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どうか、海の向こうに幸あれ。

余韻が消えないので、お風呂に入った。Adeleの『Easy On Me』を繰り返し聴きながら。

湯船に浸かりながら思い出したのは、ある日突然いなくなってしまった人のこと。よく、仕事と仕事の合間に温泉に行っていた。周りには弱さを一切見せなかったけれど、自分の中で消化できないことがきっと沢山あったのだろう。


死ぬまでに絶対、Adeleの生歌を聴きたい。ハスキーで力強いが、繊細であっけなく壊れてしまうガラス細工のようにも聴こえる声。それは、曇りの日が多いらしい彼女の出身地イギリスにぴったりで、厚い雲の向こうに必ずある太陽を感じさせる。

歌詞の意味がわからなくても自然と涙が溢れてくる、そんなAdeleの音楽が大好きだ。『Easy On Me』も、込められた意味を頭に入れてはいないし、自身の「離婚」というテーマを理解したところで、めちゃめちゃ共感できるものではないと思う。

もちろん、Adeleのこれまでの歌には共感できるものだって沢山ある。でも理解や共感を越えて、理屈では言い表せない親しみを感じるのが、彼女の歌なのだと思う。

『Easy On Me』がリリースされた時、仕事での気ぜわしさがあった。「終わってくれてよかったな…」と、10日ほど経った今も振り返るが、当時は気持ちに余裕はなかったのだ。そんな中でこの曲のMVを観て、Adeleの歌声があればどんなことがあっても大丈夫!と思えた。今もその思いは変わらない。


イギリスの由緒正しいコンサートホール「ロイヤルアルバートホール」で行われたライブで、彼女はこう話している。

誰だって忘れたいことの1つや2つあるでしょう?

私はPTSD(心的外傷後ストレス障害)ではないから、トラウマ的なものはないと自覚している。普通に生きてる分には(?)いつも元気だ。でも、その時の疲れ具合ややってることの難しさによっては、普段は気にしないようなことでも、昔のことを思い出して怖くなることもある。今ひとりになれたらどんなに楽だろうと。

本当は、過去に体験したことと全然似ていないのに、少しでも思い出してしまうと「あ、目の前のこの人も、あっち側の人間なのか…?」と勝手に人をカテゴライズしてしまう。少し疲れてきた時の良くない癖だ。

この癖を治すには、自分の考え方を変えることしか方法がないのはわかっているけれど、正直まだ治すには至っていない。おそらく治せたとしても、生きていれば何が起こるかわからない。人生のステージを重ねていくたびに、どんどんと新しい記憶が積まれていき、過去に引きずられてしまうことは無くならないと思う。


そんな時はどうすればいいのだろう。「自分を100%絶対に裏切らない音楽を聴く」今はそれしか思いつかない。理屈では語れないほどの、趣味ではなくもはや信仰に近い、かけがえのない音楽を何度も聴くしかないと思う。

私にとってのそれが、Adeleなのだ。Adeleがどんな人生を歩もうとも、私の生き方がどんなに変わろうとも、耳から音が聞こえる限りは彼女の音楽を聴き続けるだろう。

あなたにはこれほどまでに大切な音楽がありますか?本でも映画でも何でも良いと思うのですが、一番即効性があるのは音楽な気がします。再生機器が手元になくても、メロディを口ずさむだけで新しい空気が少し、体の中を通るから。


「守ってあげたい」「守ってくれる」今は信じ切れたとしても、やがて絶望する時がくるかもしれない。「今までの苦労は何だったの」と、世の中の全てを壊したくなる衝動を、全て自分に向けたくなる時がくるかもしれない。

焼けただれ、燃え尽きそうな夜に、藁をもつかむ気持ちで再生する音楽が、君にありますように。愛が真実のまま終わりますように。届くわけなんかないけど、どうか幸せになれ。てか幸せにしろ。言えるもんなら言ってやりたい。


#思い出の曲


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