【あなたに贈る詩】最後にクスッと笑ってしまう詩
SNSで「どんな詩が読みたいですか?」と呼びかけたところ、リクエストをたくさんいただいたので少しずつお答えします!
▼これまでのリクエストはこちらから
今回は「最後にクスッと笑ってしまうユーモアのある詩」というリクエスト。かれこれ10年近く仲よくしていただいているお姉さま、清家瑞穂さんから。
10年も親交があるのに、彼女に会うたびに新鮮に驚きます。こんなに人にやさしくできるものなの?大天使がいたらこんな感じなんだろうか…と真剣に思っちゃうような人なのです。それでいて、とてもチャーミングな瑞穂さん。リクエストありがとうございます。
愛すべきユーモア
川崎洋の「海で」というタイトルの作品。
宮崎の海で、「以下のことに出逢いました」とはじまるこの詩。
浜辺で
若者が二人空びんに海の水を詰めているのです
何をしているのかと問うたらば
二人が云うに
ぼくら生まれて始めて海を見た
海は昼も夜も揺れているのは驚くべきことだ
だからこの海の水を
びんに入れて持ち帰り
盥(たらい)にあけて
水が終日揺れるさまを眺めようと思う
と云うのです
そして「いい土産ができた」と口笛を吹きながら去る若者を見送った「ぼく」。
夕食の折
ぼくは変に感激してその話を
宿の人に話したら
あなたもかつがれたのかね
あの二人は
近所の漁師の息子だよ
と云われたのです
ふふふ。
「生まれて始めて海を見た」青年たちの行動への詩的な驚き、そして彼らはその実、漁師の息子だったというオチ。
「あなたも」ということは、彼らけっこうこのネタを使っているんですね。
だまされたのに、なぜか愉快な気持ちになる詩です。
むしろこんなふうにだまされたら、旅の思い出としては最高だな。
「と云われたのです」という最後の一文から、作者・川崎洋の「ふふ、聞いてよ、もう」みたいな表情が見えそう。
宮崎の海なので、ほんとうは漁師の息子たちも宿の人も宮崎弁だったんじゃないかな、と思います。旅先で出会ったあったかくて、豊かな「だまし」に、何度読んでもクスッとなります。
瑞穂さんにも気に入っていただけたでしょうか?
川崎洋は、全国の方言収集も精力的に行い、1982年から読売新聞で「こどもの詩」をあたたかいまなざしで選評し、人気を博しました。人を愛情をもって見守り、ユーモラスに言葉をつむげるひとです。
ユーモアhumorは、人間human を和ませ、人間たらしめるもの。
では、また。
東京なのか、どこなのか、また会える日を楽しみにしてます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。