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ゴーレムと無価値な言語の蘇らせ方

オカルトの話になるが、ユダヤ教の伝説ではラビが一定の儀式の後、泥をこねて作った人形に"אמת"と記した文字を刻んだ紙を泥に挟み命を吹き込むことができたとされる。命の紙を差し込む、よく知られたゴーレムの作り方である。古語や死語の勉強のプロセスはゴーレム作りの作業に似ていると私は思っている。

たまに見かける素朴な質問の中に「生きていない言語は学ぶ価値がない」という言説をみかけることがあるが、はたしてそうだろうか。私は逆に「古典語や死語と呼ばれる言語を生きる言語にしようとしていないから、その言語は無価値なままなのだ」と考えている。命の紙を差し込んでいないのだ。

エスペラント語

あるとき国際活動関係の団体が集まる法人ブースでエスペラント語の紹介をしたことがあった。当然、興味を持つ人もいれば知らぬ存ぜぬで通り過ぎていく人もいる。その中には「え、エスペラント語!まだ生きてたんだ」と驚愕する人もいる。そういう人にとってエスペラント語はかつて「生きた言語」であった。でも、何らかの事情で勉強をやめてしまったり、話し手との交流をやめてしまったりして、エスペラント語はその人にとって「死んだ言語」となったのである。逆に言えば「殺してしまった」といえるだろう。実際、現在エスペラント語を母語として話す人もいる。その点では結局、自分の視野の範囲で話されていることが確認できないから個人的に「死語」にしてしまっているといえる。私もエスペラント語話者の一人として、エスペラント語を話したこともない人に勝手に言語を殺されてしまうのはちょっと乱暴だと思っている。

サンスクリット

インドの古典語と呼ばれるサンスクリット語も学んでいる人がいる。単数・双数・複数の区別を持ち、格変化も7格ある複雑な言語だが、こんなに小さな時から溌剌としゃべる子供がいるのは大変驚きだ。

ラテン語

「死語」として特に名前が言及されることが多いのがラテン語だ。しかしながら、ヨーロッパを中心とした高等教育では常に名前があがる基礎教養科目の一つでもあり、ヨーロッパの歴史やヨーロッパの言語の成り立ちを知るためにギリシャ語と並んで欠かせない言語でもある。実際、Youtubeなどにラテン語で会話するビデオがアップロードされている。例えばアメリカ人のpolýMATHYのチャンネルではラテン語でクイズを行ったり、旅行してラテン語を使ってみたりと興味深いことをしている。彼の中でラテン語はまさに「生きている言語」なのだ。

特に興味深かったのは「バチカン共和国でアメリカ人がラテン語を話してみた件について(拙訳)」というビデオだ。バチカンはヨーロッパで唯一ラテン語が公用語となっている国である。そこでどれだけラテン語が話せるのかチャレンジした動画だ。ここではラテン語のビジネス言語としての側面も見える。と言うのも、この動画に登場するナイジェリア出身のローランド神父によれば、バチカンでは公文書は全てラテン語で書かれ、それらが全てラテン語をもとにさまざまな言語に翻訳されていくというのだ。これで「ラテン語は死んでいる」「ラテン語は現在使われていない」という言説は全くの誤謬であることは間違いないだろう。

第一級殺人犯 古典語教師

はっきり言おう。死んだ言語をより死なせている第一級の殺人犯は古典語教師である。というのも、ステレオタイプの古典語教師は古典語に命を吹き込もうとする気が全くない。「死んだ言語」を「死んだ言語」として向き合っているだけなのだ。つまり、この手の古典語教師は生きた言語を教えようとしていない。もっと言えば墓碑に刻まれた言葉を読めるように説明しているだけなのである。

ところでゴーレムの"אמת"の先頭のアレフという文字を取るとヘブライ語では"死ぬ"という動詞に、イディッシュ語では"死人"という単語になるように、ゴーレムは元の泥に戻ってしまうというのがこの伝説の終わりである。

大学で私が最も毛嫌いしたタイプの授業は古典語教師の格変化の暗唱や無骨なテキストをただ読ませるだけの授業スタイルだ。他者に教えらえれる教養を持ちながら、語学の喜びも何ももたらさない虚ろな時間を作る才能はまさに天才と言えるだろう。まさにこの手の教師は古典語の生命に"מת"を差し込んでいるのである。

世界を見渡せば例えば古典語と呼ばれる言語を格にした共通語を作り上げ、公共放送や新聞などで使用しているアラビア語のような世界もあるし、教会などでは教会スラブ語やシリア語などが讃美歌の中で生きている。そういった世界の側面を知らずして、ある人工語や自然言語をバッサリと「生きていない言語だから無価値」と切り捨ててしまうのはいかがなものだろうか。死んでいると言われる言語に命を与えるときが私は一番楽しい気がするが。

"シュメール語のギルガメシュ叙事詩"

写真:Photo 74458333 © David Cohen | Dreamstime.com

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