#9月入学について
政府は新型コロナウイルスの流行を受けて検討していた9月入学の導入を見送る方針だ。
コロナ禍で、学校は長期休校を余儀なくされた。緊急事態宣言解除で再開したが、感染拡大防止措置として短縮授業や分散登校などが続く。学習の遅れが出てしまうのは仕方のないことだ。
入学時期の変遷
1872年「学制」が公布されたとき、欧米に合わせて高等教育では9月入学が主流であった。(https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/10/news014.html)
しかし、明治19年(1886年)に国の会計年度が「4月~3月」になると、高等師範学校は4月入学となった。理由として、学校運営に必要なお金を政府から調達するためには、国の会計年度の始まりである4月に合わせないと不便だからと言われている。その後、全国の師範学校や小学校でも4月入学となった。
利点
進級時期を遅らせて学習時間を確保するとともに、部活動や行事に取り組む余裕を作るのが、9月入学の狙いだ。また、世界のスタンダードは秋入学が一般的であるため、学事暦を合わせれば「学生・研究者の受け入れを相互にしやすくなる」。教育のグローバル化、日本の国際化が進展する。
アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、中国、ロシアは、基本的に9月入学だ。(欧米では、農作業の落ち着く9月ごろを学校開始時期にしたとされている。)
また、高等教育の国際化だ。高校以下の入学時期を変更しなくても、秋入学は個別大学の判断で実現可能だ。ただ、大学の入学時期を変えただけで、留学生や研究者の相互受け入れが進むわけではない。学生が留学をためらう理由は外国語力の不足と経済的事情が突出して多かった。
懸念事項
課題は多岐にわたる。9月入学をすれば、児童・生徒数が膨らむ学年が出てくる。それに見合う教員や教室の確保が必要で、保育園にも数十万人の待機児童が生じる。
入試や就職、資格試験は、3月卒業が前提である。変更するには各機関との調整が欠かせない。
これまでの秋入学の議論は7か月早めるという議論だった。今回は5か月遅くするという議論だ。義務教育の開始年齢が諸外国に比べ遅れることへの懸念もある。
学年を構成する児童生徒の誕生月を9月からにすると、現在の学年を分断することとなる。つまりこれまで同期だった児童生徒の学年が2つに分かれることになる。この対応にもどう対処するのか。
秋入学の議論は7か月早める(本年度4月→前年度9月)という議論だった。今回は5か月遅くする(本年度4月→9月)という議論である。遅くした場合、「義務教育の開始年齢」が海外と1年ずれてしまうのではないか。6・3・3制や義務教育期間も含めた壮大なカリキュラムの変更が必要ではないか。
緊急時でなければ、保守的な人々を動かす大胆な改革はできない。だが、社会に定着した制度を改めるには、学校関係者や保護者、企業など幅広い合意が不可欠だ。
日本の教育改革に欠けているのは、科学的根拠に基づく検証が足りていない。9月入学を巡っては、待機児童数や必要な財源など官民の様々なデータが参照された。今後の制度設計の議論にも生かしたい。
学校の入学・始業時期の変更は、社会に大きな影響をもたらす。丁寧に議論を進めるべきである。
9月入学は、移行期に様々な問題が生じる。政府与党が有効な解決策を示さなかった以上は、拙速を避けるのは当然だ。
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