恋草
クリスマスに始まった恋は、翌年のクリスマス前に終わってしまった。
そうなることを知ってか知らずか、予定に入れていた海外一人旅。
その夜、わたしはタイで小さな国内便に乗り込んだ。
隣は、自分と同じくらいのタイの女の子。
聞けば、遠距離恋愛中の彼氏に会いにいくという。普段は外国にいる彼が、タイへ来るのだそうだ。
ふと彼女の手荷物に、あるものを見つけた。
――花束。
少しでも身軽にしたい空の旅に、かさ張るうえに繊細な花束。恋の力を思う。
そして気づく。ああ今夜は、クリスマス・イブだ!
遠距離恋愛のふたりが会うという話が、いちだんと熱を帯びて浮かび上がる。
空港の片隅で、彼女がはにかみながら花束を差し出す。そのシーンを想像したら、忘れていたはずの傷心にチリリとしみた。
いつかわたしも、そんな恋ができるだろうか。
花束を片手に降りゆく彼女を見送りながら、そんなことを思った。
自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。