『ふちなしのかがみ』辻村深月
ハードカバーにて読了。
ホラーはどちらかと言うと苦手なのだが、芦田愛菜ちゃんが『まなの本棚』にて紹介しているのを読んで興味を持ち手に取る。
ただの得体の知れないものの恐怖でなく、人の怖さや向こうの世界とこちらの世界の曖昧さを書いていて面白かった。
好きだったのは「おとうさん、したいがあるよ」と「八月の天変地異」。
「おとうさん、したいがあるよ」は読んでいる内に「あれ? 死体って何だっけ?」となるお話。
最初に1人の死体が見つかった時と次々と死体が出てきた後。
物語の中で死体の価値が変わってくるのが興味深い。
あまりに淡々と死体処理を行うので、「こちらの感覚が異常なのか?」と戸惑ってしまうが、それがちょっと癖になる。
「八月の天変地異」は子どもの心理をよく描いた作品。
クラスメイトから友達がいないと思われるのが嫌で作り出した架空の親友、ゆうちゃん。
教室という狭い空間の中。友だちがいないというのは自分の全てを否定されたように感じてしまう。その中でついてしまう、つけばつくほど自分を追い詰める嘘。
終わり方が切ないんだけどとても綺麗で好きだった。
どのお話もよく出来た短編で「一体これはどう言う意味なのだろう」と物語の中ではっきりと答えが出ていない部分について考えるのも楽しかった。
また辻村先生のあとがきが個人的に印象に残った。
『これを読んでくださっているあなたが、できれば今、後ろめたい気持ちでありますように。』
この本が大人から褒められながら読むものではなく、こっそりと隠れながら読むようなそんな本でありますように。
その考え方が私はとても好きだなと思った。