こんなん クマさん じゃないぃー 【エッセイ:カフェ物語2】
「ポタージュスープはそのまま付けるとして キッズモーニングの
パンは 子どもが喜びそうな クマさんかカエルさんに変更しよう」
そう決めたのは
モーニング客を増やすための話し合いをしていたスタッフ会議でのこと
「簡単に作れる?」
「いやぁ、何年もパン教室に通っている私でも毎回同じ形にするのは難しいかなぁ」
「えっ、私にできるかなぁ」
パン作りなんてしたことのない私が
難易度の高いクマさんやカエルさんがつくれるのか
不安ではあったけれど
お客さんの数が見込めるようになるまでは
大量に仕入れるのも不安だし
パン教室に通っているスタッフは週2日の勤務しか無理だし
私がやるしかないか、、
「まっ、練習すれば何とかなる」
といつもの
"何とかなるでしょ精神"で進めてしまった
「パン作りは奥が深いでー」と脅されていたとおり
何度やっても可愛く焼きあがらなかった
≪おたふく風邪ですか≫っていうほど片頬が膨れ上がったクマさんや
目も口も無くなってしまったカエルさん
ひどい時には 中のアンコも流れだして
「これは餡パンです」というのも憚られるほどの仕上がりになることも
それでも何度かスタッフにレクチャーしてもらっているうちに
「まあ、大丈夫でしょう」と合格点がもらえるようになった
すぐにモーニング客が増えることはなかったが
子ども連れのモーニング客は キッズモーニングを注文してくださり
なかなかの高評価だった
「わぁー、かわいい クマさんだー」
、、なんて かわいい おこちゃま なのー、、、
「もう一個欲しいぃ」
、、やった もっと 頑張って おねだりしてぇ、、、
聞こえないふりして作業をしているが
厨房にいる私の耳はダンボのように広がり
一言も逃すまいとキッズの方に伸びていた
やっぱりクマさんやカエルさんにしてよかった
ちょっと難易度を上げて体まで作っちゃうか
なんて調子に乗っていた
だからってわけじゃないと思うのだけれど
急におかしくなってきた
≪おたふく風邪が≫大流行してしまった
何度作っても頬は膨れ上がり顔はあっちこっちに歪んでしまう
調子に乗っていたからこんなことになったのかな
初心に戻って丁寧に丁寧にと頑張っても
見るも無残に歪んでしまう
≪おたふく風邪≫を通り越して≪鬼の形相≫だ
どうしよう、、、
明日モーニングのお客さん 4組も予約入っているし
小さなお子さん連れみたいやし
≪本日はキッズが売り切れです≫
ってキッズモーニングを断るしかないか
でもオープンと同時に入ってきて売り切れはおかしいやろ
しかも予約までしているのに
どうしよう、、、
取り敢えず今日は時間の許す限り何度も焼いてみて
ましな形を準備するしかない
≪慣れ≫とは恐ろしいもので
≪鬼の形相≫を見続けていると≪おたふく風邪≫が可愛く見えてきてしまう
一人で作業していると
その大きな間違いを誰も正してくれない
私は
「これは いけるんちがう」
って満足して作業を終えてしまった
次の日
会心のパンが焼けたと自信満々の私は
微塵の不安もなく昨日焼いたパンをお皿に出した
スタッフの
≪あららっ、、、≫
という嘲笑を浮かべた口元に気づきもせず
いつものように
「わぁー、かわいい クマさんだぁ」
の声をいただきます と言わんばかりにダンボの耳を広げ伸ばした
「へっ、うそっ 泣いてる、、、」
「違う、こんなんじゃない クマさんがいいー」
「こんなん クマさんじゃないぃー」
って叫びながら大泣きしている
「えーっつ」
厨房の隅からこっそりのぞくと
幼稚園ぐらいの男の子が
おじいちゃんをバシバシたたきながら泣き叫んでいる
「ひやぁっ どうしよう」
「男の子も おじいちゃんも ごめんなさい」
昨日の会心のパンの中から 新しいパンと取り換えようと蓋を開けると
≪おたふく風邪≫が大流行していた
「なんてことなのー 会心のできなんて とんでもない
みんな おたふく風邪やん ってか これ"鬼"やん」
≪男の子もおじいちゃんも 本当にごめんなさい≫
そう心で謝りながら 全く聞こえないふりして作業を続けた
ー カフェ物語 3 に つづく ー
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