2021年度 東京都立大学 人文社会学部 (人間社会学科、人文学科) 小論文 模範解答
問一:~200
筆者の考える感情労働の根本的な問題とは、感情労働自体に求められる情動を明確化するのが妨げられることである。ブルーワーによれば、感情労働の根本的な害は、その労働にとって不要な感情を抑圧することで、従事者の自己洗練を妨げることにあった。これに対して筆者は、感情労働は、求められる感情を自己欺瞞的に内面化することで、それが不適切だということの明確化をも妨げる点が最も害であると考える。(189字)
問二:~100
感情労働によって抑圧された違和感や嫌悪感を探り出し、それを手がかりにして、要求される感情が欺瞞的なものだと悟ったうえで、自分の置かれた価値的状況に本当の意味でふさわしい感情を抱くようにすること。(97字)
問三:~800
筆者によれば、私たちは最初、ある感情労働に求められる感情に違和感を覚える。しかし、次第にそれを抑圧することを覚え、要求される感情を自発的に湧いてくる自然なものにしてしまう。このようないわば偽りの感情を内面化し、それによって正体を明確化する手がかりを奪われた感情を持ち続けなければならないことが、感情労働の根本的な問題であった。そこから抜け出すための唯一の方法が、みずからを省みて感情を明確化し、特定の状況において適切な感情を抱けるようになることであるとされる。
以上を踏まえて、私は、自他の感情に対して向き合う際には、感情から行動までの時間を引き延ばすことが重要であると考える。なぜなら、これは良好な対人関係を成立させるのに必要だからである。たとえば、私が強い怒りや悲しみを覚えたとき、怒鳴るとか号泣するといった行動に即座に移るのではなく、一呼吸おいて、自分の感情を第三者の視点から見つめることで、感情をある程度制御することができる。また、他人が怒ったり悲しんだりしているときも、それに対して反射的に怒り返したり、事情を知らずに同情したりするのではなく、その人がなぜそのような感情を持つに至ったのかについて考えてみる必要がある。そうすれば、より正確な対応が見つかるだろう。
そもそも、ある状況に対してどのような感情を抱くかは個人差が大きい。そうであれば、画一的な反応を期待することはできないし、それを強要することもできない。それゆえ、他者とのコミュニケーションにおいて、私たちは相手の予期せぬ感情に出会うことも多い。にもかかわらず、互いが感情をぶつけ合うだけは、円滑な会話をおこない、良好な人間関係を築くことはできない。したがって、感情に対する態度として、私は、反射的に対応するのではなく、いったん立ち止まったうえで、取るべき行動を熟慮することが重要であると考える。(781字)