映画メモ 07 【落下の解剖学】
たくさんネタバレしながら、再鑑賞する日に向けて気持ちを整理するためにnoteに残そう。二度鑑賞したくなる作品ナンバーワンかも。
映画メモ 07 【落下の解剖学】
「何が真実かわからないけれど白か黒かつけないといけない時、心で真実を決めるしかない」
最後の方でそんなニュアンスのセリフが繰り返し出てきた。あ、そうか、真相を知り得るのは母親だけで、どんなに検察や弁護士、裁判官が突き詰めようと、真相が明らかになるわけではないんだ。と気付いた時に‘解剖学’というタイトルが腑に落ちた。…といっても、観終わってかなり長考しても、疑問ばかりが残るけれど…。
曖昧な結末が苦手、という方には非常にモヤモヤが残るんだけど、私は観終わった後も考えたり「ああ、曖昧な作品なんだなぁ」と思うことそのものが割と心地良く感じるので、とても素晴らしい映画に出会えた!
●私の考察 01 夫婦喧嘩
私は母親が殺したという考えに行き着いた。
基本的に今起きているシーンだけで構成される中で、回想シーンが2度ほど挟まれていて、1度目は事件前日の夫婦喧嘩。
録音されていた夫婦喧嘩は、何もかも自分任せで自分の時間も取れない、責任も押し付けられて負担が大きすぎるという父親と、何も全て任せているわけではない、自分の時間は自分で作れるし人のせいにするな(全てニュアンス。)という母親の、本当によくありそうな言い合いから始まって。
ああ、こういうすれ違いってあるよなぁと…。割と言われたことは可能な限り何でも聞くし、頼まれたわけでもないのに責任を感じて、というのは私の性格にも少し通じるから、母親の発言がグサッときた。
そして喧嘩のやり取りの中で、息子が母をモンスターと呼んでいるという言葉があって「あれ。」と思った。
裁判の間も必死に母親を守ろうとする息子のダニエルだけど、もしかしたら普段から少し怖いと思っていて、真実を話すことが母親にとって不利なら嘘をついた方が良いと判断したのではないかなぁと。
この録音されていた夫婦喧嘩はだんだん、父親の小説アイディアを母親が横取りした疑惑や、母親のバイセクシャル、そして不倫など、どんどん真実が明かされていく。最終的には暴力をふるっているかのような、ガラスの割れる音まで入っていて、事件に繋がったと十分に考えられる証拠になっている。
●私の考察 02 車のシーン
二度目の回想シーンは、息子ダニエルの出来心によって昏睡状態になってしまった愛犬のスヌープを病院に運ぶところ。
スヌープに、父親が自殺未遂を起こした時と同じアスピリンを飲ませて実験するというなかなかショッキングな場面。絶対あってはならないけど、そこまでして父親のしたことを自分なりに"解剖"したい息子の、必死な気持ちが苦しかった。
なんとか助かったスヌープを病院に運ぶ道中、車を運転している父親がダニエルに「誰しもいつか突然死ぬことがあるんだから、覚悟しておきなさい。」といった言葉をかける。まるで、父親自身のことみたいに。
ただ、それは夫婦げんかの回想シーンとは違って、父親の声ではなく法廷で証言するダニエル自身の声で回想されている。
録音されているか否かという違いだと捉えることもできるけれど、私はダニエルが「父親にはまだ自殺願望があった。だから今回の事件は母親が殺したわけではない」と言い聞かせているのではと捉えた。実際に父親がそう言ったはダニエルしか知り得ないし、母親にとって有利になる発言をしないと、という強迫観念があったんじゃないかな、という印象を持った。
結果ダニエルのこの証言が大きな決定打となり、無罪判決が出た。
ただ、達成感より疲労感が勝っている母親とその弁護士。帰宅した母親を何も言わずに抱きしめるダニエル。そして、母親の隣で眠るスヌープ。
真実は誰にも分らないし、無罪となった後は、ずっとなんだかため息が出てしまう苦しさで…本当に無実なら、正しいことを証明するまでにこれまでの時間と労力を奪われたのかと思うし、仮に無実でなければ、母親は心に何かしらのわだかまりを抱いて生きていくのだろうし。
限られた証拠や切り取られた一部だけで判断することの難しさを、胸が苦しくなるほど痛感した作品だった。
そしてなにより、スヌープ役の俳優犬にアカデミー賞を…!!