御手々ぽんた
このはに乗りそうな掌編を集めて。
僕はディスプレイに獲物の影が映らないか気にしつつも、突然響いたアナウンスが気になってしまって仕方ない。 「スキルゲージが、貯まった?」 僕は先程までコバモのディスプレイに表示されていた見慣れないゲージがなくなっていることに気がつく。 「もしかして、あれがスキルゲージだったのかな。でもそれじゃあ、スキルポイントって何?」 僕のそのフレーズが起動キーだったのか、コバモのディスプレイに突然現れる文字の羅列。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ スキルポイント:
僕は次のアラートが鳴るかと身構える。 いつもは、もっと、もーっと獲物は大量に出てくる。逃げる獲物に、やんちゃで攻撃してくる獲物。形も動きも、夢の中の獲物は色んな種類がいた。さっきまでいた機械仕掛けのケンタウルスは、初めて見たけど動きものんびりしていて、夢の中のどの獲物よりも、よわっちいかも。 色んな獲物達を、最小の動きで狩り尽くす。夢の中ではね。早く終わらせたいし。僕も、コバモも、すっかりそれに慣れているんだけど……。 待っても待っても次のアラートが鳴らない。ど
「コバモ? コバモっ!」 僕はコバモの名前を呼びながら、見慣れたコバモの脚にひしっとしがみつく。不思議とコバモがここに居ることに疑問は覚えない。 夢の中で見たのと全く同じ姿。 何度もペタペタと触ったのと同じ、金属とはちょっと違う感触が手のひら、そして抱きついた全身を通して伝わってくる。 くるりとこちらを向くコバモ。 そのまま僕に覆い被さるように、その脚を広げ、お腹を近づけてくる。 僕の視界を覆うコバモの影。 閃光。 そして遅れて響く爆音。 コバモに
「君がここらの穴蔵の石売りさんかい?」 「うん、そうだよ。何かお探しですか。」 「若いのにお手伝いなんて偉いねー。」 「うちの穴蔵は働き手はみんな石掘りしてるから。」 「そうかいそうかい。ところで、天然の宝石は置いているかい?」 「宝石だなんてとんでもない。そんな禁制の物は置いてないですよ。うちは由緒正しい溶岩石掘りなんです。」 「そうかそうか。それは悪いことを聞いたね。じゃあこれを3つ貰えるかい?」 「まいどあり。お代もたしかに。」 「ちなみにこれは何時間ぐ
今日も夢の中でコバモと遊んでいた。 「疲れちゃったー。『おしまい、コバモ』」 僕はコバモに休憩しようと呼び掛ける。 ゆっくりと脚をまげ、お腹の入り口を開いてくれるコバモ。 僕はピョンと飛び降りる。 「コバモ、お茶にしよ。」 僕がそう言うと、周囲の弾痕だらけの建物や道路がゆっくりと地面の下へと沈み込んでいく。 かわりに、テーブルが一つ、そして椅子が二つ。地面からぬるぬると現れる。 一つの椅子は僕のお気に入りの形。むかーし、家族でキャンプに行ったときの
ネットで文章を読む楽しさには、それを探す楽しみが結構な割合で付随している、気がする。 自分の限られた時間をベットして、目についた中からこれだと言うものを読み始める。 そこには、色々な出会いがある。 面白くてするすると読み続けてしまうもの。 そっとブラウザバックするもの。 面白いけど、読むのは今じゃないなとブクマだけするもの。 賭けている時間が貴重であればあるほど、面白い物に出会えた時の喜びも、ひとしおだろう。 それはその文章自体の面白さにプラスアルファ
照り返す日差しのなか、2学期の始業式も終わり、僕は星凪と一緒に帰っている。 ぬるまった風がとてとてと二人の間をすり抜ける。 彼女とは、転校した小学校で出会って以来の付き合いになる。親友、と言っても良いと思う。 「ねぇ、双波(フタバ)。」 「んー。」 「ニュース見た?」 「何のニュース?」 僕は歩きながら軽く指を振り、VR画面にニュース一覧を呼び出す。 「ああ、これ? タイで生まれた六つ子のパンダの赤ちゃんか。かわいいね?赤ちゃんは何でもかわいいけど、パンダ
ゆっくりと沈む意識。人をダメにする例のクッションに背中から沈み込んで行くような、ズブズブとした感覚。 (ああ、また。いつもの夢が始まる。) 夢の中なのに、段々と冴え渡っていく意識。 ゆっくりと指を曲げ伸ばし、開いた右の掌を見つめる。 いつからか、この夢を見始めた時に、いつも行うようになった動作。 (何故かこれをすると、その後は体を自由に動かす事が出来るんだよね) 視線をあげると、目の前にはいつもの愛機がいた。 パッと見は蜘蛛だ。 長い10本脚のある大
拝啓 お名前もわからぬ貴方へ。 はじめまして、貴方はいつもはどちらにいらっしゃるのでしょう。私は今、ローズティーを入れながら、この手紙を書いております。 いつも、すれ違いばかりでお会いすることもない貴方に、こうしてお手紙を書くのは、先生にすすめられたからです。 先生には、何度かお会いしたと伺っております。 先生曰く、貴方はとても繊細で、そのせいで内に秘めたものが爆発してしまうのだと、伺っています。 そうなってしまった原因の一端が私にもあると思うと、申し訳
「はい、もしもし?」 「おおっ、繋がった!オレオレ!」 「……」 「いや、だからオレだって!」 「オレさんなんて知りませんよ。ありきたりすぎません? 詐欺としてすら。」 「違うんだよ! オレオレ詐欺とかじゃないんだよ! オレはお前でお前はオレなんだよ!」 「何ですか、いったい。切りますね。」 「待った待った! 本当にオレはお前なんだって。ほら、試しに自分自身について、何でも質問してくれ! お前が覚えている限り答えるからさ!」 「……初恋の時期は?」 「聞かれ
漆黒のコートをまとい、黒いかばんを手に旅する男。 男の持つかばんは、大層不思議なもので、どんな大きなものでも、そのままの状態でしまっておける魔法のかばんでした。 しかも、命を持ったかばんです。当然話すことなど出来ませんが、持ち主が取り出したい物を理解することができました。 子どもの時にかばんを手にして以来、男は肌身は離さずかばんを持ち歩いてきました。 男はそのかばんで、行商の仕事をしておりました。 かばんも色々な国に旅する暮らしを楽しんでおりました。 東の
熱く蒼い世界で1つの箱を探す旅は続く 箱を乗り越え、7つの節の固い固い骨で出来た 彼女と出会う ゆっくりと興味なさげに、節を回して 軸をぶらさず、骨を組み換え 脇目もふらない、その行き先を 熱に浮かされた私は、ただただ見送ってしまう 唯一持っていた蒼い小箱を 中身も知らず、由来も知らず 捧げるように、かざして見せる 彼女のどこともしれない瞳に映ると信じて
地平線の果てまで青く、蒼く染まった空間 無数の箱が積み重なって、世界を覆う 一つ一つが熱を放ち その狭い隙間を縫って歩き回る たった一つの箱を探す旅 触れる度に手のひらに伝わる熱が やがて自身の熱と置き換わり 旅を続けるに従い 触れた箱の数が増える度に 熱く熱く耐えられなく それでもたった一つの箱を求めて 蒼き世界をさまよい歩く
1/27 俺のいる檻に、新顔がやって来た。田舎の片隅にポツンとあるここで、いつの間にやら古参となっていた俺の所にも挨拶にくる新顔。 そいつは俺の背中を見て、何ですかそれって言っていやがる。 こりゃあ、ムサシって読むんだよ。古くは武蔵坊弁慶から宮本武蔵まで、強い男の名さ。 俺の最初のボスが手づから入れてくれたのさ。 3/31 俺がこの檻に来てちょうど10年か。 この前の新入りに聞かれたよ。俺が何でここに入ったかってね。 ふん。野暮なこった。俺のボスも親
「どうしてこうなったの……。ここは安住の地だと思っていたのに。」 そんな私の思いなど知らず、覆い被さる黒い影は大きく口を開く。 赤い口蓋のなか、蠢く舌。そして鋭い牙が露になる。 振り下ろされる牙が、一気に私に突き刺さる。 私の身にまとう物など、その鋭さに、紙屑のように破れ。 抉りこまれた牙が、私の身体を削り取る。 柔らかい私の身体に、なんのためらいもなく、嬉々として突き刺される牙。 動かぬようにしっかりと押さえつけ、その真っ赤な口蓋を私の身体だったもの
あの人、今日も帰りは遅いのかしら。 義母と黒猫の夕飯の支度の時間。 楽しい楽しい料理の時間。 料理を始める時はいつも最初に塩の準備から始めるの。あの人が好きな岩塩を削るのよ。 男の人のこだわりって不思議。 この岩塩は風味が違うんですって。 義母もあの人の言うことなら何でもきいちゃう。食べるものは和食ばかりなのに。 いつも、頑張ってミルをまわしているわ。くるくるくるくる。 夕飯の支度が出来た。 義母にまず食事を出す。 次が猫。 私は最後。