映画館に見えない映画館
小学生の頃、夏休みに入ると、ばあちゃんはよく映画に連れて行ってくれた。
ばあちゃんが映画好きなわけではない。ばあちゃんは、孫の映画好きに合わせてくれていたのだった。
連れて行ってくれるのは「ゴジラ」とかよくわからんアニメ。正直、家で「バックトゥザフューチャー」とか「インディジョーンズ」とかをみていた自分には幼稚に思えた物も多かった。でも、ばあちゃんと出かける映画館は楽しかった。
そんなばあちゃんの映画チョイスが、一度大当たりしたことがあった。流行りの映画「学校の怪談」を観に連れて行ってくれるというのだ。
(1995年 「学校の怪談」)
当時「学校の怪談」は小学生の間で大ブームだった。小学校の図書室の「トイレの花子さん」系や「学校の怪談」シリーズは、いつも貸出中でなかなか借りられない。普段のばあちゃんからは考えられない、夢のようなチョイス。
上映時間まで、映画館の近くにある喫茶店に入り、クリームソーダを飲んだりして過ごした。実はばあちゃんの目的はその喫茶店を経営する古い友人に会うことだったらしく、どちらかというとばあちゃんにとっては「学校の怪談」の方が「ついで」だったわけだ。
そろそろ、時間だ。ワクワクは止まらない。2歳年下の妹も、さすがに今日は寝ないだろう。二人でスキップしながら映画館に向かう。初めて行く映画館だったが、たどり着いてみてわたしは驚愕した。
「こ、これは」
見たことない感じの映画館だった。多分これは映画館ではなく何か他のものだったのだろうと、子どもながらすぐ気づいた。作られた当初は派手な格好をしていたのだろう、パチンコ屋みたいな、なんだかギラギラしたものを感じさせるが、ひどく汚れていて、ひどく寂れていた。映画じゃなくて映画館にお化けが出そうだ。
「本当にここで映画がやっているのか?ばあちゃんの勘違いではないか?」という考えが頭によぎったが、何も言えなかった。
不安すぎて何も言えない。
「ここは映画館じゃない!なんか別のものだ!」
そう確信していた小5のわたし。顔は引き攣っていたに違いない。
どんよりした気持ちで中に入ると、客席は子ども達でわいわいと賑わっていて、外観から受けたわたしのショックと不安は薄らいだ。どうやら本当にここで、「学校の怪談」は上映されるらしかった。
無事「学校の怪談」を観て家に帰って、今日の「映画館に見えない映画館の話」をオカンに早速話した。
わたしは幼い頃から、オカンにはなんでも報告する、よいこ、だった。
そしたら話を聞いたオカンが
「えぇ!? あそこ行ったの!?」
ひどく驚いている。
そこからのやりとりは忘れてしまったのだが、どうやらあの映画館はやっぱり普通の映画館ではないらしかった。
実際映画館ではあるのだが、「卑猥なタイプの」で有名な地元の劇場だったらしいことだけ、ふんわりと記憶している。
立ち行かなくなってから、日中は子どもの映画をやるとかして、繋いでたんだろうなぁ。
その劇場、今はもう無くなったみたい。