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文学フリマ京都7の思い出 1/3【希里峰の苗床:無料配信】
一日目:京都に向かって出発~自分に応援歌を
京都に向かって出発
初めての出張販売を京都に決めたのは、ほとんど成り行きみたいなものだった。
自分の誕生日が文フリの一週間前。
丁度、十年ひとまたぎの節目だった。
コロナ禍のお陰で「仰々しいお祝いは、特にせずとも生きていける」ことに幸か不幸か慣れてしまったから、何をするでもなく過ごそうと思っていたら、たまたま京都の文フリがこの日程で組まれていたのを見つけてしまったのだ。
「この時期の京都って、寒いけど、その分観光のお客さん少なくてのんびりできるんじゃね?」
「錦市場のお土産のちりめん山椒、美味しかったよねえ!」
家族がこんな事を言い出し、架空の旅程を検討しだして、なにがどうなってそうなったのか……気付けば参加申し込みページで申し込みボタンをポチッとやってしまっていた。
やると決めたら、徹底的にやりたい性分である。
にゃんこ先生の御世話を家族に任せ、単身出張を決めた時から、綿密な作戦を立て始めた。
日程は文フリ当日を中日として、二泊三日。
前日入りする理由は体力的な限界値が人より低い他にもあった……私は自他共に認める方向音痴だ。
或る人は「迷子の天才」と呼び、よく知る友人からは「能力:迷子のスタンドが付いている」と揶揄われる。つまり、当日入りしていては絶対に初見ではたどり着けないとわかっていたのだった。
一度でも目的地に辿り着き、交差点の名前や目印になる建物を覚えてしまえば、絶対に迷子にならないのが私の「能力」の良いところ。だから、どうしても前日の内に迷子になっておく必要があった。
文学フリマ京都7の前日。
未だ暗いうちから家を出た。
冬らしからぬ湿り気を帯びた空気は、前日の天気予報通り、雨が降るのだと思わせるに十分だった。
この時期は折しも大学センター試験がある。その昔、この試験が共通一次試験と呼ばれていた頃から、何故だか雪が降ったり大風が吹いたりして交通機関が混雑する。
9:00頃に京都駅に着くための、15分前行動を厳守する基本スケジュール。会場のみやこめっせへの道行シミュレーションには、考え得るトラブルパターンを想定した上で、当日のタイムスケジュールに則ったうえで臨んだ。
予想以上の重量になったスーツケースを引っ張りながら、頭の中では「どうしてこんなことになった」と繰り返しぼやいていた。
新幹線のホームに降り立つ前から、雨が降り始めていた。
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いざ、車内の人になっても、窓の外はどんよりと灰色の雲が街を覆っていて、雨で煙っている地域では景色も楽しめない。
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富士山も727の看板も見つけられないうちに名古屋を通過。
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鮭にぎり一つではお腹が減ったなあと思っているうちに京都に到着した。
さすが、夢の超特急。ネガティブ方向音痴が乗っても、一直線で目的地に着く。
しかも定刻通り。実に、素晴らしい。
京都は暖かかった
――夏は激暑く、冬は激寒い、それが観光地・京都の本質であるッッ(関西出身者から聞いた評判)。
文フリ当日とその前後はぜったいに大雪!と覚悟していったのだが予想に反して暖かかった。寒がりなことに加え雪道では必ず一回は転ぶ私にとっては大助かりの天気だった。
雨はバッチリ降っていたけど。
朝の九時台に京都駅に到着したので、宿のチェックインまでは時間が有り余っており、市内を歩き回るため少しでも身軽になるべく荷物を預けることにした。
21リットルそこそこの小さいスーツケースを引きずって荷物預り所に行ったら「うちは一律700円。その大きさだったら、数は少ないけど500円で借りられるロッカーのが断然オススメ」と教えてもらい、小さめスーツケース用のコインロッカーを駅前にずらりと並んだロッカー群の中から探す……と、大概使用中であった。数は少ないけど、の程度を完全に甘く見積もっていた。
700円のでかいロッカーは空いてるんだけどなあ、と探して歩き、漸く見つけた500円ロッカーを確保。二段に別れているロッカーのうちの上段側にポツンと一つ空いていたのだけど、売るための本がみっちり詰まって超重いスーツケースは収めるのに一苦労だった。へいへーい、ホスピタリティぷりーず!……朝からご陽気にエアクレームを垂れる。
こんな事なら、いっそ荷物スカスカでも良いからデカいスーツケースで来たほうが良かったかもしれない。ロッカーに入れても預け所に持ち込んでも一律700円なら、200円くらい便利料で払うのに……と。
迷子爆発
少しだけ身軽になったので、さっそく会場であるみやこめっせへの道行を確認すべく、先ずは地下鉄の乗り口を目指す。当日道中、トイレに行きたくなった時等を考え、駅の構造も今一度確認しておきつつ。
Googleマップで経路を検索する。
地下鉄に乗るのは間違いない。一回の乗り換えを経て……一時間もかからずに到着する。よし完璧!とばかりにSuicaにチャージして、いざ改札をくぐった。乗り換えに最適なドアの位置も、Googleマップが教えてくれる。順調なくらい順調だった。
乗換駅の一つ手前の駅で自信満々に降りた。
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降りたドアの前にはエスカレーターも階段もない。あれ、Googleマップ先生、間違ってませんか?……ではなく。方向音痴の天才なので、このタイミングで自分の間違いに気付けないのだ。改札階に出ても乗り換え口などない(当然だ)。
体感時間で15分くらい迷う(正味3分ほどだったけど)。
いとも簡単に絶望に呑まれてしまい半泣きの私は、再びGoogleマップ先生に教えを請うた。先生は私の非礼をなじることも無く丁寧に「駅が違うよ」と教えてくれたので、もう一度地下鉄に乗り一駅移動。
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今度はちゃんと乗り換え口を見つけられたので、みやこめっせ最寄り駅を目指すことができた。
教訓。Googleマップは使い勝手の良し悪しは別として、意図して間違った目的地へと誘導することはしない……らしいので。ちゃんと、正確に、指示されたとおりに歩け!
目的地に到着シマシタ!のでオシャ朝食
駅に着いたので駅内表示通りに歩くと段数多めの階段にぶち当たった。
マジかよ、エレベーターないとキツイわ……とぼやきつつ、ともかくもみやこめっせを目指すため、再びGoogleマップ起動して雨の中を歩いた。
目印になる標識や建物を写真にとりつつ行くは観光気分を盛り上げるためではなく、宿に帰って道順を復習する際の強力な資料にするためである。
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地上を歩くこと、15分たらず。
きょろきょろしながらではあったけれども――
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みやこめっせはすぐに確認できた!
さすが、碁盤の目に喩えられる京都の道。大きな通りに出ると交差点標識と建物の視認性が良くて、迷子になる確率が格段に下がる(地下はさておき)。
トイレ位置の確認のため中も見学しておきたかったけど、コロナワクチン接種会場になってたので「不審者ウロウロして不審者通報されたら、文フリ出店どころではなくなりそうだ」と思い断念した。
一日目唯一のミッションを早々にクリアしたら、またしても腹の虫が鳴った。握り飯一個ぶんのスタミナは、だいたいこんなものなんだなあ。
というわけで、二回目の朝ごはんを求めて、今度はのんびりと歩き出す。
フォロイーのミケパンチさんに教えていただいたロームシアター京都は、二条通りを挟んですぐの施設。
朝の空いてる時間だったのでゆっくりトイレを借りたり、スターバックスコーヒーで一休みすることができた。
蔦屋書店さんと一体化してるスタバは本を読んだり、近くの美術館巡りで疲れた足を休めたりするのにちょうど良き。静かに読書を楽しむ人たちに混じり、コーヒーの甘いロースト香に満ちた店内で、タンパク質多めを意識した低カロリー朝食と洒落込む。
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途中、大きな神社があったのは、平安神宮。
今日から正味三日ほどお世話になりますと、暫しの自由時間満喫前にご挨拶しに行った。
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図々しくも、文フリでたくさん本が売れますようにと祈願させていただいた。
持ち歩いてわかる在庫の重さ……行商って体力勝負なんだね。お野菜・お魚売りに来てたおばあちゃん、どんな体力してたんだ……と出張販売の洗礼を早くも浴びてしまった故に、少しでもスーツケースが軽くなって欲しかったので。
落ち込んだ自分を励ますぞ!
だいたいどこの宿でもそうだけど、チェックインは15:00。
当日と同じタイムラインで動きたかったとはいえ、お昼ごはんを調達するコンビニの位置も確認し終えてしまったので、時間は余りに余っている。
そうだ京都観光と洒落込もう!←こういうところは躊躇が無い。
その前に、ミッションクリアした旨をお留守番係に連絡した。
一人で完全アウェーの気分のところをバッチリ予想通り迷子をかまし、最寄り駅の階段が不便だったこと。地上に出たら、案内表示や目印がわかりやすく、会場に着けたこと。会場の下見と二回目の朝ごはんをちゃんと食べたことを報告していると、電話の向こうで『ターン!』と……エンターキーをぶっ叩いた音かな?
お留守番係曰く。
「駅構内の構造図を検索したら、エレベーターが一か所あって、しかもそっちの出口から出た方がみやこめっせ近いぜ?」
現地に居ない人にもっとも便利なルートをあっさり検索されてしまい、またまた自分の迷子スキルにゾッとした。
この時点でかなり落ち込んだので、マジで「もう帰ろうかな」という気分になった。
それをポツリ……と愚痴ったら、メインのミッションは始まっても居ないのに!と励まされる。けだし真っ当な御意見、ありがとう。
「明日マジがんばれ!」
てことで、とりあえずチェックインまで遊んどけ!とのアドバイスも貰い、まずはハッピーな昼ご飯を目指して移動することにした。
昼呑みできる店、できればクラフトビールの店が良いなと検索すると、あっさり見つかったので、有酸素運動=お散歩しながら目指すことに。
途中ローカルバスに乗ったり(乗り物大好き)、鴨川沿いを歩き(二時間ドラマ気分)、京都の街並みを観光。
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本能寺の古本屋街を堪能し、錦市場が近くなってくると、お目当てのクラフトビールのお店はもうすぐそこ。
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昼から飲めて、京都らしい御出汁感たっぷりのお料理も楽しめる、まさに私のオアシスだったのが京都一乗寺ブリュワリーさん。
一人だし、気兼ねも何もなかった。
お昼ごはんがわりにバンバン飲む!食べる!
元気出せ、私!大いに楽しみ、不安と恐怖を跳ねのけよ、私!!
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一杯目はテロワールゴールデン、だったと思う。
日本のビールとおでんの相性は最高だと、私は信じて疑わないんだけど、ここでもそれが実証されたなって感じ。特に、よくしゅんだ大根はベーシックなさっぱり味のタイプとよく合う。
ちなみに、おでんの大根には柚子胡椒派デス。
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飲み比べセットも堪能。
左から、青谷・梅ブリュー、一乗寺アップス珈琲スタウト、Destroy Angel IPA。梅ブリューは一口目から虜になった。わざとらしい果実系の飲みやすさ演出のそれではない、梅の爽やかな香りと、ビールの苦み・旨味のバランスが嬉しくて飲むペースが速くなる。
濃い味がお好みの友達の顔が自然に浮かんできたのは、珈琲スタウト。彼女はコレをどんな料理と一緒に楽しみたいというだろう?
IPAは破壊天使の名のとおりというか、飲み口軽く白ワインのような奥行きも感じて、つられてゴクゴク飲んじゃうと昇天の危険が!?なので、もう一人の飲み友達にぜひ飲んでもらいたいと思った。特に彼女はエレガントにして剛毅な飲みっぷりの人なので、絶対、天使には負けない(たぶん)
お腹が満足したので、錦市場へ。
腹ごなしがてら、ゆるゆるとお散歩しつつ市場を目指すつもりだったのだけど、目と鼻の先にアーケードがあって、拍子抜け。
お留守番係からお土産に頼まれてたちりめん山椒を買いに佃煮やさんに行く。佃煮やさんも、ほんとにすぐそばで……迷子になる暇もない、なんて。
朝はあんなに簡単に迷子になってたのにね。
歩き疲れるタイミングと、宿のチェックイン時間がうまいこと重なったので、再び地下鉄に乗り京都駅へ。
二日目に備える。
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