頑張ってもどうしようもできないこともある
職場の方々と飲んだ帰り道、昔から親しく交流させていただいている方と二人になるタイミングがあった。
その方は奥さんがいるが、子供はいない。
それが気になったことは特になかった。単純に、そこにはあまり興味がない。
人の家庭に対してあれこれ思わない。そもそも踏み込んではいけない領域だという認識も自然にある。
だから、まさかその方― Aさんが、自ら家庭の話をしてくるなんて思わなかった。
夫婦で不妊治療を頑張ったけれど、駄目だったという話。
ただ Aさんは、ちょくちょく「子供は考えなかったんですか」と周囲から聞かれることがあるそうで、その度に赤裸々に実体験を話しているという。
「え、やっぱり聞かれるんですか?!なんていうか、無神経じゃないですか。人によっては傷をえぐるような発言だと思うんです」
お酒に酔っていたのもあってやや感情的になる私とは裏腹に、Aさんはニコニコと穏やかに話すのだった。
「いや、僕の経験が誰かの役に立つならいくらでも話すよ、全然。○○さんからも前聞かれたから、普通に話したよ」
―なんでそう思えるんだろう。でも、Aさんらしいなと思った。
昔から知っている。この人はこういう人なのだ。
「自分なんかよりもっと大変だったのは奥さんだよ。周りからも色々言われてきただろうに。
だから奥さんが抱える苦しみは、物理的には無理かもしれないけどさ、自分が全部受け止めようと思ってね」
Aさんはいつもブレない。
奥さんだけじゃなく、会社でも常に誰かを助けている。
そしてそれをひけらかさない。出世欲はないし、周囲から評価されたいとも特に思っていない。
マネージャー層からは嫉妬?であまり好かれていないけど、下からの評価は抜群だ。
私はAさんのそういう姿に憧れて営業に来たのだった。
ただなんとなくだけど、Aさんは今まで、家庭のことは単純に聞かれたから答えてきただけなんじゃないかなと思う。
どうして私に話してくれたんだろう。本当にいきなりだった。
もしかしたら、ずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
Aさんは基本的に穏やかな口調だったけど、もしかしたら泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
横並びだったし暗かったし、わざわざ表情なんて見ていない。
「頑張ったんだよ、本当に・・・でも、どうしようもなかった。頑張れば結果が出るわけじゃない、これは」
という言葉が忘れられない。
なぜか、思い出す度にこっちが泣きそうになってしまう。
Aさんは、今回の件以外でも今まで色々と苦労したという話をよく聞いていた。
それでも、だからこそ周りに人が集まるのだと思う。
会社でもベテランな分、色々抱えているものがあるのだろう。
陳腐な表現しかできないけれど、普通に余計なお世話だけど、この人には幸せでいてほしいなと、良いことが沢山起こってほしいなと、切に感じるものがある。
そうじゃないと、私もハッピーでいられなくなってしまうのである。
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