リアルこそ最高のエンタメ|JR大湊線
ファストパスを駆使して巧妙に作られたアトラクションに乗るよりも、時間をかけて赴いた地でリアルを体感する方が余程生きている実感が湧く。
あらためてそう感じたのは、関西から北を目指し、青森の下北半島に延びるJR大湊線を北上した時のことだ。
JR大湊線(青森・下北半島)
2021年9月には開業100周年を迎えたらしいJR大湊線は、青森〜八戸間を走る『青い森鉄道』から分岐する形で、まさかり型の下北半島へと線路を伸ばしており、野辺地〜大湊間を走行する。
これは青い森鉄道から乗り換えて、JR大湊線の始発駅・野辺地駅に向かい、そして終点の大湊駅ではなく、その一つ手前の下北駅まで行った時の話だ。
野辺地駅
海なし県の出身だと、船旅はもちろん、海路による物資の輸送もなかなかにロマンを感ずるところがある。そしてうっかり海に近い土地ならではの街の要素に出くわすとハッとする。
駅前にはその土地ならではのものがモニュメントとして置かれてることが多いが、野辺地駅には常夜燈、いわば灯台のモニュメントが据えられている。かつてこの地の物資輸送と商業の要でもあった廻船航路の目印となった湊町ならではの要素だ。
石造り、というのが良い。
また雪が降ること自体が珍しく数年に一度雪が降り積もると其処此処の車道で車が立ち往生する土地の者は、雪国ならではの工夫にも魅せられる。この防雪林というのは一体どのようにして雪を防ぐのだろう。雪を運ぶ風を防ぐということなのだろうか。
何でも100年の歳月をかけて育成されたのだとか。
寒さを苦手とするあまり冬はあまりで歩かないのだけれど、一度は雪国を旅してみたいという憧れがあって、どうせならその気候との闘いを目の当たりにし感じてみたい。
雪の降り積もる中を走る列車は、この土地の者には至極ありふれたもの、そして厄介なものであるかもしれないけれど、そこで暮らす工夫も含めて憧れずにはいられない。
下北駅|本州最北の駅
JR大湊線の終着地・大湊駅が本州最北かと思いきや、実は下北駅の方がより北側に位置している。
鈍行列車を乗り継いで青森に達した時は、「随分と遠くまで来た」という感覚がしみじみと湧き上がってきて、それは込み上げるような感動と言っても良かった。
だが遠路はるばる青森までやって来たのは、いつか行ってみたいと思っていた恐山へゆくためだ。恐山へは本州最北の下北駅より、バスで向かうことになる。
美しい線路道
平日のためか乗客は少なかったから、ここぞとばかりに特等席へ向かうと、そこから見る眺めは、江ノ電とは一風違った趣があった。
境界があるようで無いような、ミニマルに敷設された線路に惚れ惚れしていると、1本の線路をたった1車両で走るパンタグラフのないディーゼルエンジン車の両側に咲き誇る黄色い花やススキ、不意に開けて原っぱや畑が見えてくる。
道が綺麗だととても気分が良い。
線路の場合は、それ以上に安全性にも関わるものだから安心感がある。
時折、陸奥湾や風力発電のプロペラが見え隠れする。
この辺りにずっと続く松林は線路に強風が吹き込むのを防ぎ、その風にただ耐えるだけでなく活かしているところは、地形と気候を上手く味方にした好例ではないだろうか。
自然界の厳しさと、それに立ち向かう人類の叡智をここに見た気がする。
さらに伸びてゆく線路の先に巨大なプロペラ群が迫って来た時、まるでそこへ向かってくような錯覚を覚えて、えも言われぬ嬉しさが込み上げてきた。あの巨大なプロペラに、こんなにも近づいたことがかつてあっただろうか。
風の冷たさとそこに紛れる匂い、車両の軋む音と揺れ、移り変わる風景。
複合的な感覚がリアルな体験をより確かなものにしてくれる。
与えられる体験と原体験
人類の技術革新は賞賛に値する。けれど自然の摂理により仕上がった環境を模倣したとて人が創るものは到底及ばない。
人工的な体験が興味の入り口や踏み出すためのキッカケとなるのはいいが、自然物に触れることによって降りかかってくる原体験とは一味も二味も違う。それはある限られた体験に過ぎないからだ。
今の時代デジタル化がさらに加速し、バーチャルの先にメタバースやデジタルツインといった新たな技術が続々と生まれる中で、あらためて自身の五感+αで体感する原体験の大切さを見つめ直したい。
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