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2020年度 慶應義塾大学 法学部 小論文(論述力試験) 模範解答


 西欧文明の科学技術体系が示す普遍性や西欧列強というアジアを優越する者との出会いによって、アジアは自らのあり方を「遅れ」とみなし、改めるべきであるという危機感にもとづきアジアにおける近代化が生じた。さらに、この近代化の過程においてアジアのアイデンティティーが崩され、アジアは自己を統御する働きを欠き、社会の不安定化をもたらした。しかし、アジアの内部において近代化に対する新たな認識が芽生えた。つまり、アジアにおける近代化とは、それぞれの地域や国、文化の中で、独自性をもって取り組まれた社会変革と自己変革の努力であった。さらに、近代化は各国や各々の文化のなかで多様な仕方において取り組まれた自己実現の過程である。したがって、アジアにおける近代化の努力に各々の国家や文化の独自性や多様性を認めるならば、自分たちとは異なった他者の存在を認め、その尊厳を重んじ、共存を図ることがいかに重要であるかが理解できる。
 以上のように、著者はかつてのアジアにおける近代化のうちに、独自性や多様性を備えた他者と共存を図ることの重要性を見出している。我が国においても、将来的な少子高齢化による労働者不足を解消するために外国人労働者の誘致を促進する案などが検討、推進されつつある。したがって、今後私たちは、外国人という異質な他者と共存することが求められるといえる。それでは、独自性や多様性を備えた他者との共存、共生を図るためには、私たちに何が求められるだろうか。
 私たちは、異質な他者に対して寛容となり、他者との共有点や妥協点を探りながら、共に生きることができる関係を構築していく必要があると考える。なぜなら、自分のあり方や考え方を押しつけ、文化的多様性を認めない事態を誰もが回避していく必要があるからだ。しかし、異質な他者と「完全にわかり合うこと」を前提とはしない。なぜなら、異質な存在との社会的摩擦を回避し、どのようにしたら他者と上手く付き合うことができるのかが課題となると考えるからだ。つまり、ともに社会を構成する成員としての役割を果たす目的さえまずは共有することができれば、社会的摩擦を回避することが可能となると考える。したがって、個別具体的な人と人とのつながりからともに生きる意志を生みだすためにも、他者との具体的な交流や対話の機会を設けていくことが不可欠だと考える。(974字)

 

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