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2023年度 慶應義塾大学 法学部 小論文(論述力試験) 模範解答

 

 人間の認知能力には限界があり、複雑な世界のあり方に対するコストを下げるために、私たちは世界を単純化する。世界の単純化を示す社会現象として「膜」と「核」がある。「膜」とは資源を囲い込む現象である。「膜」の現象として、貨幣は資本として蓄積されやすく、人々は資本に制御され、資本の蓄積が自己目的化する。また政治においても、国家は自国の利益を最大化することを目指し、国境や国民という「膜」の内側と外側で、敵と味方を明確に区別する。他方で、「核」は中央集権的な組織によって人々が制御される現象である。「核」の現象においては、企業では、経営陣が核となって組織を制御し、資源配分を決定する。また、国家の執行権力が複雑な権力構造のなかで独自の論理で動き始め、国民の意志どおりに権力が執行されることが拒まれる。以上より、経済と政治の歴史で反復される諸問題は、社会システムにおける「膜」と「核」の問題だといえる。
 現代政治上の弊害の一つとして、高齢化の進行に伴う有権者中位年齢の上昇や数的優位を背景として、高齢者が自身の優遇される政治を実現させ、政策の偏向が生じる問題が挙げられる。というのも、国政選挙における立候補者は得票のために、高齢有権者の支持を得るような政策を訴え、高齢者を囲い込む「膜」の現象をもたらし、国政という「核」において高齢者が優遇される政治を実現させ、世代間の対立を生み出しているからだ。この弊害を新しい情報技術によっていかに克服することができるだろうか。
 国政選挙等では一人一票の多数決制度が採られるものの、それ以外の集団の意見集約方法として、たとえば「ボルダルール」という方法もある。つまり、民主主義における意見の集約の仕方には様々な方法がある。また、社会が成熟すれば多様な意見があり、意見集約には多くの時間と労力を要する。したがって、こうした多数の意見集約を行う手段としてAIやコンピュータなどの新しい情報技術を用いて、適切に民意を測るシステムを構築することによって、政策の偏向や世代間の対立を解決することができると考える。しかし、意見の集約方法によってはまったく異なる結果が出る。したがって、意見集約の方法をどのようにするかを判断することも国民に求められる。つまり、意見集約の方法について合意を得ない限り、適切に民意を測るシステムの構築は望めないという限界も懸念される。(986字)

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