15時のカレーは有罪か
運ばれてきた瞬間、鼻先で感じて「あ、やってしまった」と思う。
ときすでに遅し。店員の持つトレーから立ちのぼる「自家製カレー」の香りは、もう周囲にふわんふわんと漂いはじめている。
ここはおしゃれな雰囲気が漂うブックカフェ。そしていまは平日、ランチのピークをとうに過ぎた14時半ごろ。周りでは静かに読書に集中しているひとや、パソコンをひらいて仕事をしているひとたち。ひとことでいえば、たいへん落ち着いた空気が流れていた。
そこにきて、突然のカレーの匂いはありなのか。
そんなことが脳裏をよぎる間にも、わたしのテーブルに置かれた「自家製カレー」の香りはこのおしゃれ空間にむわんむわんと満ちてゆく。
ちらりと周りの席を伺ってみると、この時間帯にカレーを食べているひとはだれもいない。
だ、だ、だいじょうぶなのか。こんなおしゃれなブックカフェの片隅で、皆が読書や仕事にいそしむ中、ぷんぷんとこの匂いを漂わせながらカレーを食べても、ほんとうにだいじょうぶなのか。
いやいや何言っているのさ、情けない。店がメニューとして売っているんだから、だいじょうぶに決まっているじゃないの。心の中でもうひとりのちっぽけな自分が右拳をあげてエイエイオーとわたしを鼓舞する。
そ、そうだよな。売ってるんだから、いいんだ、いいんだ。
なんとか気持ちを落ち着け、そわそわとした気持ちをさとられないよう、なるべく堂々と背筋を伸ばしておしぼりのビニール袋を破く。
どきどきどきどきどきどき。
落ち着いた顔をよそおっておしぼりで手を拭いていると、近くの座席に席をとっていた女性が、レジでの注文を終えて戻ってきた。
と、思ったら。
コーヒーを持った彼女は、そのまま流れるように荷物を回収すると、スッとほかの席へ移動していった。
……ああ!
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とるにたらない話をしよう
<※2020年7月末で廃刊予定です。月末までは更新継続中!>熱くも冷たくもない常温の日常エッセイを書いています。気持ちが疲れているときにも…
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