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電脳世界の言語マイノリティーに声を
「iPhoneでシリア文字のキーボードが導入されて超ウレシイ!」
I’m so happy there’s now a native Syriac keyboard on iphones 😍 pic.twitter.com/BSybtlSqGQ
— Sami Jiries | سامي جِريِس (@samijiries) September 21, 2021
そんな呟きをツイッターで偶然見かけて、慌ててiPhoneのOSをアップグレードし確かめてみました。何度か遅れたOSのアップグレードをかけて、キーボードをみてみると、確かに「シリア語」が加わっていました。
「マジでシリア文字が打てるようになってる...!」
これでようやくiPhoneでアッシリア人のような人々が、二千年前からある自分たちの文字を用いてSNSで呟いたり、メールを打つことができるようになりました。
これは技術革新が少数言語を助ける良い例だと思います。
インターネットで使える言葉、使えない言葉
ただここで認識しておかなければならないことは、ある言語の文字は「既存のiOSに対応している」、「ある文字はiOSに対応していない」ということがあった、ということです。
私たち日本人は「ひらがな」「カタカナ」「漢字」を用いて情報の発信・受信を享受できるのにアッシリア人はシリア文字でそれが出来なかった。それは何故か考えると面白い、というか若干の不条理を感じませんか。
言語によってもそうであるように、使用している言語の文字によってもインターネット上で言語の使用の制限が生まれているのが現在の世界です。これはちょっとやるせないですね。
一方で、OSのアップグレードとUnicodeの拡張により、地球の小さな民族とその言語が私たちを取り巻く電脳の声に参加し、今まで声が上がってこなかった人々も加わり、より大きな集合知を作り始めているドキドキ感があります。それはさながらに長編小説におけるバフチンのドストエフスキーの作品分析におけるポリフォニー論のように、さまざまな声が対立し、調律しあっている世界のようです。
インターネット上の言語制限
ところで前者のインターネット上の言語制限は今に始まったことではありません。昔からそういった環境は存在していました。
思い出すのは家庭用パソコンが流行り始めた頃です。初期の家庭用パソコンが広がり始めたとき、Windows95や98で英語以外の言語を使う際、ウムラウトやアキュートアクセント、セディーユなどの記号がついたアルファベットの入力は非常に骨が折れました。
そのため、そのような記号が必要だけれどタイプできない時———たぶん、タイプライターが常用されていたころの習慣だったのかもしれませんが———は創意工夫していました。例えばウムラウトをつけたい文字の後ろには”e”を書いて、”oe”などで代用したものでした。
他にもエスペラント語のように百年以上前から国際的に使われていた言語も同じ悩みを持っていて、日本エスペラント協会によれば下記のような代用表記が奨励されています(そして今でも固有の記号付きアルファベットを使わずに代用表記を常用するエスペラント語の使用者もいます!):
アラビア語も入力の仕方がわからない最たる文字でした。アラビア文字なんてWindowsで打ち方すらよくわからない状態でした。
これと関係しているのかは正確には分かりませんが、ラテン文字で記入するチャット用のアルファベットのアラビア語も使われています。特にレバノンやエジプト、モロッコの人が使っているように思います。特に標準のフスハーと呼ばれるアラビア語ではなく、自分たちの口語、方言で会話する場合に目立ちます。
アラビア語は世界の大言語の一つなのですが、パソコンでの文字の入力や閲覧は難しい(かった)です。今ではiPhoneのOSにアラビア語が標準装備されており、設定すれば簡単に打つことができるようになります。
日本語は少数派か?
そうそう。大言語といえば日本語です。
意外と私たちは自覚していないのですが、日本語は大言語のうちの一つだってご存知でしたか。例えばStatistaの二〇二一年の『最も世界で話されている言語』の統計で、日本語は世界で最も話されている十五言語のうち第十三位にランクインしています。
日本語と英語という対比の中で、私たちは「特殊な言語を使っている」「少数派の言語を使っている」というふうに錯覚しがちです。
ですが、日本語は特殊でもなければ世界のマイノリティーに属する言語でもありません。パソコンやインターネットを自分の言語で享受できない人々と比べて、私たち日本人はインターネットでの言語の使用において「富を持つ側」「特権を持つ側」に立っています。
ウィキペディアの言語別の記事数でも日本語は十二位にランクインしています。さまざまな言語のうち、フィリピンのワライ語やエジプトのアラビア語が奮闘していることも興味深い現象です。
さて、アップグレードによりインターネットの革新に弱かった言語が日本語や英語などと対等にインターネットで使われる時代が来ることは喜ばしいことだと思います。インターネットの使用する権利も人間の基本的な人権に含まれる時代がやってくるでしょう。そのため、技術革新がインターネットの言語マイノリティーに声を与えることを目の当たりにするのは、まさに技術が進んだその瞬間を目撃しているに他なりません。
ドローン技術を使って、いかに低コストで効率よく敵兵を殺せるかのような技術に力が注がれるよりも、小さなことでもマイノリティーに優しい技術の発展の方が喜ばしいですね。
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