【おはなし】鏡の中のPrince #01
『いらっしゃいませ』
「こんにちは」
はぁ…
今日も変わらず素敵な笑顔でお出迎え
この美容院に通い始めてもうすぐ1年になる
彼は美容師のアオイ君
新しい街にやってきて、すぐにこの美容院に決めた
-1年前-
引っ越してきたばかりで、毎日のように街を歩き回っていたころ商店街の外れに小さなコロッケ屋さんを見つけた
匂いに誘われて熱々をひとつ
ホフホフとほおばりながら歩いていると一軒の店先にお客さんを見送る人の姿があった
遠目でもわかる長身で、立ち姿も美しい
店の前まで来ると
『またお待ちしています』
丁寧にお辞儀する姿もカッコいい
彼が顔を上げたとき、目が合った
!!!
ゴホッゴホッ
彼がこちらにやってくる
『大丈夫ですか?』
「ゴホッ……モゴモゴ…ゴクッ……だ…大丈夫ですっすみません……」
恥ずかしいっ!
『いえいえ 良かった〜』
ニコっと笑うと白い歯が覗く
ま…まぶしい…
店先に置いてあったチラシを私に差し出し
『よろしかったら是非またお立ち寄りください』
って…
「はぁ……また来ます……」
私がなんとかそれだけ答えると、彼はまたニコッと笑って店の中に戻って行った
その時初めてお店に目を向けると、そこは小さな美容院で、中はシンプルでとてもおしゃれ
素敵な美容院だな
近いうちに予約しよう
新しい街での新しい出会いにワクワクした日だった……
『こちらにどうぞ 今日はトリートメントでしたね?』
なんて言いながら私のうなじから指を差し入れて髪の先まで手ぐしを入れる
『シャンプー台にどうぞ』
彼のシャンプーは至福のひとときだ
顔は覆われて見えないんだけど、何しろ近い
最初は柔らかく全体にシャワー
シャンプーはまんべんなく…
最大にドキドキする時は、頭を上げて襟足の所を洗ってもらうとき
その密着度と言ったらもう……
そして彼の腰骨が私の肩先に押し付けられる
『気になる所は無いですか?』 って時に、うなじの所って言ってみようかいつも真剣に悩むけど、実際言ったことはない
終わって鏡の前に戻った私は放心状態…
その後も終始ドキドキしながら鏡の中のアオイ君と会話を楽しむ
『はい おつかれさまでした』
「ありがとう」
支払いを済ませるといつものように店の外までお見送りをしてくれる
『次はいつごろ来てくれる?』
最後までドキッとさせる
もちろん営業用の言葉だってわかっているけど
高揚した頬に春風が心地いい
「ひと月後くらいかな」
『またお待ちしております』
ニコッとキラキラの笑顔
はぁ…無理