2021 鳥取大学 地域学部 地域学科 地域創造コース 前期日程 小論文 模範解答
問一:
生活者とは、各自の個性を持ち、生きる現場とも言うべき家族や地域の暮らしを基底にしながら、暮らし方や生き方を意識化しようとする人々のことである。また、共通の関心のもとに他者とつながり、小さな共同性を模索していく人たちでもある。生活者は、特別な理想形や、すでに存在するものではなく、私たちの日常生活が危機に陥り、不安や疑問が生じたとき、新しい生き方への願望や期待とともに、再編成された「普通の人々」として生まれてくるものである。生活者は、生きることに関して受動的であることをやめ、自分で情報を精査し、自己決定するとともに、私的価値と公共的価値の両方を考慮しながら、試行錯誤していく存在である。(294字)
問二:
筆者によれば、人々が生活者として歴史に参画する行為とは、私的価値と公共的価値の両方を考慮しながら、試行錯誤していくことである。人間は、私的価値を第一に求め、自分や家族の安全、安定を重視する。これは多くの人々の生存原理である一方で、そこに含まれない者、例外者の排除につながる危険性も孕んでいる。しかし、私的価値へのこだわりは、たんに当事者の視野を狭めるだけではなく、同時に、他者の痛みに対する感覚や想像力が回復され、他者との共同行為、公共的価値に結びつく可能性がある。つまり、私的価値が持つ二つの側面を十分に自覚し、どちらか一方に偏らない取り組みが重要である。
そこで、こうした行為の例として、私は、地域の生涯学習センターや小規模なサークルなどを通じた継続的な学びが挙げられると考える。二種類の価値のいずれにも偏らずに自身の生き方を省みるには、さまざまな学問領域の概念や学説を身につけ、それを道具として使うことが必要だからである。日常生活では、ともすれば身の回りのことにだけ関心が偏りがちである。しかし、大学で有料の公開講座や、専門家を招いた少人数の読書会ないし勉強会といった学びの場を通じて、普段は縁遠い領域についての研究成果や最近の動向に直接触れ、より一般的な視点を獲得することが可能となる。それによって、日常的なものの見方を反省し、情報収集や冷静な自己決定の糧にすることができるだろう。さらに、こうした場が盛んにおこなわれ、そこで生じた利益を研究者に還元することで、将来的には学術の発展に寄与することにもつながる。私的利益のみを追求するのではなく、また、没個人的な滅私奉公という非現実的な目標でもない、バランスの取れた生活者になるには、こうした不断の知的鍛錬が必要であろう。(738字)