#34 「またね」と言うくらいのつよさ(千葉聡)/ポークソテー、おとなのマーマレード添え
詩を文字通り「味わう」ためのエッセイとレシピです。レシピもあるので、よかったら詩を読んで味わい、作って味わってみてください。
マーマレードをつくりながら思い出話
八朔をたくさんいただいた。こぼれるオレンジ色。
せっかく無農薬なので、マーマレードをつくることに。午後3時、東京の友だちとオンラインでお茶しながらひたすら皮をむいていく。
久しぶりに話す美咲は、大学1年からの友人。上京して、たくさん遊んだころの思い出をぽろぽろ。
「中華街にみんなで行ってプリクラとったね」
「ディズニー行ったの、シーだっけ?」
八朔が指に香る。なつかしい思い出が胸いっぱいにひろがる。
これからの夢や、しごとのこともたくさん話した。
大学からの友人って小学生からの友人に比べれば新しい気がしてたけど、降り積もる思い出話の多さ。なんだかんだ付き合いが長いね、と笑ったあと、「ずっと友達でいてくれてありがとう」と、ふいに美咲がいう。
こちらこそ、ありがとう。
1時間かけて、山のようにあった八朔をようやくむき終わる。「じゃ、またね〜」と通話を切ったあと、マーマレードを煮た。畑のローズマリーも足して、大人のキリッとした味にする。ローズマリーを入れると、味の深みもぐっと増す。
きらきら、とろりとしたジャムの完成!
夕食には豚肉のロースをソテーして、できたてのマーマレードをそえた。ローズマリーのおかげで、肉にもとてもあう。ナイフで切ってほおばると、豚肉のあまみが来てすぐ、柑橘のさわやかな苦みが味の奥行きをひろげてくれてなんともおいしい。
フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ
『そこにある光と傷と忘れ物』(2004)千葉聡
この句から浮かぶのは、東京で暮らしていたころに、雑踏で友人と別れる瞬間だ。永井陽子さんの「譜を抜けて春のひかりを浴びながら歩む f (フォルテ)よ人体のごとし」という短歌とも響き合い、わたしのなかでフォルテは「歩む友」へ送る思いの強さのイメージになった。
美咲は長野から、わたしは福岡からの、慶應生では数少ない「上京組」だった。だからか、故郷を離れて一人暮らしするさみしさを抱えて生きている同志という連帯感がある。遊んで夜になって、「またね」と歩きはじめてすぐに、「がんばろ!」と「さみしい」の気持ちが一気に押し寄せたものだった。
そんなわたしたちも30台に突入したけど、まだ悩むことだらけだ。次会った時、どこで何しているかもわからない。「また」が本当にあるかだってわからないのだ。それでも「またね」と祈りを込めてフォルテで言う、人生の濁流にふたたび飲み込まれようとする友に。
彼女は東京に、わたしは岡山にそれぞれいる。ポークソテーをまたひとくち。強く生きねば。フレッシュな思い出も、苦味も、だんだんこっくりと色を深め、またあたらしい力になる。ローズマリーの風味をすいこむ。
おとなのマーマレードのレシピ
【材料】
・八朔
・砂糖 皮と実の総重量の約40パーセント
・ローズマリー
【作り方】
・皮をむいて薄皮をむき、薄皮と実をわける。
・皮を刻む(なるべくうすく)
・湯をわかし、皮を3度ほど煮こぼす
・皮と実と砂糖を煮詰める。
★ポイント…とろみがついてきたら火を止める。冷えるとどんどんかたくなっていくので「ゆるいかな」くらいでとめる。
・煮沸消毒した瓶につめる。
作者とおすすめの本
▼作者について
千葉聡(ちば・さとし)1968- 横浜市生まれ
歌人、高校教諭。
Twitter( @CHIBASATO)アイコンは生徒さん作かな?お人柄が伝わってきますね。SNSですてきな短歌を紹介してくださっており、やさしく語りかけるようなつぶやきは、すーっと心に入ってきます。掲載歌は、高校教諭として出会いと別れをたくさん見てきたことや、吹奏楽演奏が背景にあるのかも。
著書に『グラウンドを駆けるモーツァルト』『はじめて出会う短歌100』『短歌は最強アイテム』など。
▼この本で千葉聡さんをしりました!現代の歌人を知るのにおすすめです。
▼わたしはずっと体育会系だったので文芸部の青春うらやましい。