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掌編小説「弱者の論理」(900字)


我々は弱者なのだから、これくらいは許されて然るべきなのだ。


この村には二つの種族が共存している。
体は大きく力の強いリゴ族と、体は小さいがとても手先が器用なルサ族だ。

リゴ族は狩猟や建築などの力仕事を担当し、ルサ族は農業や道具作りを担当している。
二つの種族はお互いの長所を活かして共存しているのだ。

しかし、力の強いリゴ族がルサ族に暴力をはたらくなどの事件が度々起こっていた。種族間における決定的な力の差が、決して対等とはいえない社会構造を生んでいた。


あるとき、ルサ族の若者がひとつの発明をする。ルサ族は体内に微弱な電流をためることができるのだが、その電流を強力なものに増幅し放出するという道具である。

この発明は二つの種族のパワーバランスに衝撃を与えた。

リゴ族の大人すら一瞬で気絶させるその電流の威力は、リゴ族の高圧的な態度を改めさせるには十分なものであった。


リゴ族はルサ族に対し、その武器の製造と使用を禁止するように求めた。


「その武器は危険すぎる、いつ死人が出てもおかしくない。即刻、製造と使用を禁止してほしい。」

「君たちはその大きな体格や力を活かして我々との生活を豊かなものにしてくれている。しかし同時にどうしようもない力の差に傷つけられている者もいるのだ。我々が君たちに『その恵まれた体格や力を放棄しろ』と迫ったことがあるか?我々は弱者なのだからこれくらいは許されて然るべきなのだ。」


説得は無駄だった。リゴ族が怯えながら暮らす時代が来た。


しかしあるとき、リゴ族の若者がひとつの発見をした。

リゴ族の足の裏の皮は電流を通さない。リゴ族は1年に1回、脱皮をするので、その足の裏の皮で肌着を作って着ればよい。そうすればもうルサ族の電流武器を恐れる必要はない。


「リゴ族よ、最近また我らへの暴力行為が増えていると聞くぞ。いったいどういうことだ。」

「それは貴様らが弱者だからということだろうな。わっはっは。」


なんということだ、この武器さえあればと思っていた。

やはり気絶させるだけでは生ぬるかったのだ、こうなったらヤツらを一撃で再起不能にするくらいの威力のあるものを作らなければなるまい。

我々は弱者なのだから。


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