【おはなし】窓 #06

前回のお話


オレたちの関係は相変わらずだけど
最近は朝一緒に駅まで歩くことが多くなった
前はオレの方が早く出てたのに
玄関を出るタイミングが同じになってきて
「あ、おはよ」と言って一緒に歩き出す

徒歩10分ほどの道のり
仕事の愚痴だったりお互いの家族の事を話すことが多い
逆方向の電車にのるから線路を挟んで電車を待つ
向かい合わせに立って電車が来るとお互いにかるく手を振って出勤だ

そんなある朝、映画の話になった
先週末公開になった人気アクション映画の第三弾だ
「一作目!一緒に見に行かなかった?たしか高校生の時!」
そう言ってユカはこちらを振り返る
「そうだな」
オレは短く返したが、その後の観覧車の記憶がまたよみがえって
胸がトクンと鼓動した
まさか、ユカも忘れてることなんてないよな…なんて考えていると

「わぁぁぁぁ!!」ユカが急に大きな声を出して立ちすくみ、両手を頭にのせて固まっている
「…な…なんだよ…」
オレが声をかけると
「なんでもないっっ!ちょっと!用事を思い出した!先に行くね!」
とかまくし立てて振り返りもせずに小走りで行ってしまった

なんだありゃ…
え?もしかして…本当に忘れてて今思い出した?
自分からやっといてまさかねぇ…
ま、でもユカらしいや
オレは一瞬口角を上げて駅への道を歩き出した


それから3日ほどユカは朝、姿を現さなかった
週末が終わって月曜日、玄関を開けるとユカが立っている
「おぉ おはよ」
「うん…おはよ」
歩き出すとユカは少し後ろを黙ってついてくる
「あ?なに?今日は静かじゃん 体調でも悪いのか?」
「フミヤ…あのさ…今度の休みに、あの映画…見に行かない?」

思わず足を止めるとユカの頭が勢いよくオレの背中に当たった
「きゃっっ あっご…ごめんっ」
自分のおでこをさすりながらこちらに目を向けたユカの顔は
心なしか赤くなっているように見えた
「第三弾?……あ…あぁ…いいよ」
そういうとオレも前を向いて歩き出す
何か言わないと変かな…
でも何を言えばいいんだよ…

結局その後はほぼ言葉を交わすことなく、手を振って出勤した

また3日ほど姿を現さなかったユカは金曜日に玄関前に立っていた
「おはよっ明日どうする?午前中のチケット取っちゃっていい?」
なんだよ…今日は元気だな
「うんいいよ」
「じゃぁさぁ、9時半に家を出ようね」
「了解」

その日は映画の話やランチ何食べようかなんて話しながら歩いた


休日の朝
いつもより早く目が覚めた
シャワーを浴びて
いつもより少し長く身支度に時間をかけた
約束の時間に玄関を開けると
明るい色のワンピースに身を包んだユカが立っている
普段は黒や紺のリクルートスーツだからなのか
日の光の当たり具合のせいか
とてもまぶしく見えた

「いい天気で良かったね!さて、行きますか!」



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