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第2回スタァライト脚本樋口達人氏によるトークショーレポ(2023/01/20)@シネマシティ

この記事は、2023年1月20日(金)18:55よりシネマシティ立川aスタジオにて、『少女☆歌劇レヴュースタァライト』TV版5-8話の極音上映ののちに20:30頃から40分ほど行われた脚本家樋口達人氏によるトークショー(1月13日に引き続き第2回目)についてのレポ・感想になります。丸括弧内は注釈や自分の感想です。話を聞きながら殴り書きしたメモを後で復元しているため、一部不正確なところがあると思います。予めご了承ください。より詳細な内容についてはTwitterやブログで上げられている他の舞台創造科の方々のレポも併せてご覧ください。

このトークショーは1/13〜2/3の毎週金曜日、全4回構成となっており、今回はその第2回となります。
1/13(金):TV版1-4話「舞台少女、武器の名称はいかにして生まれたか」
1/20(金):TV版5-8話「3つの視線で変わるTV版シリーズ構成」
1/27(金):TV版9-12話「終わりの続き。劇場版への線路」
2/3(金):劇場版「『体感する映画』への脚本からのアプローチ」

まず初めに

 前回と同じくトークショーの初めに仰られた言葉。「これは制作時のエピソードの紹介であって、答え合わせではない」
 これは舞台創造科として常々意識しておきたい。

第2回テーマ:
「3つの視線で変わるTV版シリーズ構成」

オープニングトーク

 前回に引き続き、樋口さんとシネマシティ編成部の折原さんのお二人で進行。Twitter上で話題になっていた「トークショーが大学の講義みたい」「スタァライト概論」(多くの大学において「〇〇概論」という講義名がよく採用される)に触れ、「今回はスタァライト概論2限目です(笑)。助手として頑張ります!」と折原さん。
 音響チェックのため、事前にTV版5-8話を鑑賞していた樋口さんは、「映画館の音響とスクリーンで観るTV版はとても良い!『RE:CREATE』で号泣した。スゴイものを観た」と絶賛。また、「改めて観るとTV版のときから劇場版に繋がるようなシーンが多くあった。とっぴー(古川監督の愛称)やっぱすげえな」と監督へ賛辞も送った。
 お二人が椅子に座ったところで、「実は今日キリンシャツを着ているんです。本気を出すときはいつも着る」と樋口さん。池袋や新千歳で行われたトークショーの際にもキリンがあしらわれたシャツを着ていたのに誰も気付いてくれなかったと残念がっていた。

キーワード:
「3×4=4×3=6×2=12」

 早速本題へ。まずテーマを読み解くキーワードとして「3×4=4×3=6×2=12」という数式がある。これらは「愛城華恋、神楽ひかり、大場なな」という3人の主人公格キャラからTV版全12話を捉えたときの見方を表している。
・愛城華恋:起承転結という構成(3話×4=12話)
(王道の主人公が運命の再会を果たし成長、挫折、再生産するまでを描く)
・神楽ひかり:序破急という構成(4話×3=12話)
(レヴューを知る謎の転校生、過去の出来事、運命の舞台とその結末を描く)
・大場なな:再演の事実が明かされる前後の2幕構成(6話×2=12話)
(全てを知っている女の子が眼鏡の女の子に救われるまでを描く)
という3つの流れが同時に進行するという面倒臭いことになっている。どうしてこのような構成になったのか。
 一つの理由は尺が足りないこと。前回も言ったように元々九人の物語ということは決まっていて、各キャラクターの主役回を作ろうとすると12-9=3話しか余らない(いつも監督と一緒に尺が足りない、尺が足りないと言っていたらしい)。そこで、彼女たちの関係性を描くことで圧縮することになった。
 もう一つの理由は、初期の段階でBlu-ray Disc BOXの構成が4話×3となることが決まり、「4話で区切ることに理由を持たせたい」という監督の希望があったこと(BD BOXの販売形式はアニメ制作初期段階に決定されるんですね。知らなかった)。ある意味で「シリーズ構成のキャラクター化」が行われた。これはキャラの物語における立ち位置をはっきりさせることでキャラへの解像度を上げてもらおうという意図でやったが、うまく功を奏したと思う。

ストーリー構成に隠された「仕掛け」

 例えば大場ななについては、初期段階から決まっていた再演しているという設定があった。ここから、「表現することでしか生きられない人間が、孤独な状態から自分の居場所を見つける」という感情移入しやすいストーリーにすることで、視聴者にもっとななのことを知りたくなるようにし、ななの目線から「再演」を、つまりTV版1話〜6話を再度見返してもらえるように意識して作った。この仕掛けによって、受動的だった視聴者を、視聴者自身に生じた思いを燃料として能動的な観客、すなわち舞台創造科へと再生産することができたんじゃないか。(プロの脚本家の妙技だ……!まさにその筋道を辿ってきました!!)
 このような仕掛けは他にもある。7話と8話でそれぞれななとひかりの過去の回想をやったが、一般的に2話連続で回想を入れることはそうそうやることではない。この2話で「この作品はこういう構成をする作品ですよ」というスタンスを提示する効果を狙った。これについては、5話でまひると華恋に焦点を、6話で双葉と香子に焦点を当てて物語を展開することで、「順番にペアの関係を描くんだ」と視聴者の無意識に物語構造を刷り込み、それを7話と8話で覆すための伏線を仕込んでいた。さらに、Aパートのラスト、アイキャッチ直前の展開を5話ではまひるの「そっか」、6話では香子の「せや」で切ることで並列構造を誤認させ、主人公格のななやひかりへの視線を巧妙に誘導していた。(聴いてて鳥肌が立ちました。まんまとひっかかった)
 ちなみに、7話がなな回なのは、監督と「ななだから『なな』話だよねえ」と半分冗談半分本気で話していたのが大きい。その後の展開としては、8話でオールキャストが揃い、9話で華恋というイレギュラーが入り、12話まで駆け抜けるといった感じ。

「シリーズ構成のキャラクター化」

 結局、なんでこんなに面倒なことをやったのかといえば、ストーリーの外側にもキャラクターがいないと監督のオーダーには応えられないから。その意味で「シリーズ構成」が「キャラクター化」した。さらに言えば、当時2017年-2018年は今ほどではないもののアニメが多い時代で、メインキャストの九人が他の分野でのキャリアはあっても声優としてどうなるかは未知数だったからこそ、脚本として全力を尽くし彼女たちがキラめける最高の舞台を用意してあげたいという思いもあった。
 その当時、樋口さんは自らの作家性を追求するというよりは、強烈な個性、強固なベクトルを内に秘めた作家に力添えをすることにモチベーションがあり、そんな中で古川監督に出会った。これは本当に巡り合わせが良かった。ブシロードの武次Pの存在もとても大きい。「変なことならOK!」と言ってくださった。OPのクレジットで武次Pにキラめきがついているのもそういうこと。
 前述の通り、「全12話」という制約のもとで生まれた構成だから、これがもし全13話だったらこの作品にはなっていない。でも尺が足りないことの不都合もあり、例えば愛城華恋が舞台装置になってしまったこと、そしてクロディーヌを描き足りていないこと。クロディーヌは本当に魅力に溢れた子なんですよ。これについてはずっと補足したいことだったので、来週以降「人間:西條クロディーヌ」について話をしたい。
 5-8話が一番「すべてはスタァライトのために」という構成が色濃くでている。今回話した内容の一部はBD BOX 2の特典ブックレットにも書かれているので、是非購入を。ということでメインの講義パートが終了。

質問への回答

Q. なぜキリンなのか
A. 監督案件

Q. なぜ9人なのか
A. ブシロード案件

Q. 星見純那の名前に「星」が入っているのはなぜか
A. これについては「劇場版スタァライト打ち上げ大パーティー前夜祭生放送」で話したが、「星を掴むために邁進する女の子」だから「星を見る」。星を掴んじゃったら「星つかみ純那」になっちゃう。「星条旗を掴む」から劇場版EDでアメリカに行った。(Yotubeのスタァライトチャンネルに上がっている配信アーカイブはどれも面白いので是非観ることをオススメします)

Q. 設定資料集にはひかりとまひるの宝石が載っていないが、設定はあるのか
A. 小出副監督案件。武器などの設定は全部彼が中心になって作ってる。今度小出さん呼ぶか(笑)。

Q. 星見純那とその親の関係はどうなのか
A. 再生産総集編ロンド・ロンド・ロンドのパンフレットに九人の聖翔入学願書が載っていて、出身が長崎の大学附属教育学校であることは明かされている(九國大学教育学部附属長崎東中等教育学校)。また、舞台#1で舞台の道に進むことを親に反対されている。この辺からお堅い感じが感じられるので、両親共に教師なのではないかと思っている。(ロロロや劇場版のパンフレットには色々な情報が載っているので舞台創造科の皆さんは買いましょう!Kindle版の電子書籍があるので是非!)

Q. 一部を除いてキャラの身長の設定が開示されていないがなぜか
A. 舞台があるのが一番大きい。明確に身長を決めてしまうと、それはただの数字になってしまう。双葉と香子のように作中とは逆転している場合もあるからあえて公開していない。実際に並んだときの身長差も楽しんでもらいたい。香子の背が急に伸びてななを超えることだってあるかもしれない。

Q. TV版序盤の華恋のだらけた様子と劇場版で描かれた中学時代のやる気のある様子にギャップがあるのはなぜか
A. 2つ可能性がある。1つは、ドラマで10年後2人とも独身だったら結婚しようという約束が交わされることもあるが、実際は10年間約束を通し続けるのは大変。それと同じで華恋は中学から高校にかけて徐々に約束を果たすための燃料が枯渇していってしまった、という説。ひかりは華恋から手紙という形で燃料を一方的に供給され続けているのに、華恋へは何もない。もう1つは、運命だからという説。学校でどんな順位をとっても、運命だからひかりさえ来れば自分は本気を出せると考えていたのかもしれない。残念ながらまひるは報われない。

Q. ジュディ・ナイトレーはなぜ帽子を被っているのか
A. 1話のレッスンシーンで真矢もクロもひかりも学校指定のレオタードを着ていない。彼女らは首席、次席、転校生。なんで学校指定のものを使わないかと言えば、たぶんイキっているから。ジュディも一緒で首席だからイキっている。だから帽子を被っている。というかイキっていないとひかりには勝てない。ジュディについての話はどこかでやりたい。(ありがとうございます〜〜〜!!!!)

Q. ななの純那への執着はどこからか
A. 9話を観ていただければわかると思います。

Q. 双葉がバイクに乗る設定はどこからか
A. 監督と一緒におにぎり2個で木谷さんによるスタァライトのオーディションをずっと見てた。そのときの生田輝さんはショートで元気よく動く、とキャラがすごく立っていた。その時の第一印象からの連想で監督と「ヤンキーキャラいいですよね。バイク乗ったり」と雑談していた(生田さんがヤンキーだということではない)。いざオーディションが終わってみると生田さんは見事合格していたため、せっかくならとバイクに乗せることになった。そうして、バイクに乗ってて小さかったら面白いよね、一番誕生日が早いのに小さかったら面白いよねということで設定が決まっていった。第一印象がそのまま形になった。

Q. アニメの前に行われた舞台#1とアニメの間に連携はあったのか
A. #1の前に原案という形で1-3話のシナリオを舞台チームと共有していた。#1で描かれた、舞台少女は舞台に立つたびに生まれ変わるというところから第11話の舞台少女心得に繋がった。関連して#2の冒頭部分がTV版と重なるところがあったりする.こういった舞台とアニメの相互作用はメディアミックス、二層展開式ならではで、緊密な連携をとることができた。走駝先生とキリンで舞台とアニメの住み分けができていると思う。

Q. 双葉とクロディーヌ、まひるとすず、ななと氷雨などの関係について
A. 青嵐組については舞台チームの三浦さんや児玉さんが主導なので自分が勝手に動かせるものではない。クロディーヌは香子がやきもちをやくこと知っていて双葉と絡んでいる。実は6話でクロディーヌ扮する「仮面の舞台少女、マスク・ド・シャノワール」を登場させて、双葉からは「なにやってんだ?クロ子」と即バレする話もあったりしたが、これに関しては武次Pに悪ふざけがすぎると却下されてしまった。(西條クロディーヌ役の相羽さんネタ)この辺が紆余曲折を経て香子が真矢に贈った飴ちゃん一個のオチになった。

Q. 前回の質問にあった「華恋がちゃんと〜♪起きられる日が〜♪来るなんて〜♪」の2番の歌詞を思いつきました!「華恋がちゃんと〜♪起きられるのは〜♪まひるのおかげ〜♪」です!CD化お願いします!
A. 採用!CD化はポニーキャニオンさん案件!(折原さんが生歌を披露してくださいました)

Q. 執着する舞台少女たちについてどこかから着想を得ているのか
A. 九人の執着は極力等身大の女の子のものになるように意識した。できるだけ視聴者の感情や経験と紐つけてもらえるようにしようと。トップスタァを目指している真矢とクロディーヌのモチベーションは視聴者から遠く分かりにくいので、誰しもが持っている焦燥感を全面に描くようにした。クロディーヌの部屋に置いてある賞状には天堂父の名前が入っているのも追いかける側と追いかけられる側の焦燥感の演出。(これ全然気付いてなかった……。あとで見返します)

Q. レヴューは全組分の日程表・勝敗を作ってあるか
A. 一旦作った。というかキリンが予定表を持っていたが、華恋が飛び入りしてぐちゃぐちゃになった。キリン案件。

Q. クロディーヌの天蓋付きベッドは両親からのプレゼントか
A. 一応学校の寮なのにあれを贈ってくる両親がいたらやばい。よく双葉もあの部屋に転がり込んだ。ファンからのプレゼントかニトリで買った、もしくは5,6歳のときにフランスから空輸して両親に買ってもらった(買わせた)ものをずっと使っているのかもしれない。

Q. ひかりが華恋のキラめきを奪わせないことを決めたのはいつか
A. 4話の約束タワー下の滑り台の上でもう決意していたのかもしれない。華恋が飛び入りした段階で、当初のひかりの計画は破綻していたわけだが、華恋の前向きさに助けられてとりあえず前に進むことができた。でもひかりは聡い子なので、いつか華恋と戦うことになるかもしれないということは考えてた。

Q. ものをつくるときの苦しみ、楽しみはどんなとき感じるか
A. ものを書いてる時はいつも苦しい。とはいえ、苦しまないと良いものはできない。本読みの現場はいっぱい大人がいる空間で、最大15人くらい参加してみんながケチョンケチョンに言ってくる(笑)。監督も「いいと思うんですけど」という前置きをしてくるが絶対思ってない(笑)。でも頑張って最終的にコンテになったらやっぱり嬉しい。
 あと、こういうイベントが一番楽しい。大変だったことを振り返って語ればいいから。このあとすぐに原稿を上げろとか言われないのがいい。ちなみにTV版第1話については17,8稿は書いた。単純計算で第1話だけでも17,8週かかったということ。酒と甘いものを口にする数がどうしても増えてしまった。でもそのおかげでこういったイベントに参加できているわけで、なんだかんだ帳尻の合っている人生だなあと思っている。

次回予告

 「なんか色々マニアックな話をがーっと話してしまってすみません」と樋口さん。折原さんは「まだ2限目ですよ。これで折り返しなのでまだまだよろしくお願いします」と樋口さんを鼓舞した。恒例のフォトセッションでは、舞台のセンター、ポジション・ゼロに立った樋口さんが右手でポーズを決めながら満面の笑顔で対応してくださった。「写真は魔除けにでもしてください」とのこと。
 3限目となる次回のテーマは「終わりの続き。劇場版への線路」。TV版最終回や各話サブタイトル、再生産総集編や劇場版、スタリラのアルカナ・アルカディアへの繋がり、そして「人間:西條クロディーヌ」について話したいとのこと。スタリラメインストーリー第2章の「削劇」についてはTVシリーズが完結した後、最初の仕事だったらしい。(スタリラ=スマートフォン向けアプリ『少女☆歌劇レヴュースタァライト Re LIVE』)
 最後、折原さんから「何か告知があればどうぞ!」と振られるも、「告知!?ないない」としていた樋口さんだったが、去り際に「来週、監督来るよ!」と爆弾発言を残してトークショーの幕が下りた。
 その後シネマシティさんの公式Twitterアカウントで告知がなされ、急遽古川監督が1/27(金)のトークショーに登壇されることになったと発表があった。詳細は以下の引用ツイートで。(あのオーケストラコンサートの裏でそんな一幕があったとは!なんかほっこりしました(笑))

あとがき

 今週も樋口さんのとても興味深いお話が聴けて大満足でした!制作裏話のエピソードだけではなく、プロの脚本家から見た物語の構成方法といった技術的なところまで踏み込んでお話いただき、素人ながらとても勉強になりました。あとから振り返ってみるとかなり高度な内容だったのにもかかわらずお話についていけたのは、樋口さんの語り口が聞きやすく論点も整理されていたからだと思います。一流の大学の講義のようでした。本当に感謝感謝、感謝です!
 TV版5-8話も素晴らしかった……!巨大なスクリーンと大音量かつ緻密な音響で観る「孤独のレヴュー」があまりにも良かったです。前回のお話で聴いていた「Caliculus Bright」から「Blossom Bright」への変化、キラめきの再生産のところで『RE:CREATE』の歌詞のタイミングが完璧に合っていて……!もう最高でした!
 監督もいらっしゃるということで、来週のトークショーも可能な限り参加したいと思っています!
 樋口さん、シネマシティさん、今週もありがとうございました!

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