はなしちゃいけない
渋滞でハンドルを離していい車。
たまたま流れた広告。そうか、車のハンドルって離しちゃいけなかったか。
私がひたすら話しまくる横で、ラッコさんはずっと、ただただじーっとハンドルを握ってくれていた。
ラッコさんに守られた2人の命と仕事の愚痴が並行して、そのまま目的地に進んでいく。
肌に染みる冷房の微風に満足して、目を閉じて、開けたら着いた本屋。
この生活を手放したら。今に辿り着く前の、例えば去年の自分があのまま続いていたら。考えればぞっとする「もしも」が、腫れた虫刺されを掻き毟る。
全校朝会。結婚式のスピーチ。夜の始まり。みんなは黙りこくって何を考えてるんだろう。
校長先生の語るラシュワンは、本当は山下の急所を突きたかっただろうなとか、この結婚式のために遠路はるばる来て偉すぎる上司だな(金持ちだな)とか、気持ち良くなりたいとか、私はそんなしょうもないことしか考えてない。
話しちゃいけないことなんてこの世の中に存在しないし、話しちゃいけない場なんて意外と大したことないなと思う。何をいつどこで話したって、「へぇ〜そうなんだ」って返されるくらいなのだから。
ほとんどの車がハンドルを離せるようになるのと、何でも話しちゃう自分になるのはどっちが先か。
わかっているのは、今のこの生活の安寧と不穏の行ったり来たり。ただそれだけ。
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