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ポラリスが「ママ」という言葉を使わない理由


市川望美です。

「ママ」という言葉に対する慎重な想い。



Polarisという会社は、主に育児中の女性たちを担い手とした事業を行ってきた会社ですが、「ママ」という言葉に対しては、とても慎重な思いを持っています。

「え、ママたちを対象にした事業をしてるのに?」と、思われるかもしれませんが、可能な限り「ママ」という言葉は使わず、「母となった女性」「育児中の女性」「いわゆる”ママ”と呼ばれる人たち」というようにカギかっこをつけた非常に回りくどい表現を用いたりしています。

なんでそんな回りくどいことをしているのか、今日はその理由についてお話したいなと思います。

ママ>私??「個としてのあなた」をリスペクトしたい。


2002年4月に第1子を出産した当時の私は「〇〇くんママ」と呼ばれることを物凄く嫌っていました。

母となった人生そのものが面白いなあと思えるようになってからは、そういった反射的なネガティブ感情は落ち着くのですが、それまでは頑なに「なんかイヤ!」でした。

今はもう違うのかもしれないけど、地域の子育てひろばとか児童館、サークル的な場に行って、「この子は〇〇です、〇か月です、よろしくお願いします」と、自分の名前さえ名乗らないような(名字は名乗ったとしても)、子どもを主語のように扱う自己紹介に違和感がありました。

それに慣れすぎると、「お名前聞いていいですか?」とか「おいくつですか?」と聞かれた時にも、うっかり子どもの名前とか月齢・年齢をこたえちゃって、「いえいえ、お母さんですよ」「あ、私ですか、やだーー」みたいなことは、乳幼児子育てあるあるだった。

それはそれで微笑ましいものでもあったし、私も何度もやったけれど、振り返ってみれば、それほど自分自身のことを話さない、聞かれない、自分のことだと思えない時間だったなあと思うのです。

その後スタッフとして長く関わることになる子育て支援のNPOには、名字ではなく名前で呼ぶような文化があって、(もちろんいきなり、全員そう呼ぶわけでなく、距離感や関係性を見ながらだったりはしますが、基本的なマインドとしてそうでした)、冗談めかして「女性は名字が変わっちゃうこともあるからさあー」なんて言ってたけど、本当は、「個としてのあなたを尊重したい、一人の大人としてあなたと関わりたい」っていう思いを表現するためのものだった。

「〇〇くんママはどう思う?」と聞かれることと、「のぞみさんはどう思う?」と聞かれることの間には、ものすごく大きな違いがあると思っています。

私のパーソナリティ、性質的にも、肩書きや属性、ラベルに埋め込まれた文脈をくみ取った発言や振る舞いが苦手ということもあったけれど、(女だから、新人だから、一般職だから、妻だから、母だから、〇〇すべし、〇〇するもんでしょ、言わなくてもわかるでしょ、という圧力は本当に嫌だった)

でも、最初から明確にそう思っていたわけではなくて、何気ないながらも明確な意図をもって、あえて名前で呼んでくれる人たちがいて、その人たちから、なぜそうしているのかを教えてもらうことで初めて、自分が抱える違和感の正体が分かりました。

そうか、私が「〇〇くんママ」と呼ばれることが「なんかイヤ!」だったのは、私個人がどっかに行っちゃった気がしたからか。仕事も辞めたから旧姓で呼ばれることもなくなったし、30年生きてきた自分が途切れちゃった気がしてさみしかったんだなあ・・と気がつけたし、また、その「さみしい気持ち」を自分に認めてあげることで、「母である自分」について何か言われることにいちいちイラっとしたり、モヤモヤしたりしなくなった。

「母であること」はとても大きくて、自分の時間のほとんどすべてを「母であること」で過ごしているけれど、私自身がなくなるわけじゃないと思えてやっと「自分らしさ」とか「この子らしさ」みたいなものに意識を向けることに力みがなくなったような気がします。

「ママ」であることと、私本体の距離感、大事だった。


「ママ」というたった二文字に埋め込まれた沢山のこと。


今の日本社会において、「ママ」という2文字には、色んな理想や主義主張、商業的目論見(これ、大きい)が詰め込まれていて、私自身もきっとそのプレッシャーを感じていたんだろうなあ。

「ママタレント」というカテゴリもできて、ママのブランディング、ママであることに商業的な価値がつくようになったし・・・

わざわざカテゴライズすることの意味は、「まとめること」「集めること」なんだろう。それぞれの思惑に沿う人達に「なってもらう」こと。(ほんと、日本ってママママ言いすぎじゃない?でも、ここを語り始めると色々すぎる。古傷、生傷がうずく人も多いでしょうし、またの機会に)

今まで生きてきた時間を「たった2文字」でさっくり置き換えたり、その2文字に込められた誰かの意図に存在が回収されてしまいたくない、という思いがあるんですね。「母」という言葉だとさらに短く1文字だけど、「ママ」の方がより、社会的なイメージが投影されている気がしています。

「〇〇女子」とか「〇〇男子」と呼ばれることや、簡単に何かでくくられてしまうことに違和感を持っている方もきっと同じようなことを感じていられるのだと思う。(でもアメトーークの〇〇芸人とかは大好き。でもこれは括り方が今までと違うからいいんだろうなー)


「ママ」がうみだす分断。

また、「ママ」という言葉を使ったとたんに、分断が生まれることもある。「ママ」という言葉を使ってしまうことで見えなくなってしまうものも沢山ある。

「ママ」は否定しない、でも、その2文字だけで簡単にくくりたくない。簡単に「ママだから」「ママは」と言わず、「私」とか「当事者として」の感覚を持つことがとても大切。本来多様な人たちなのだから。

Polarisの事業で稼働するチームに対しては、クライアントにも「ママさんたち」とか言ってほしくないし、可能な限り私たちも、そのチームに対して「ママたち」という言葉は使わないようにしています。

メンバーとか、チームとか、〇〇さんたち、というように。Polarisの事業、サービス名にも、「ママ」を冠にすることはまずありません。



リスペクトの形はそれぞれ。

こんな風に書いちゃうと、「あ、なんか市川さん(Polarisさん)の前では”ママ”って使っちゃダメなのかな」とか、「否定された・・・」とか思わせてしまったらごめんなさい。そんなつもりは全くないのです。

「ママ」だからこそ出会えた人や得られたつながりがあるし、事業の上でも、自分の経験の上でも、大切に大切に思っています。

この記事にずらずらと書いてきたような、簡単に言い表せない思いだとか、様々な考えもまるっと含め「ママ」と表現することで、その存在を大切に扱っている人たちが沢山いることも知っているので、そこは本当に、私たちなりの表現手法、一つの意見として受け止めてもらえたら嬉しい。

「ママ」であることがアイデンティティやブランドとしてとらえられるとか、「ママ」であることが必要以上のプレッシャーとなったり、分断を引き起こすものにならないよう、もっと多様で自由な存在として表現していきたいなあと思います。ママである一人の大人、女性、人間として。

ライフストーリー、語りの中にあるヒント。

Polaris自由七科で開催している「オーセンティック・ライフキャリア講座」と「ライフストーリー・インタビューによる社会学入門」という2つの講座は、自分や誰かの言葉や語りの中に感じ取る「違和感」「ざらつき」のようなものに着目し、丁寧にひも解いていく講座になっているのだけど、それは、ここまで書いてきたような背景があってのこと。

自分という存在が持つ個性に対して、何らかの枠が押し付けられたり、上からラベルを貼られてしまうことへの違和感を、自分の中とか誰かとの語りの中で見つけていくというもの。

2016年から通った大学院で、「ライフストーリー」や「社会構成主義」といった知恵に出会って、自分たちの世界、社会というのは相互認識や語りによってつくられていることを知り、自分たちのライフストーリーや語りの中に、社会と自分の関係性が反映されていることを知りました。

Polarisがわざわざ「いわゆるママと呼ばれる人たち」とか「母となった女性」というように「ママ」という言葉に対して持つ距離感の理由を、ライフストーリー研究者である桜井厚さんのこの説明ですべて納得できた。

桜井はモデル・ストーリーに対して揶揄したり、冗談として表現するなどの距離をとったスタンスの語りを、回収されまいとする語り手の個別性=主体性と位置づけ、個の実践こそが新しいストーリー、新しい声の生成の契機であると好意的な表現を下している。

私たちは「ママ」だけど、「ママ」というモデルストーリーを押し付けられたくもないし、ママの前に個別性を持つ多様な人間たちなんだ、ということを言いたくて、あえてそうしていたんだなあ・・・と腑に落ちました。

私の中にある、私たちの中にある、小さな、でも大きなこだわりを丁寧に持ち寄ることで、何か変わっていくんじゃないかと思っています。
だから私たちは、語られたこと、語られていないこと、両方にまなざしを向けて丁寧にひも解いていきたいなと思うのです。

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現在自由七科では以下の座談会の参加者を募集しています。

子どものいる暮らしの中ではたらくを考える座談会 
1月21日(金)10:30~12:00@町田


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