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《概念の分解》化学農薬は悪いものなのか③-化学農薬使用量-


前回前々回と、化学農薬が悪いものなのかどうかを考える為に、前提と背景を見てみました。

簡単にまとめますと、
【食品の安全性】が脅かされ、日本国民に【食料への危機意識】が芽生えます。

この【食料への危機意識】に対するアンサーを、国民が求め、結果【オーガニック】という概念が生まれました。

この【オーガニック】は、アトピー性皮膚炎やアレルギー等とも繋がり、【健康】と【美容】を巻き込んで形を変えていきます。

当初は、【食品】に対してだけのアンサーでしたが、現在では【健康】【美容】だけに留まらず、【ベジタリアン】や【ヴィーガン】それに伴い【動物愛護】の要素まで持ち始め、一大ビジネスとして成長を続けるカテゴリとなっています。

ただし、この【オーガニック】という概念は、【単体】では存在出来ません。
極端な話をしますと、化学農薬と化成肥料が存在しない世界であれば、【オーガニック】という概念は生まれなかった筈なのです。

【善】という概念の対極に【悪】がある様に、国の維持の為の【大量生産】【安定生産】のカウンターカルチャーとして生まれたのが【オーガニック】であると思われます。

このオーガニックを推進する人々は、大量生産の象徴である化学農薬化成肥料を攻撃し始めます。

ビジネスでは絶対にやってはいけない、【同業他社(者)の批判】を行いました。
その結果、オーガニックは極端な思想とも捉えられ、オーガニック系農業は少し鈍化します。
しかし、慣行栽培とオーガニック系農業の対立を生み出した事も事実で、本来ならば共存できた筈の両者の溝は、今もまだ深いままです。

物事を白か黒0か100で見てしまう、我々国民の理解の浅さ、国としての若さを露呈してしまう部分もあった様に思います。

その後、大企業によって新しくブランディングし直された【オーガニック】は、ビジネスとしての看板に成り下がり、本質を無くしてしまっている様に、私には見えます。

しかしながら、本質を見つめ栽培を行なっている農家や農業法人も存在していますので、まだまだこれからどの様な形になるかは、未知数です。

今回は触れませんが、水耕栽培や養液栽培という言葉をご存知の方も多いと思います。
ご承知の通り、【土】を使わずシステムで徹底管理された栽培方法で、全国至る所で拡大しています。

この動きを含め、我々日本の農業は何処に進むのでしょう。
そして、化学農薬とは時代遅れのアイテムなのでしょうか。それとも必要なのでしょうか。

日本は主要国の中で、農薬使用量が多い国だという話を聞かれた方も多いと思います。

次章は、この【農薬使用量】を入り口に思考と事実の渦に飛び込んでみましょう。

日本の化学農薬使用量

世界と比較した日本の化学農薬使用量ですが、間違いなく多いと思います。

実際の信憑性が高いデータがないものかなと、ネット上で探していると、2018年の統計が複数のサイトで使われていましたので、それを参考にしました。

そのデータは、【農地面積あたりの農薬使用量】となっており、単位はha(へくたーる)、1haに化学農薬がどれくらい使われているのかの平均を、Kgで表していました。

農業の基本面積は10a(あーる)という話は、前回させて頂きましたが、1haは、10aの10倍です。
正方形にすると、一辺100mです。

1ha=100a=一町(いっちょう)=10,000平米(㎡)です。

この100m✖️100m程の面積に、化学農薬がどれくらい使われているのかと言いますと、
1位の中国が、13.07kg
5位のベルギーが、7.59kg
10位のスペインは、3.66kg
アメリカは意外な事に、12位。
使用量は、2.54kgです。

そして、我が日本はと言いますと、
残念ながら2位、使用量は11.84kg。
アメリカの5倍近い使用量です。
もちろん、各国の保有農地面積は全く違いますので、全使用量で言えば、日本がアメリカに勝る事はないでしょうが、1haあたりで見ると、世界トップクラスの使用量であると言えます。

日本以外の国が、農薬使用量の管理を細かく出来るとは思えませんので、実際の数値は各国とも上がるでしょうが、順位が変わる程ではないと考えます。

日本の化学農薬使用量は、世界の他の主要国に比べると多い。
これは間違いないとして、次に進みたいと思います。

何故、日本は化学農薬使用量が多いのか

現在、化学農薬使用量が多い=日本がおかしい、の様な捉え方が存在すると思いますが、なぜ多いのかの理由が分からないまま、結論を出すのは非常に危険だと思います。

残留農薬基準の緩和や、ラウンドアップ等の一部の国で規制されている農薬の在庫処分を日本が請け負っている等の話も、《何故、日本は化学農薬使用量が多いのか》を理解すれば、また違う方向から見る事も出来ます。

早速、考えていきましょう。

まず化学農薬が使用量が多い背景に、栽培技術が低いのではないかとの考えがありますが、これは違うと思います。
私自身、東アジアとヨーロッパの農業は見てみましたが、明らかに日本の栽培技術は高いです。
加えて、日本は衛生観念が冗談かと言うくらい高い国ですので、高齢の個人農家はともかく、普通の農家の農作物に対する意識も低くはありません。

産地は勉強家も多く、高価な化学農薬と化成肥料の使用を、どうにか減らしたいと創意工夫する若手農家も居ます。

ですから、【栽培技術が低い為、化学農薬に頼っている】【その結果、化学農薬使用量が多い】という捉え方は、除外して良いと思います。

次に考えたいのは、【使用目的】です。
これも、前回ご紹介しましたが、化学農薬の使用目的は幾つかありますが、その中で最も使用率が高いのが【殺虫剤】【殺菌剤】【除草剤】の3つです。

【虫】と【菌】と【雑草】に対応する農薬です。

これらは、当然【生き物】です。
そして、人間とは違い、自分達で住みやすい環境を作り出す事は出来ません。
密閉型の家もエアコンも加湿器も除湿機もありませんから、自らが好む【気候】でしか生息出来ません。

日本の種々が、アマゾンや砂漠では生きられない様に、彼らもまた自らの生存に適した場所でしか生きる事が出来ません。

その目線から見た場合、日本の気候は、非常に恵まれています。
気候は温暖で暑すぎず、湿度は高いですが熱帯雨林ほどでもない。
雪の季節はありますが、世界的に見れば穏やかな冬と言えます。(雪深い地域の方々、ごめんなさい。)

しかも、国土の7割は山です。植物の世界。
周りは、海に囲まれています。
大陸の様に、隣国から天敵や外来種が侵入してくる危険性も低い。

つまり、世界的に見て植物を含めたあらゆる生き物が生存 繁栄しやすい環境。

裏を返せば、農業を行う際に考慮しなければならない、【虫】【菌】【雑草】の問題が顕著であるとも言えます。

世界全体の有機農地(化学農薬化成肥料を使わない農業、自然保護区 養蜂区など)は、全農地の1.5%〜2%ほどで、割合が一番高いのがオーストラリア、次にアルゼンチン スペインと続きます。

この3カ国だけを見ても、場所はバラバラですが、湿度の低い乾燥気候です。
国土が広いので、国全体が同じ気候帯かと言えばそうではありませんが、農地は乾燥地帯に多く見られます。

世界的に見た場合、有機農地(オーガニック栽培が行われている場所)は、乾燥地帯がほとんどなのです。
乾燥地帯では、生命の源である水が少なく、通常の生物は生存し辛い。
よって、化学農薬を使う必要性が低いのです。

私がそれを目の当たりにしたのは、トルコでした。
トルコも国土が広く、場所によって気候は異なりますが、見学させて頂いた農場はどこも乾燥地帯。

近くに大きな川があり、雪解け水などで、ほぼ水に困る事はないと農場主が仰っていました。
日本での栽培で対応しなければならない、【虫】【菌】を尋ねると『見た事がない』との返答。
作物が植っている場所には、灌水用のチューブが通っており、近くの川から必要な時に必要な分だけ水が供給されており、それ以外の場所にはペンペン草も生えていませんでした。

衝撃でした。

その頃の私は、『これからの日本農業に、有機栽培(オーガニック栽培)は、必ず必要。特に過疎化した地域は、それに賭けるしかない。』と考えていましたので、【虫】【菌】【雑草】は少ない、水は豊富、湿度は低く作業がしやすい、という現実を突きつけられ、『日本では無理だ…』と、心折れかけた事を思い出します。

それでも挑戦しましたが、今は農業自体から撤退し、家庭菜園レベルの農を片手間で触っています。

主観が入りましたが、《何故、日本は化学農薬使用量が多いのか》の一つの理由は、【気候】。
これは、間違いないと思います。

次に、【栽培品目】を考えてみたいと思います。

【品目】は、キャベツやニンジン、米や麦など、栽培する作物の名前です。
似た様な言葉に【品種】がありますが、これはその品目の中の種類です。

例えば、【品目名】は[イチゴ]、【品種名】は[あまおう]といった使い方になります。


現在栽培されている作物は、当たり前ですがもともと野生です。
その地域に自生している植物や種を持ち帰り、栽培しやすい様に畑で育て始め、人の手なのか自然に偶発的なのかは様々でしょうが【品種改良】を行い、現在に至ります。

ですので、今我々が毎日食べている作物達には、遠い昔の世界の何処かに【生まれ故郷】がある訳です。

その作物の生まれ故郷に住む人々が、畑や栽培しやすい環境で育て、種を取り、その種が世界中に広まっていき、広まった先でまた品種改良が行われ、あるゆる場所で栽培される様になりました。

しかし、世界中何処に行っても栽培出来る植物というのは、あまりありません。
コーヒーの木が日本では自生出来ない様に、紫蘇がヨーロッパには無い様に、動物と同じく【その土地】の【気候】に合わせて【進化】してきた【植物達】を、【違う気候】で育てようとした場合、【人の手】による【管理】が必要となります。

動物で例えれば、日本の動物園の白クマやペンギンが、【人の手による管理】が無い状態で日本の自然に放された場合、生きていけるのかという話です。
F1種子ではない海外原産の種を、日本の山に蒔いたとしても、発芽すらしないのではないかと思います。(セイタカアワダチソウの様な、外来種が日本に定着する例外はあるにせよ)

いくら品種改良が進んだとしても、もともと持っている性質は、ほぼ変わりません。
湿地帯生まれの植物は水分を必要としますし、乾燥地帯生まれの植物は水分が必要以上にあると、うまく育たないのです。

ですから、基本的に【農業】という仕事は、日本なら日本、フランスならフランス、その国もしくはその地域【原産】の植物を育てた方が、栽培はしやすいのです。

事実、ヨーロッパの国々は、東アジア原産の作物を栽培しているかというと、ほとんどしていない筈です。
しかし、東アジアはヨーロッパや南アメリカ等の遠く離れた国々原産の作物を栽培します。

日本に至っては、コーヒーやバナナまで栽培に成功してしまう程、訳の分からない情熱を燃やし続けています。

もともとその国に存在しない植物を栽培するには、その品目の【生きていく為の】【条件】を【調べ尽くし】、【それを再現し(温室等で)】【テストエラー】を繰り返して繰り返して、それでも可能か不可能かは分かりません。

作物を栽培するだけであれば、【その地域】に合った【育てやすい】【品目】を扱うべきです。
リスクもコストも、最も低くなります。

しかし、古来より変態的な情熱を有する日本人という種族は、難しい事に挑戦するのが好きなのか、はたまた面白いだけなのか難易度が高い作物を栽培し、また料理の世界も似た様な情熱で、和洋中に留まらず、韓国 フランス イタリア メキシコ タイ ネパール ロシア等々、様々な国の料理を自分なりにアレンジし、日本に定着させます。

世界を見れば、様々な国の料理を高いレベルで楽しめる都市など、ほとんど無いでしょう。
それを料理のプロだけではなく、家庭でも行うのですから、日本恐るべし…。

日本の家庭で『今夜はボルシチ!』はあり得ますが、ロシアの家庭で『今夜は豚汁!』なんて事は、あり得ないよねって話です。

この多国籍な料理文化が根付いている事も含め、日本で栽培されている作物は、【海外原産】のものが、ほとんどです。
日本原産で栽培されている作物は、僅かです。
(変な国!)

逆にヨーロッパやオセアニア、アメリカ大陸などは、穀物含め原産か原産に近い気候で栽培されています。

要するに、日本では作り辛い作物を、日本人は大量に作っている訳です。(変態!)

作り辛い作物を作るには、化学農薬化成肥料始め【人間のサポート】は、必要不可欠です。
日本生まれ日本育ちのDNA日本人が、インドに行く際と同じです。
ワクチンを打ち、胃薬を持ち、生水は絶対に飲まない訳です。
ところが、同じ生水を現地のインド人が飲んだとしても、彼らはお腹を壊す事はありません。
つまり、そういう事です。

話が逸れましたが、この【栽培品目】も、大きな理由の一つだと思われます。

最後に考えられる理由としては、【見た目】ではないでしょうか。

日本の場合、各品目の産地からは農協経由で出荷される事がほとんどです。
農協では、サイズ 見た目 果実ならば糖度なども【選別】され、それに応じた価格で取引されます。

この【選別】が厳しい理由は、運送コストの低減と消費者の意識があり、例えばキュウリの様な形状の野菜であれば、曲がったキュウリより真っ直ぐのキュウリの方がダンボール等の運送時の箱に数が多く入ります。
消費者の意識は、単純に綺麗な物の方が売れやすいという話です。

農薬を使ったから真っ直ぐのキュウリになるという訳ではありませんが、見た目を綺麗にするという事は、虫や菌の被害が少なかったという事ですので、化学農薬を使った方が確実な訳です。
見た目が悪いだけで、値段が安くなるシステムですので。

その他の理由も、書きながら考えているのですが、今のところ浮かびません。
加筆する事もあるかと思います。

ともあれ、一旦切ります。
《何故、日本は化学農薬使用量が多いのか》は、
【気候】【品目】【見た目】、この3つの理由が大きいと思われます。

発ガン性

日本の化学農薬使用量が多いという事実と、その理由を書いてみましたが、次は農薬に対するマイナスのイメージを最も大きくした《発ガン性》について、考えてみたいと思います。

一般的に考えれば、『発ガン性がある薬を使って作られた作物は食べたくない!何故、日本は使うの!?』と考える方は多い筈。

中にはアレルギーや他の疾患も、残留農薬が原因だと考える方もいらっしゃるでしょう。

考えていきます。

現在の日本では、次々と失効する農薬つまり製造を終了する農薬が増えています。

『一昔前に比べると効き目が弱くなった…その分農薬を使う回数が増えた…』と嘆く農家が居るほど、強力な効果を発揮する成分を含む農薬は、製造中止になっています。

強力な効果を発揮する農薬とは、言葉通り虫や菌といった生き物を殺す効果が高い訳ですから、当然人体にも良い筈がありません。

私が就農した15年ほど前、『昔の農薬はキツくてな!使った後は、顔が腫れよった!(笑)』と無邪気に話すお年寄りが居ました。

戦後本格化した化学農薬化成肥料をベースとした、慣行栽培ですが、当初は研究が追い付いていなかった事と、世界全体が安定しているとは言い難い状況だった為、便利な化学物質や元素が人体や自然環境にどの様な影響があるのかを完全に把握はしていなかった様に思います。

アメリカのラジウムガールズや、日本の水俣病 イタイイタイ病等々、化学物質や元素が社会で使用されていく中で悪影響が見つかり、見つかる度に社会問題となり是正されていく事を繰り返していました。

場合によっては、悪影響の規模が小さい段階で無かったことにされたケースもあるでしょう。

時代が進むにつれ、そういった専門の研究機関や国連等の整備が進み、現在では対応は万全とは言えないまでも、チェック機能は正常に動いていると思います。

発ガン性に関しては、民間を含め研究を進めている機関が存在しますが、最終的な結果は【国際がん研究機関(IARC)】がまとめています。

IARCは、【世界保健機関(WHO)】の専門機関の一つで、【その物質】に【発ガン性】が【あるかないか】を、【4つ】のグループに分け分類しています。

次章では、2015年に【グループ2A】、【ヒトに対しておそらく発ガン性がある】に分類された、【グリホサート】という成分を使用した除草剤【ラウンドアップ】の例を見ていきたいと思います。

今回も、最後までお読み頂きありがとうございました😊

次回も、よろしくお願いいたします。


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