の企業の不正に関する実態調査では、2018年6月末時点の全上場企業3,699社(REIT、外国企業、日本銀行除く)に対して直近3ヵ年を調査対象期間として実施し、429社から回答を入手(回答率約11.6%)とあります。回答企業の32%が程度の差はあれ不正事実があったとされています。
合わせて仮に未回答の企業が全て回答していた場合、この比率(32%)は大きく上がると考えます。
ここで回答しなかった企業の属性は大きく分けて2つになると考えます。

・「調査依頼に気がつかなかった」

・「企業名が伏せられるとしても不正の事実があると回答することができない」

未回答企業全ての企業が調査依頼に気がつかなかったのであれば不正の割合は調査結果と変わりませんが、その事実は「恐らく」無いでしょう。故に多くの企業が回答したら不正比率は32%以上(比率は大きく上がる)ではと記載した次第です。

上場企業と非上場企業では比率に大幅な変動の可能性もありますが、不正の実行者は「人」である前提を鑑みると変動要素として企業規模を加味はしなくても良いのではと考えます。

多くの企業で不正は大なり小なり発生している可能性は高いので、リーダーはその主体となっていないことがセンスメイキングを進める上で必要だと考えます。

4.まとめ

相対主義がセンスメイキングの前提となりますが、上述の通り実証主義を疎かにしてよいとは考えません。俯瞰視点で全体を観察してまずは行動に起こし、その途中で意思決定の軌道修正が必要かどうか検証。状況を細かく観察し正確に把握し、適宜修正して成果に結びつけるという、視点の移動の連続が重要だと考えます。

少なくとも定量評価をしないということは、経営者が説明責任を問われる企業ではありえません。

極めてシンプルですが、まずは行動、そして振り返る。それを何度も繰り返す。これが今求められるマインドではないかと考えます。

参考文献
世界標準の経営理論 入山章栄著 ダイヤモンド社  第23章

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