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やっぱりお客さんの笑顔を見たい。それしかできないんで。<PSJ2018ファイナリスト・泥酔侍>

2016年のポエトリースラムジャパン(以下、PSJ)大阪大会に出場して以来、独特のストーリーテリングで存在感を醸している泥酔侍(でいすいざむらい)さん。2018年の大阪大会で優勝し、全国大会進出を果たしました。

ご本人曰く「ダメだけど憎めない」キャラクターたちが繰り広げる、可笑しいほど残念極まりない、時には残念が過ぎてホラーになっちゃうような一人称語り。一度聴いたら忘れられません。

休日の午前中、その名前に違わず二日酔い中という泥酔侍さんに、詩や朗読との奇妙で楽しい関わりについて伺いました。思っていた以上に真面目(失礼!)な、泥酔さんの横顔がうかがえますよ!

お題「耳毛」で朗読デビュー!

―普段は何をされているんですか?

泥酔侍:仕事は外回りの営業です。1日の半分以上、外出で。最近ね、少しエライさんになったんです。昇進をして。

―それはおめでとうございます! 会社の方は朗読活動のことはご存知なんですか?

泥酔侍:半分くらいは知っています。一人は聞きに来てくれたことがありますね。ウケてました。会社の集まりで発表することはないですが(笑)

―ポエトリーリーディングを始めたきっかけはなんだったんですか?

泥酔侍:大阪の中崎町に、Common Bar SINGLES(コモンバー・シングルズ)っていう、日替わりマスター制のバーがあるんですよ。マスターによっていろんなイベントをやるんですね。そこに通うようになったのが最初です。
リーディングをされる方で、バー・シングルズ出身の方って結構いらっしゃるんですよ。待子あかねさんとか、(PSJ大阪大会を主催されていた)河野宏子さんも。

―そうなんですね! 元々はなんでシングルズに?

泥酔侍:雑居ビルを回って、風変わりなバーを探すのが好きで。飛び込みで入ったのがシングルズだったんですね。その時は池上さん(池上宣久さん:詩のボクシングやPSJでも活躍されている朗読詩人)が企画した「推理合戦バー」というバーでした。これはなかなかないな、と思って。
ちょっと研究してから、自分もマスターをやりました。ブリティッシュミュージックバーとか、画力対決バー、ホラー映画バー、プロレスバー。イギリスの音楽が好きなんですよ。CDが900枚くらいあるんです。
画力対決バーというのは、出されたお題について、何を見ないで絵を描く。出来上がったのを、飲みながら見せ合うという。

―面白そう。そして積極的ですね!

泥酔侍:それで、シングルズに通ってるときに、池上さんから「朗読バー」というのに来てくれっていう、まあ無茶ぶりをもらったんです。「耳毛」というお題で何か書いて持って来てくれ、と。それで2〜3週間後の朗読バーにお邪魔させてもらったんですけど…。

―朗読バーはどんな感じでした?

泥酔侍:みんな堂々と朗読されていて、びっくりしましたね。11人くらい入る、L字のカウンターだけの店なんです。入れ替わり立ち替わり、顔を見せ合いながら朗読するという感じですね。
その時は、恥ずかしくてお酒ばっかり飲んでいました。常連の人たちの朗読を、感心しながら聞いていたんです。でもまあ、2時間くらい飲んでいるとベロベロになって麻痺してきて、せっかく「耳毛」で書いてきたんで、勇気を出して朗読したのが初体験ですね。

―みなさんの反応はどうでしたか?

泥酔侍:ちょっとウケましたね。シングルズはフレンドリーなんで、わりと。知らない人の前でやるのと違って、やりやすかったです。
朗読バーは想像以上にフリーダムな世界で、タブーがないというか。私みたいなポンコツでも怒られないということに安心して、通ってましたね(笑)。でもいま思うと、シングルズは特別だったかもしれませんね。お酒ガブガブ飲みながらやってましたから。入場料はなくて、お酒代だけでいいっていう。

プロレスラー・越中詩郎の言葉を胸に、PSJ初出場。

―そして2016年、PSJ初めての大阪大会に出場されます。

泥酔侍:そのときも、池上さんから出てみないかって誘われて。完全に池上さんが師匠的な立場で(笑)。
ステージに上がるのはその時が初めてだし、椅子じゃなくて立って朗読するのも、マイク使うのも初めてで。観客の方がいる舞台は恐怖感以外の何物でもなかったんですけど。出るかどうか迷っているときに、頭の中に浮かんだ言葉が「俺はどこのリングでも上がる!やってやるって‼︎」という、これ、越中詩郎っていうプロレスラーの名言なんですけど。それで出場することにして。なんだかんだで4大会連続で出場することになりました。

―2016年の大阪大会も、強烈な出場者が揃っていましたよね。

泥酔侍:シングルズとはまた全然違う方々もいっぱい出られていて。怒られるかなと思いながらやってたんですけど(笑)。ビビりながらやりました、あの時は。ステージがすごく高く思えましたね。
大阪大会の一回戦はたしか「歯くそ」という作品です。「耳毛」と同じで「歯くそ」も池上さんから出されたお題なんです。

―すごいお題…。

泥酔侍:たまたま合うんでしょうね(笑)。結果、準優勝でした。そのあと名古屋大会に2回連続で出るんですけど、2回とも1回戦負け。で、完全に「私、一発屋なんだ」と思ってたんです(笑)。だから今回の大阪大会ではもう、気負わずいこうと。ほかの方の朗読を楽しんで聞きたいと思って。打ち上げもあると聞いていたんで、お酒を楽しく飲めたらいいなという気持ちで。まさか決勝に行けるなんて思ってなくて。今回は緊張せずやれました。

―2016年から毎年出場されて、変わってきたことはありますか?

泥酔侍:慣れも、多少はあるかもしれないですね。2016年以降は寝太郎くん(川原寝太郎:PSJ2017年ファイナリスト)からもわりと誘われて、イベントに参加したりしたので。違う舞台に立つとやっぱ緊張しますけどね。

朗読を通じて知り合いが増えていくのは嬉しい

―朗読やっていて楽しい、面白い瞬間ってどんなときですか?

泥酔侍:楽しい、面白いっていう瞬間はたくさんあるんですけど。知り合いが増えて行くのはまず嬉しいですよね。朗読の方々、大阪の方も結構仲良くしていただいて。あと、みなさん似ているようで似てないじゃないですか、作風が(笑)。毎回新鮮に聞かせていただいて、面白いですよね。

―それを言ったら、泥酔侍さんの作品こそ新鮮ですよ!?

泥酔侍:今回の全国大会での皆さんのステージ、全員圧倒されたんですけど。中でも短歌のおふたり、野口あや子さんと本山まりのさん。クール&セクシー&ムーディーという感じで、衝撃でした。あれから本を買って二、三冊読んで勉強してます。短歌、面白いですね!

―吸収力がすごい! どんな短歌ですか?

泥酔侍:じゃあ、ひとつだけ。

“常人の8倍飲んでた親父死ぬ さぞかし早く燃えるだろう”

これは会社の、大好きだった酒豪の先輩が亡くなるとき、親戚の方が「早く燃えると思います」って言った言葉が粋で、染みた言葉だったので。
亡くなる前日の日にお見舞いに行って、ギリギリ間に合ったんです。でも末期ガンでしたからね、もう意識もない状態、もって今日か明日くらいの感じで。変わり果てた姿を見て、ボロボロに泣きましたから。そんな時に、親戚の方からこのジョークが出てくるんですよ。泣き笑いしました。

―それは…! それはそのご親戚の方もすごいですね。

泥酔侍:そうですね。本人も豪快な人でしたけど。ちょっと半端なかったです、飲み方が。お通夜にも、居酒屋さんから花が届いていました(笑)。

―泥酔さんも飲まれるんですよね?

泥酔侍:飲みますけど、そこまで強くないんで、私はもう「常人」です。ただまあ、回数が多いくらいで、一回の量はそうでもないですね。

―今回、大阪で優勝していかがでした?

泥酔侍:嬉しいのはもちろん嬉しいんですけど、出場者の方々の全力で戦っているまぶしい姿とかね、積み重ねてきたであろう努力とか、悔しい感情とかを肌で感じて。僕なんかを祝福してくれる、温かい言葉をいただいたりして、それを全部背負って決勝の全国大会に行くので、負けられないという気持ちはあったんです。
1回戦の2巡目で「歯くそ」を読んだとき、審査員のおひとりから0点いただいたときは「やっちまった!」「大阪の皆さんすみません」って。
結果は満足しているんですけどね。0点というのは、それだけホラー的な要素で嫌がらせることに成功したというか。どっちに転んでも目的を達成できる、万能作品です(笑)。

―ホラーとして、そこまでの拒否感を引き出したと。

泥酔侍:嫌がる方には、2作目3作目、参ったと言うまでトラウマ体験させてあげたいです(笑)

ちょっとダメな人って、だいたい好きなんです。

―泥酔侍さんの作品、特に今回の大阪大会で読まれたシリーズなど、すごく馬鹿馬鹿しいけど、何か哀愁みたいなものが残ったりもしますよね。

泥酔侍:深みが出てくればいいんですけど、ないんですよ(笑)

―いやいや、ありますよ! そういう作品の雰囲気はどこからくるんでしょう? シングルズ以前は、創作はしていなかったんですか?

泥酔侍:作ってないですね。ブログでは、音楽のレビュー的なものをユーモアを交えながら書いてたんですが。
高校時代は空手部で、大学時代はバイトしかしてない。あともう、お酒を飲んでましたね。酒を飲んで人生経験させてもらったのを、多少は活かせているかなという感じですかね。年代の上の人とかと飲んでたので。

―登場人物のキャラクターは、どうやって発想してるんですか?

泥酔侍:今回やった作品の主人公、「流星号」に乗っている人は、多少のイメージはあります。会社のダメな先輩なんですけど、憎めないというか。ちょっとダメな人って僕、好きなんですよ、だいたい。

―ダメだけど憎めない登場人物…。例えば、落語とかお好きですか?

泥酔侍:はい。お笑いは全般的に好きですね。海外で言うとミスタービーン。日本ではM-1とかコントとか。作品にも影響していると思います。根本はユーモアを含んだ作品を作っていこうと思うので。やっぱり、お客さんの笑顔を見たいんでね。それしかできないんで。鏡を見るような感じです。「笑顔で鏡を見ると向こうも笑ってるし、怒った顔で鏡を見ると、向こうも怒っている」っていう言葉が好きなんです。自分でも笑顔でやれたら、相手も笑顔で返してくる。

―誰の言葉?

泥酔侍:なんか、カレンダーに書いていました(笑)。自分が楽しめるような作品で思いを相手に伝えられたら幸せかな、と。結構難しいですよね、思いを伝えるって。簡単なようで。みんなそれで苦労してるのかなって。

―特に笑わせるのは難しいですよね。

泥酔侍:いろいろ悩んだりして。あとね、興味のない方にも楽しんでもらえるようなパフォーマンスができたらいいなとは思ってますね。

ポエトリーリーディングが人生に刺激や広がりを与えてくれる

―泥酔さんがステージに立つ時に、おどおどした感じを出しますよね。それが作品内容と相まって聞き手を緊張させない、緩ませる効果があるように思います。

泥酔侍:そうできたらいいな、とは思っていますね。箸休め的な役割(笑)。

―箸休めどころか、大阪ではメインディッシュだったじゃないですか(笑)! 先ほどのシングルズの話じゃないですが、幅広く興味・関心をお持ちですよね。

泥酔侍:そうですね。シングルズあたりに関連していなければ、僕ね、酒浸りで堕落した人生だったですよ(笑)。やっぱりポエトリーリーディングの世界に関わることができて、だいぶ人生に刺激とか広がりを与えてくれていると思いますね。

―元々泥酔さんの中にあったものが、朗読で一気に花開いた感じもします。このあと、やっていきたいことはありますか?

泥酔侍:そうですね。ブレずに、ユーモア主体で楽しんでいただければいいかなと思いますが。なかなかそれに見合うものを作るのが難しくて(笑)。最近、作るの遅いんです。一作作るのに1ヶ月、2ヶ月…。壁に当たってます。

―活動を7〜8年続けてこられて、自分なりの変化はあります?

泥酔侍:PSJが年1回あるので、年間の目標みたいになってますね。次回、できれば名古屋に出てみたいなと思っていて。名古屋では一勝もしていないので、一回戦突破を目指して(笑)。名古屋の方にも仲良くしていただいたら…楽しいですよ、知り合いが増えていくのは。

―次回はインタビューじゃなく、お酒を飲みながら一緒にバカ話させてください(笑)

泥酔侍:僕ね、昨日の酒がまだ残ってるんですよ。池上さんちで6時から11時くらいまで、持ち寄った一品をつまみながらビールと焼酎と日本酒と。バーシングルズの関係の方と、M-1とかIPPONとかの映像観ながら、あーだこーだやってました(笑)。

―いいですね。酒飲みながら、馬鹿馬鹿しいことやりながら、作品が生まれるというのは本当に素敵だと思います。

泥酔侍:楽しいですよ。仲間っていうのは大事ですよね。


【プロフィール】
泥酔侍 <でいすいさむらい>
1971年生まれ。大阪市在住。縁あって大阪・梅田のCommon Bar Singles(コモン・バー・シングルス)の日替わりマスターとなる。シングルズの愉快な仲間の影響もあり、同店で開催されるイベント「朗読BAR」の常連となる。ポエトリースラムジャパン 2016年大阪大会準優勝、2018年大阪大会優勝。
現在、酒気帯び朗読で暗躍中。酒(シュ)トロング・スタイルを追求するも、肺に水が溜まったりヤキが回り気味。でも飲むと元気になる。

                         (取材・原稿/村田活彦)


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