#7 夏みかん酸っぱし今さら純潔など(鈴木しづ子)/夏みかんゼリー
春から初夏は、いろんな種類のみかんがお店に並んでいる。
(戦後、みかんをたくさん作るぞ〜!という流れに乗った結果らしい)
そして、ありがたいことに、あちこちから頂くので、
台所は、柑橘のいい香り。ポッと空間が灯るようなあかるい黄色。
甘夏、パール柑、ジューシィと3種がそろったので、ゼリーをこしらえた。
夏みかんゼリーの作り方
夏みかんゼリーの下にまっしろなミルクプリンをさきにこさえて、二層に。ゼリーはローズマリーの風味をつけてきりりと。
材料
みかん3個(種類をまぜてもいい)
砂糖 大さじ3(控えめです。増やしても)
粉ゼラチン 5g
水 300cc
白ワイン 50cc(なければ、水)
ローズマリー ひと枝
作り方
①粉ゼラチンを水大さじ1(材料外)で10分ほどふやかす。
②みかんをむく。ムッキーちゃんが大活躍します!
③水、白ワイン、ローズマリー、砂糖をひと煮立ちし、粗熱がとれたらふやかしたゼラチンを溶かす。
④みかんをバットに入れて、冷やし固める。
⑤冷やし固めたミルクプリンに、そっと盛り付ける。
※ミルクプリンは、こちらを参考に作りました。
一緒に味わいたい詩
夏みかん酸っぱし今さら純潔など 鈴木しづ子『指環』
この句を詠んだ鈴木しづ子さんは、1919生まれ。母と婚約者の死、離婚、恋人であった米兵の死。戦中戦後の混乱期といえど、これはちょっとあまりにも…。そして彼女は、20代で2冊の句集を出して消息不明になった。
「娼婦またよきか熟れたる柿食(た)うぶ」(『指環』所収)などの句もあってよく「娼婦俳人」「奔放に生きた」など言われているのだが、
はじめての句集『春雷』のあとがきはこうだ。
句は私の生命でございます。俳聖芭蕉の詩精神に一歩でもちかづくべく、こののちともより一層の努力をいたす心組にございます。
未発表句は7300ほどあったという。
戦争によって激しくかき乱された人生を、「私の生命」である句を読みながらひとりの女性が生きた。その凄味に、「奔放」だとか「娼婦」、「ドロに落ちた」(!)なんて言葉は太刀打ちできっこない。ナンセンス。
加えて言うなら、20代前半の歌は正直いって陳腐で心に響かない。
鈴木しづ子としての表現に厚みが増すのはいろいろと経験してからなのだ。
自分のいまの姿を客観視するリアルな視線に、研ぎ澄まされたものがある。
さて、回り道をしたけど、前掲歌「夏みかん酸っぱし今さら純潔など」。
酸っぱい、と言われようが酸っぱい夏みかん。
なんと言われようが自分は自分。
しかたないでしょ、と開き直っているような句切れから、純潔など、と言い捨ているところが、かえって「清さ」へのうっすらとした未練を感じさせる。それで、やさしい白いプリンを下にしいてみた。
コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ、と歌ったしづ子さん。消息がつかめず、死に方についてろくな噂がない彼女だけど、生きて、どこかで幸せになっていてほしい。コスモスのような微笑みもあったと信じたい。
作者とおすすめ本
◆作者
鈴木しづ子(すずき・しづこ)1919年〜?年 東京生まれ。
10代で俳句にいそしみ、男性名で投句していた時期も。1946年、戦後すぐ第一句集「春雷」を刊行。1952年、恋人である米兵の死などのさなか、師である松村巨湫宛に送られていた未発表作品をまとめた第二句集『指環』が刊行される(※しづ子にほぼ無断で)。同年9月15日付の投句を最後に消息不明となる。もの静かで頭の良さそうな美人だったらしく、尊敬する師・巨湫にも自分のことはあまり語らなかった。
◆おすすめの本
『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』