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2021年度 熊本大学 法学部 後期試験 小論文(その2) 模範解答

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 ①の文章からは欧米諸国における移民政策が批判を受けたり、失敗したりした事例を確認することができる。たとえば、アメリカにおける同化主義を基調とする移民政策は、移民のもつ本質的な異質性を同化させることはできない事態に直面し、さらに移民に対して主流派に溶け込むことが要請されることについて公正性が問題視されるようになった。また、多文化主義にもとづく移民政策においては、教育資格や職業資格による選別を経ていない移民の受け入れによって、移民に対する社会的排除が生じ、移民の間の貧困や失業の蔓延、反移民感情の発生が問題となり、多文化主義は失敗した。
 ②の文章では、実際に外国人住民と交流する試みにおいてさえ、共生の難しさがあることが描かれている。たとえば、中国人住民との関係のあり方について、相互にうまく棲み分けをして生きていく共存ができればよく、無理に交流する必要はないという考え方がある。また、災害時に外国人住民との厳然たる差異を避難所において相互に受けとめることができるのかという問題もある。それでは、上記のような状況を鑑みたとき、私たちはどのように移民を受け入れ、移民とどのような関係を構築していくべきだろうか。
 私たちは、異質な他者に対して寛容となり、異質な他者との共有点や妥協点を探りながら、共に生きることができる関係を移民と構築していく必要があると考える。なぜなら、グローバル化した環境では、今後、自身とは異なる価値観や文化的背景を備えた人々と遭遇する機会がますます増え、多様かつ異質な他者と共に生きることが相互に要求されると考えるからだ。
 したがって、今まさに隣にいる他者の異質性を認めながらも、共に生きようとする意志を持ち、皆が共に生きることができる社会の形成に努めることを目的とした教育プログラムが私たちにも移民にもともに必要だと考える。さらに、この多文化共生を目指すプログラムにおいては、異質な他者と「わかり合うこと」を前提とはしない。なぜなら、社会的摩擦を回避し、どのようにしたら他者と上手く付き合うことができるのかが課題となると考えるからだ。つまり、ともに社会や地域を作る成員としての役割を果たす目的さえまずは共有することができれば、社会的摩擦を回避することが可能となると考える。それゆえ、受け入れ国地域住民と移民との接触について多様なケースを想定した、実践的なプログラムを展開する必要があると考える。なぜなら、受け入れ国地域住民と移民との望ましい関係については、一定の正解が必ずしも存在するわけではないからだ。したがって、個別具体的な人と人とのつながりからともに生きる意志を生みだすためにも、民間レベルだけではなく行政においても受け入れ国地域住民と移民との具体的な交流の機会を設けていくことが不可欠だと考える。(1160字)

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