シルクロードはオーストラリアへ至る、かもしれない|異都ナーラ
架空の慈善団体SPICIAに身を置く咖喱菩薩は、"Pay Forward"の思想を布教すべく、今日も今日とて大倭国の中枢・異都ナーラを練り歩く。
異都ナーラの友好都市
「咖喱菩薩よ、異都ナーラの友好都市、古都奈良のことは知っておるか?」
「勿論ですとも薬師如来。ナーラと同じくインターナショナル・プリフェクチュアでございます」
我ながら流暢に答えることができたと自画自賛していたら、薬師如来の瑠璃色の瞳がキラリと瞬いてハッとする。
「ちょうど今、古の陸路シルキーロードを経てもたらされた異国カルチャーの品々や宝物のお披露目をしておりますね」
と、慌てて付け足した。
「うむ。"Pay Forward" とは受けた恩を先へ送ることである。それには知り得たことや感動したことという恩恵を見知らぬ誰かに贈ることも含まれる」
「はい。悟りを得るため、今日も修行に励んで参ります」
古都奈良の宝物
シルキーロードの終着地とされるナーラと同じく、古都奈良も古くから異国との交易が盛んだ。唐のカルチャーを強く受けた貴族中心の仏教文化は、華やかな天平文化を生み出した。
さらに今年は東大寺を建立し、奈良大仏を鋳造した聖武天皇の即位1300年の記念すべき年である。
聖武天皇の愛蔵品をはじめとした奈良の正倉院宝物庫に収蔵される宝物は、毎年秋に点検が行われ、それに併せて一般にも公開される。
今年は初出の11品が登場するそうだ。
私は『螺鈿紫檀五弦琵琶』が大のお気に入りだが、今年の初出品の中ではこちらの鏡が一等目を見張るの美しさ。
これほど鮮やかな色が残っているなんて、本当に1300年もの時が経ったのだろうか。
黄金瑠璃鈿背十二稜鏡
研究員の解説を読んでみると、その感動がありありと伝わってくる。その中で「色」に関する解説・考察を引用させていただく。
なるほど、着色ではなく七宝。確かに赤や青といった色味が加われば一層華やかになるだろう。
けれど、限られた素材から "工夫" によって魅力を引き出すという点は、特筆すべき感動であり、我々も見習うところがある。
"無い物ねだりではなく、有るものを活かす"
見目麗しさだけでなく、そういった超絶技巧も含めて宝物として収めるに相応しいとされたのだろう。
「有るものを活かす」という思想は "Pay Forward" によって広め、受け継いでゆきたいものだ。
エアーズ・ロック in NARA
さて、腹が減っては修行もままならぬ。
正倉院には唐の先進的な技術やカルチャーを蒐集するために航海した遣唐使船が持ち帰った香辛料も納められている。
例えばコショウ、クローブ、シナモンなど。
シルキーロードの終着地ナーラも同じく、大陸から伝来した香辛料を食文化にとり入れている。
「お、咖喱菩薩ではないか」
背後からの声に振り向くと、ちょうど普賢菩薩が白象から降りたところだった。
「普賢菩薩も食事ですか」
「うむ。この時期は人が多い。一見の者にナーラの鹿との接し方を伝えるのも一苦労だ。英気を養うため肉を食おうと思ってな」
「そうですか。奇遇ですね」
ナーラではあらゆる生物を恩恵と捉えているため、我々とて肉も食う。
早速二人して暖簾をくぐり、考える間も無く注文する。
近年ダムカレーなどが流行りはじめたが、ワカクサ山の上にエアーズ・ロックを乗せてしまうようなインターナショナルなカリーはそうそうお目にかかれるものではないだろう。
「いつ見ても物凄いインパクトだ」
「普賢菩薩は裏メニューにしたのですね」
「今はカロリーを欲している」
「なんと! シルキーロードが香辛料を乗せて、エアーズ・ロックに覆い被さっているではありませんか!」
普賢菩薩は私の絶叫を無視して、無我夢中でチーズを絡めたカレーを頬張っている。
私は次の機会に絶対アレ食べようと心に誓った。
時期限定復刻『火燧焼』
ところで、古都奈良の甘味はかき氷ばかりではない。
奈良は歩く街であるから、散策がてら甘味の発掘をするのも良かろう。
『異都ナーラ』と登場するキャラクターについては、こちらをご覧ください
よろしければ是非サポートをお願いします! いただいたサポートで駅弁食べます! (超訳:各地の特産物や文化・特色についての探求活動費に使わせていただきます!)