【おはなし】窓 #04

前回のお話


ほんっとにフミヤは昔っからそうだよね…
私がいろいろと信号を出しても全く気付かなかったもん
ユカは半分くらい瞼の落ちてきた目でオレを見据えてそういった

あ?なんだよ信号って

うーーーー
うるさいっ
もうお酒が無くなっちゃった!

まだ飲むのかよ
もうそのくらいにしとけよ

はぁ?私に説教するのかっフミヤのぶんざいでっっ
このやろっこのやろっ
オレの頭をワシャワシャっとする
今さっきまでオレに説教してたやつが何言ってんだよ

いいのっ取ってくるからちょっとまってろよぉー
そう言ってテーブルに手をついてヨイショっと立ち上がる
オレは少しあきれて視線を上げると
目の前にユカの頭頂部とその奥にTシャツの首元からチラリと
白くてふわふわな胸のふくらみが見えた

ドクッ

腹の中のアルコールに火が付いたように
体中が一瞬熱くなって
昔の記憶がよみがえってきた



フミヤ!

窓の外からユカの声がする

そっちの高校はどう?
こっちはさぁ、なんか楽しそう!
写真部に入ったよ

へぇ
オレは…部活はいいや
面白そうなのも無かったし

なによ~
高校生活は青春だよ!キラキラのせ・い・しゅ・ん!
彼女とかも作ってさぁ
デートとかも!
あっ、デートの練習しようよ!
「その時」のために
練習台になってあげるから

なんだよそれ…
お前が遊びに行きたいだけだろ

いいから~
行こうよ~
日曜日っ

うん
別にいいけど


次の日曜日
オレたちは朝一緒に家を出て
アクション映画を見てから一緒にランチを食べた
それからユカがカメラが見たいというので
カメラを見て回った

暗くなってきたけれどお腹はまだ減らないねと言って
カフェでお茶をした

カフェの窓から見える都会のど真ん中にある観覧車
ねぇアレに乗ってから帰ろうよ
あ?あー観覧車?いいよ

10年近く乗ってないなぁ久しぶりだ
えっ?そんなに?
うん
子どものころ家族で乗ったっきりだな

10分ぐらい行列に並んで目の前にゴンドラがやってきた
タイミングを合わせて乗り込む
今日は晴れてて夜景も綺麗だよ

ゴンドラは頂上近くまで行き
見晴らしが良い
無数の窓の光の中に人々の生活があるんだなぁなんて考えたりした
フミヤっ見て!あそこあそこ!
ユカが下の方を指さして言うもんだから立ち上がってユカに近づいた
ゴンドラのバランスが少しユカの方に傾いて一瞬自分の平衡感覚がぐらつく

あっっ…

平衡感覚を失い、軽くユカの方に傾いたゴンドラの重力に負けて
オレはユカに突進していった
ドンっ
わっっ
かろうじてユカの先のガラスに手を付き全体重をユカに預ける事を逃れたのだけれど避けきれなくてオレの顔はぐんぐんユカの顔に近づいた
オレの唇がユカの唇…はギリ避けて頬に触れる

!!

キャッ

ユカは下を向いて固まってしまった


ゴンドラは頂点に達し外には無数の光がきらめいていた

あっっご…ごめん…
離れようとするオレのシャツをユカは掴んでいた
次の瞬間ギュッと引き寄せられる

下を向いていた顔がオレの方を向いていて
二人の唇は重なった



あ……

思い出した
ってか、なんで忘れていたんだろう
あの後、オレが混乱している時に、ユカが
「忘れて!なんでもないの!忘れてよ!」
って顔を真っ赤にして言ったからかな…

あぁ…
これか…

元カノにはユカを重ねていたんだな…
それでもやっぱり違って
少しずつ積み重なった「違和感」が
彼女を追うことを拒んだんだ…

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