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《概念の分解》化学農薬は悪いものなのか④-完-

こんにちは🌞
今回も、よろしくお願いいたします。

《化学農薬は悪いものなのか》4回目です。
予定であれば、前回で終わりだったのですが、話を脱線する悪いクセが出てしまい、今回までズレ込みました。
ご容赦ください。

1回目は、化学農薬=悪という概念が生まれた経緯、2回目は、農業の前提、3回目は、日本の化学農薬使用量が多い理由の考察を書きました。

今回は、前回の終わりにお伝えした通り、化学農薬のイメージを決定付けたと言っても過言ではない【発ガン性】に関して、【ラウンドアップ】を例に書いていこうと思います。

ラウンドアップとカリフォルニアでの訴訟


【ラウンドアップ】とは、除草剤の商品名です。
数年に一回モデルチェンジをしており、現在の商品名は【ラウンドアップ マックスロード】。

アメリカのモンサント(現バイエル)と言う会社が開発販売しており、作物の成長を阻害する雑草を枯れさせる目的で使用されます。
日本や他の国々でも、農業用としての使用の他に、個人のガーデニング時や空き地の雑草に対しても使われます。

時間もお金もかかる草刈機での処理より、圧倒的に楽な事から、世界中で使用されています。
日本では2002年に日産化学工業がライセンスを取得しており、日本国内での製造販売も可能となっています。

このラウンドアップですが、有効成分の名前が【グリホサート】。
植物の葉面等から吸収され、その植物の栄養素合成を阻害し枯れさせます。
非選択型除草剤ですので、触れた植物は全て影響を受けます。

ラウンドアップが一番有名な商品名ですが、有効成分がグリホサートである別の商品もありますので、気になる方は商品の成分名を確認してみて下さい。

ですので、問題となったのは、正確にはラウンドアップではなく、この【グリホサート】と言う成分です。

2015年、前回ご説明した【国際がん研究機関(IARC)】が、【グリホサート】をグループA2【ヒトに対しておそらく発ガン性がある】に、分類します。

この決定を受け、2019年アメリカカリフォルニア州で『自分達はラウンドアップを使用した結果、ガンになった』という夫婦が訴えを起こします。

結果、カリフォルニア地裁は原告側を支持。
当時の円換算で、モンサント側に約2200億円の賠償金の支払いを命じます。
(当初この訴えを起こした人々は2018年から複数人居ましたので、賠償金の支払額等は、それぞれ異なります。)

モンサント側は、『グリホサートの安全性には科学的根拠がある』として、控訴しました。

日本の有識者や化学農薬反対派の方達が扱う情報は、ほとんどの場合ここまでです。

しかしながら、この裁判には続きがあります。
(2018年に、米モンサントは独バイエルに買収されますので、モンサントとバイエルは同じ会社だと考えて頂いて、問題ありません。
ここでは、モンサントで統一します。)

この裁判の決着は、和解と警告文表示の禁止でした。

順を追って説明しますと、2018年と2019年のカリフォルニア地裁が出した判決を機に、モンサントに対するラウンドアップ訴訟は爆発的に増えます。

訴訟大国アメリカですから、このカリフォルニア地裁の決定を基に訴訟を起こせば一攫千金も夢ではないと考えた便乗組も多数居たとは思いますが、訴えは12万5000件を超えます。

さすがのアメリカ司法も、この数を捌く事は出来ません。
NYのワイツ・アンド・ラクセンバーグが、原告団をとりまとめ、日本で言う【被害者の会】の様な組織を作り、原告側のほとんどを一本化し裁判に臨みます。

それに先立ち、カリフォルニア地裁はラウンドアップに【発ガン性を認める表示義務】を命じていたのですが、控訴中の為保留状態でした。

そして、迎えた2020年6月。
カリフォルニア地裁は、ある判決を下します。

それが、【発ガン性を認める表示】を【半永久的に】【禁止する】という内容です。

つまり、一度は【発ガン性を認めた様な】判決を出しながら、最終的には【グリホサート】には【発ガン性】は【認められない】ので、【発ガン性を認める】【商品への表示は】【しなくても良い】と、真逆にもとれる結論を出したのです。

実質、モンサント側の勝利です。

一審の判決結果を理由に訴訟を起こした原告団は混乱します。
そして、その機を逃すモンサントではありません。

同年同月、原告団とモンサントの和解が成立します。
和解金は、109億米ドル。当時のレートで約1兆1600億円。
その理由は、『ラウンドアップの安全性は間違いないが、世の中を混乱させた事は事実。その収束の為。』との事でした。
モンサント側は、ラウンドアップの危険性は無いという姿勢を崩さなかった訳です。

その裏で、モンサントが開発した【スーパー雑草】に対抗するジカンバ系次世代除草剤に登録無効の判決が出ていたのですが、それはまた別のお話。

とにかく、日本で言われている【カリフォルニア地裁で】【ラウンドアップに対し】【発ガン性を認め】【賠償金の支払い命令が出た】というのは、途中経過の話であり、最終的には【グリホサート】には【発ガン性は認められない為】【商品に発ガン性を認める表示は】【しなくてもよい】で決着したのです。

現在日本では、カリフォルニアでの裁判の途中経過までを引用し、ラウンドアップ(グリホサート)は発ガン性があり、世界中で規制が始まっているにも関わらず、日本だけ推奨されている、なんて事だ!といった考えが主流です。
かくいう私も、人間に対しての発ガン性もそうだけれど、自然環境に対しても使わずに済むなら使わない方が良いと考えており、農家時代も今も使った事はありません。

しかしながら、事実は事実として認識した上で、思考しなければ、やはり危険です。
ラウンドアップに反対する方もそうでない方も、このカリフォルニアで出た最終判決は把握するべきです。

さて、しかし、このカリフォルニア地裁の最初の判決結果ですが、もともと日本人が受け取った内容とは大きく異なります。

次章は、この判決内容をもう少し詳しく見ていきましょう。

最初の判決結果の勘違い

日本では、2018年にカリフォルニア地裁が出した、モンサントへの原告に対し賠償金支払いを命じる結果を、【ラウンドアップ】に【発ガン性】が【ある】と【認められた】と受け取っている場合が多いのですが、これがそもそも勘違いなのです。

というのも、前述の通りこの裁判は2015年に【国際がん研究機関(IARC)】が、グリホサートをグループA2【ヒトに対しおそらく発ガン性がある】に分類した事をきっかけに起こっているのですが、このIARCのグループ分けが単純ではないのです。

IARCは【発ガン性の可能性】がある物質や職業を、4種類にグループ分けしており、
グループ1【ヒトに対して発ガン性がある】
グループ2A【ヒトに対しておそらく発ガン性がある】
グループ2B【ヒトに対して発ガン性があるかもしれない】
グループ3【ヒトに対しての発ガン性を評価出来ない】
と、しています。

グループ1に分類されている例は、アスベスト アルコール飲料 太陽光など、120種。

グループ2Aには、赤肉 65℃以上の飲み物 美容業などの職業を含め、約80種が登録されています。

しかし、このグループ分けでは、物質であれば【どれくらいの量を摂取すればリスクがあるのか】、職業であれば【月の労働時間がどれくらいであればリスクとなるのか】は考えられていません。

分かり辛いかと思いますが、ザックリと言いますと、IARCは【発ガン性】の【あるなし】ではなく、【発ガン性に関連があるという科学的根拠が多い】ものを分類分けして示しているのです。

つまり、
グループ1には【発ガン性との関連が間違いないと思われるもの】
グループ2Aには、【発ガン性との関連が可能性として高いもの】といった意味で分けているのであり、グループ1に分類されているからといって、必ずしも発ガン性があるとは言っていないのです。

もちろん、グループが1もしくは1に近い程、【科学的な実証】や【研究論文】が多い為、発ガン性を持つ可能性は高いのですが、だからと言って裁判での証拠に使えるものではありません。

逆に、グリホサートの【安全性】を示す研究結果は、WHO(世界保健機関)EPA(米国環境保護庁)Efsa(欧州食品安全機関)などが出しており、日本の安全食品委員会も同様に、『グリホサートに発ガン性は無い』と認めています。

ここまでの話で誤解しないで頂きたいのは、グリホサートが【発ガン性物質ではない】という話をしたいのではなく、カリフォルニア地裁の判決は一体なんだったのかという事です。

日本の都道府県と違い、アメリカの各州が持つ力は一つ一つが国の様なものです。
合衆国たる所以ですね。

その為、各州がそれぞれに事柄を判断する事が多く、カリフォルニア州が【ラウンドアップには発ガン性成分が含まれている】と考えていたとしても、なんら不思議ではありません。

しかし、アメリカ国内の機関はもとより、WHOやヨーロッパの専門機関までもが【グリホサートは安全である】という結果を出していますので、IARCのグループ分けだけでは、ラウンドアップに発ガン性成分が含まれているかどうかの証明には至りません。

刑事ドラマの言葉を借りますと、
若手刑事『何故!逮捕出来ないのですか!』
パイセン刑事『バカヤロウ!状況証拠だけで逮捕状が出るか!』
『物的証拠がなければ、なんともならん!』

犯人側弁護士『さあ、帰りましょう。』
犯人『ふふふ。ご苦労さま☺️』
若手刑事『くそー!!!』
みたいな状況に近いです。

しかし、この状況から、一度は原告側が勝ったのです。
冒頭に書いた通り、モンサントには原告への賠償金支払いが命じられています。

それは何故なのかと言いますと、この裁判はもともと【グリホサートが発ガン性物質なのかどうか】は、【争点になっていなかったから】です。

ここからは客観的ではなく、多少私個人の目線が入りますが、原告団の代表であるラクセンバーグ弁護士をはじめ、優秀な実績のある弁護士が複数人、この訴訟を担当しています。

優秀ですから、勝ち目がない弁護はしないでしょう。
当初の目論見までは、素人の私には知る由もありませんが、【グリホサート】に対し【安全】であると主張するのはモンサントだけではなく、前述の公的機関達です。
対して、グリホサートが危険であるという主張は、民間の意見とIARCのグループ分けのみです。

いくら陪審員制の米国裁判であっても、【グリホサート】が【発ガン性物質なのかどうか】を証明するには、余程の【科学的根拠】がなければなりません。
【グリホサート安全側】には、いくらでも【科学的根拠】があります。

ですので、争点を【グリホサート】が【発ガン性物質なのかどうか】に置いたのでは勝ち目はない事を、最初から弁護士達は分かっていた筈です。

そして公判中、原告側からある証拠が提出されます。
それが、モンサント社内の機密メールです。

内部告発なのかどうかは分かりませんが、2003年からのモンサントとグリホサート製造責任者とのメールのやり取りが、開示されたのです。

このメールのやり取りは、カリフォルニア地裁のHP等で閲覧可能だそうですが、関西弁と土佐弁しか話せない私は、そっとPCを閉じました。
ですので、和訳は読んだのですが、確認のしようがない為、メールの内容については触れません。

アメリカ弁やイギリス弁が堪能な方は、探してみてください。

この機密文書開示から見える、私にでも分かる確かな事は、【モンサント側が、ラウンドアップに発ガン性成分が含まれている可能性】を【認識していた】です。

ラウンドアップには、今のタバコの様な【あなたの健康を損なう恐れがあります】といった【警告文】は表示されていません。

モンサントの主張通り、ラウンドアップが安全なものであれば、それでも構わないのですが、モンサント側が【危険性】を認識していたのにも関わらず【表示】していなかったのであれば、話は変わります。

そうです。
この裁判の争点は、【モンサント側】は【ラウンドアップ】に【発ガン性成分】が【含まれている可能性】を【認識していた】のにも関わらず【消費者に対して】【表示義務を怠ったのではないか】なのです。

その証拠が、原告側が証拠として提出した【機密メール】だったのです。

この一連の流れを見ると、原告側の弁護団が【グリホサートに発ガン性があるかどうかを争点にしても、科学的根拠の面を含め勝ち目はない】と考えており、モンサント側は【グリホサートに発ガン性があるかどうかが争点になっているうちは勝てる】と考えているのではないかと伺えます。

ですので、原告側は争点を【表示義務】にし、モンサント側は【発ガン性があるかもしれないという認識は持っていないので、表示義務違反にはあたらない】と主張したかと思われます。

この【発ガン性があるかもしれないという認識】は、【あった】と証明するにも【なかった】と証明するにも、かなり難しいのではないかと思われ、メールの内容に対しても【そのやり取りの後、安全を確認した】と主張されれば、それをまた反証出来るかと言うと、水掛け論の様になりかねません。

原告側も被告側も【あと一手が足りない】状況だったのではないでしょうか。

そこで注目したいのが、和解が成立した2020年、この同じ年の【ジカンバ系除草剤の登録無効】判決です。

このジカンバ系除草剤は、グリホサートへの耐性を持ってしまった雑草、いわゆる【スーパー雑草】に対して効果のある除草剤で、モンサントが開発し商品化されていました。
ジカンバ自体は、古くから使われている成分であり、日本でも使用されています。

このジカンバ系除草剤には、大きな懸念すべき特性があります。
それが【揮発性】です。

この農薬は非常に気化しやすく、特に夏場の高温時には顕著です。
その為、風に乗って広がり、広範囲に影響します。

これは日本のJRが線路付近に生える雑草の処理に使った際にも問題となりました。
アメリカでは、その理由での訴訟が起こっており、カリフォルニアは【ジカンバ系除草剤】の【登録無効】つまり、新しく製造販売出来ない判決を出したのです。

カリフォルニアは、【グリホサート】は【発ガン性ではない】と判決した年に、次世代除草剤の【ジカンバ】に対しては、【使えなくした】訳です。

同年に判決が出た、同じモンサントという会社の【旧来からの除草剤】と【次世代除草剤】への異なった判決。
これは、何を意味するのでしょうか。

そして、グリホサート被害の原告団との和解。

推理好きではない人でも、なにやらきな臭い香りを嗅ぎ取ってしまう結果です。

私なりの結論は極端に映ってしまうやもしれませんので、ここでは控えますが、何かを通す為に何かを犠牲にしたのではないかと考えます。

まとめますと、
•カリフォルニアでの【ラウンドアップ裁判】は、【グリホサート】が【発ガン性物質】かどうかを争った訳ではない。

•争点は、【モンサント】が【ラウンドアップ】に【発ガン性物質】が【入っているかもしれない】と【認識】していたかどうか。

•一審の判決は、【モンサント】が【ラウンドアップ】の【危険性】を【認識】していたにも関わらず、商品の【警告表示義務】を【怠った】という内容。

•最終的にカリフォルニア地裁では、【グリホサート】に【発ガン性】は【認められない】ので、【商品】に【警告表示】は【必要無し】と判決している。

現在でもアメリカをはじめ、多くの国でラウンドアップは使用されています。
世界中で、ラウンドアップの規制が行われているとは言われますが、国と地域の数だけで言うと、規制している国の方が少ない状況です。
【世界的にグリホサートは規制対象になっている】という認識は、正しいとは言えません。

日本の感覚では、【日本とアメリカ以外の国、特にヨーロッパではラウンドアップには発ガン性物質が含まれていると認識し使えなくなっているのに、日本は何をしているんだ?アメリカには逆らえないのか?】と受け止めているのではないかと思います。

しかし、世界第2位の農業輸出大国であるオランダでさえ、個人のラウンドアップ使用は禁止しましたが、農業での使用は認めています。
これは、何を意味するのでしょう。

今回は、《化学農薬は悪いものなのか》がテーマですので、これ以上は触れません。

最後に2点のポイントを残し、この章を終わりたいと思います。

①仮に【グリホサート】が発ガン性物質ではないとしても、【ラウンドアップ】が安全とは限らない。

②ラウンドアップの本当の目的は、【ラウンドアップ耐性種子】の販売拡大である。

以上です。
それでは、最後の章に。

結論

結論といっても、あくまで私の結論ですが、最後にまとめてみたいと思います。

ラウンドアップは極端な例かもしれませんが、化学農薬というものは、前提として我々人間や他の動物そして自然環境にとって【毒】である事は間違いありません。

農薬をそのまま飲めば、死に至る可能性がある訳ですから、当然【毒】です。

しかし、古来から全世界の人達が夢見た【食べ物に困らない世界】を実現させたのも、間違いなく化学農薬です。

時代を遡れば遡るほど、【食べ物の確保】は非常に困難でした。
その為に、口減しとして生産性の低い老人や子供の命を奪わざるを得なかった時代は、都市伝説やオカルトではなく【現実】として存在していました。

今の日本は、便利なものに溢れ、住む場所も着るものもそして何より食べ物に困る事はありません。
二次世界大戦より前の時代を生きた人々が、現代を見れば天国なのかと思うでしょう。
古い時代のお伽話の様な時代に、我々は生きています。

しかし、時代を経て世界の人口は増え続け、地球の資源は益々足りません。
通常の農業では、世界中の食料を用意出来なくなる可能性もあります。

遺伝子組み換え ゲノム編集 養液栽培といった、労働力を抑え、より効率的に食べ物を作る技術も、日々進歩しています。

そして、そういったテクノロジーの進化は、何かを犠牲にしています。
何も犠牲にせずに、メリットだけを享受出来る様な、都合の良い話は残念ながら存在しません。

かといって、犠牲にするものが地球にとって致命的な事であっては、困ります。

私個人としては、化学農薬は必要であると思います。
農業だけではなく、人の少なくなった過疎地域でヨタヨタと歩きながら空き地に除草剤を撒くおバアちゃんに『除草剤はダメだから、草刈機か鎌で刈りなよ』とは言えませんし、『代わりに俺が刈っとくよ』と言える時間的余裕は私にはありません。

歪なバランスである事は確かですし、このままで良いとも思いません。

農薬を【毒】ではなく【薬】として扱う為に、我々一人一人が正しい知識を持ち、オーガニック系とも交流をして、新たなバランスを見つけ出すしかないのだろうと、今回改めて感じました。

行き過ぎを止め、慣行栽培農家が踏ん張ってくれているうちに、少し前の時代の田舎の生活を、これからも日常に取り入れていきたいと思います。

ここまで読んでくださった皆さまが、化学農薬という概念を分解される事があれば、その一助になれれば良いなと妄想しつつ、今回のテーマを終わりたいと思います。

ありがとうございました😊
また次回のテーマで、お会いしましょう。
リクエストも、承ります。

それでは!



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