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2023 東京学芸大学 E類教育支援専攻 ソーシャルワークコース 小論文 模範解答
経済格差に起因する諸々の格差が貧困層に生まれた人々に与える不条理を救済しうるのは、現実的には国家のみであるとするリベラル・ナショナリズムと、国家を超えて人々は相互に助け合う義務があるという理念を掲げるコスモポリタニズムとの対立に対して、筆者は「リスクマネジメント・グローバリズム」という新たな視点を提示する。というのも、経済格差こそがパンデミックのようなリスクを深刻化、長期化させ、先進国にとっての脅威となることが明らかになったからである。したがって、国家を超えて経済格差を解消することがリスク回避のために不可欠となるという点が、先進国が他国を救済するリアルなロジックとして機能しうると筆者によって主張される。
以上のように筆者によれば、リスク回避という当事者性の強い課題が生じることによって、先進国も経済格差の問題に取り組み、国際的な協力関係を促進することができるとされる。こうした筆者の考え方は、現実的かつ妥当なものであると考える。というのも、筆者が指摘するように、格差によって苦しむ他者に対する人権侵害の認識から他者を救うべきであるという道徳的な義務論では、国を超えた協働や問題への対処への動機にはならないからである。たしかに、困窮する他者が存在すれば、手を差し伸べるべきであるということは道徳的に正しく、苦しむ他者を放置することは人権侵害ともいえる。しかし、複数の国家から成る世界という共同体においては、個人のあいだでは当然とされるロジックがそのまま当てはまることのない現実がある。
したがって、コスモポリタニズムの理想は、先進国におけるリスクマネジメントというきわめて現実主義的な動機によって実現されることになる。つまり、リスク回避という自国の利益に基づく動機によって、他国における不遇な他者が助けられることになる。それゆえ、他者と手を取り、助け合う動機が利己的ではあるものの、動機が何であれ、地球市民として相互に助け合う事態が実現されるならば、著者の述べるリスクマネジメント・グローバリズムを受け入れるべきだと考える。さらには、各種の格差がもたらすリスクを回避することが先進国の利益になるということを実証することによって、経済格差を含む諸格差の解消を先進国が積極的に取り組むことが、国家を超えて相互に助け合うコスモポリタニズムの主張を実現させると考える。(981字)