田楽と東海道五拾三次
尾張のこの地域に引っ越してきて、驚いたことがある。
二年目に早速まわってきた町内会の班長の役。
広報誌の配布や町内会費の集金は想像していたのだけれど、桜まつりという敬老行事の動員には驚いた。
班長になって最初の任務は、田楽を焼くことだった。
もちろん、田楽を作るなんて人生初。
子どものころに数回見たことがあるだけだ。
先輩のおば様方に教わりながら、いきなり田楽を焼くことになった。
それも相当な数を、だ。
田楽の作業は大まかに分けると、豆腐を切る、串に刺す、焼くだ。
それぞれにコツがある。
いきなり、まさかの田楽職人に弟子入りだ。
2時間も焼いて一段落するころ、役員さんから自分たちも食べていいよと言われた。
焼きながら、あっつ熱の豆腐田楽をほおばる。
八丁味噌のタレに山椒粉をふりかけたら、いくらでも食べられそうだった。
嫌々参加させられたにもかかわらず、帰るころには楽しくなっていた。
まぁ、田楽の味に魅せられたからなんだけど。
気にしてみると、このあたりでは桜や藤の花の季節になると、どこからともなく味噌の焦げる匂いがする。
BBQならぬ、お庭で豆腐田楽だ。
もちろん郷に入ればで、我が家でも小さなコンロを買って子どもたちと楽しんだものだ。
春になれば、ホームセンターの目立つところに田楽の串が並べられる。
最近、田楽用の豆腐を作るお店の廃業が続き、お家で田楽できるのだろうかと気になっている。
松野屋(犬山市)
この連休に、犬山市にある田楽の老舗に行ってきた。
今まで、田楽と言えば豊橋の「きく宗」だったが、少々遠い。
そこで以前から気になっていた、犬山市「松野屋」に行くことにしたのだった。
味噌だれに付けてから焼くのが犬山流らしい。
お店で田楽をいただくとき、定食といえば「菜めし田楽」だ。
ご飯はなぜか菜めし。
今回は夫が豊橋の取引先の方から教わった流儀に則り、いただくことに。
菜めしの上で串からはずして、一緒にいただく。
一瞬うなぎ丼を食べるような錯覚をしそうだが、味噌を無駄なく食べられるのがいい。
でもやっぱり、田楽は串から食べる方が私は好きかな。
この串も、関東と関西では形が違うらしい。
八千代本店(岡崎市)
GWに、大河ドラマゆかりの地に行こうとなり、岡崎市に出かけた。
岡崎城のすぐそばに、八千代本店という田楽のお店がある。
岡崎城から八丁先には、八丁味噌の味噌蔵がある。
思いきり地元でいただく菜めし田楽は、とても上品な味だった。
きく宗(豊橋市)
お花見の屋台以来、初めてお店に食べに行ったのはここ。
田楽に老舗があることを知った。
池波正太郎さんになった気分で食べられそうな雰囲気がある。
豊橋駅と吉田城の間くらい、東海道沿いにある「きく宗」。
写真が見つからないので、↓↓ こちらでどうぞ。
田楽のルーツは滋賀県!?
東海道の石部宿と草津宿の間にある目川の里(現在の栗東)に、三軒の田楽茶屋があったという。
歌川広重の東海道五十三次に描かれているのは、そのうちの伊勢屋というお店だとか。
東海道を経て伝わった田楽は、浅草で有名になるらしいのだが、途中の伊賀、犬山、岡崎、豊橋に伝わったらしい。
犬山は東海道ではないけれど、木曽川の向こうは中山道だから、その経路から伝わったのかもしれない。
ルーツと思われる目川には、今はもう田楽のお店はなく、「田楽発祥の地」という記念碑があるという。
こんど滋賀に行ったら、探してみようかしら。
以上は、松野屋の案内に書かれていたものを参考にまとめた。
松野屋、八千代、きく宗 食べくらべ
【味噌】松野屋のは味噌が焼けている分、とろり感は少ない。
しかし、どのお店も味噌だれの味は甲乙つけがたく、全部美味しい。
【薬味】きく宗は辛子、八千代は木の芽、松野屋は青のりがかかっている。
いずれも山椒粉をかけるのが美味しいと思う。
【お値段】きく宗1900円、八千代本店1980円、松野屋1300円。
詳細はwebを見ていただくとして、松野屋が一番お値打ち価格。
【創業】松野屋は明治初期、八千代本店は創業130年なので明治中期。
きく宗は文政年間創業というので、最も古いことになる。
どのお店もそれぞれに美味しい。
名古屋市内にいくつかある「鈴の屋」も、田楽食べたーいと思ったときに行くことがある。
1店だけ選ぶとしたら、夫は「八千代本店」が一番だなという。
私は、一番食べ慣れた「きく宗」のバランスがいいのが好きだ。
どこに行っても、やはり味噌田楽は美味しい。
夏目漱石が「坊ちゃん」の中で書いた「菜飯は田楽の時より外に食ふもんぢゃない」って、そこまで言う?と思うが、やはり菜めし田楽は最高なのだ。