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たまに行列のできる秘書室

部長だったT教授が退官し、ふらりとお出ましになるお客様がいなくなった。
仕事に集中しつつも、ちょっと寂しい。

今日は、M教授との打合せ(からの雑談)が長くなり、そろそろ仕事しなくちゃと思ってたところへ、A教授がチラ〜、チラチラ〜と廊下からこちらを覗かれる。

その顔が「御手洗に会わせたい人がいるんだけど」と言っている。

話し込んでいたM教授が「ボクの話はもう終わったからどうぞ」と出て行かれると、入れ替わりに来られたのは、前々部長だったH元教授だった。

退官の日からもう5年。
あのころの日々が、一気によみがえる。
タイミングのいたずらで、私は突然部長室の秘書になった。
その声をかけてくださったのが、H元教授だった。

パーティションで仕切られただけの、ため息も独り言も聞こえる部屋で、2年ほどご一緒させていただいた。

大変な、部長にとっては試練の日々だったと思う。
全力疾走の後ろを、非力な私はヨタヨタついていくのに精一杯だった。

あのころと変わらず、でも随分穏やかになられた様子のH氏。
ラフな服装もダンディだ。

論文を書きつつ、趣味も楽しんでおられるという様子に、こちらも嬉しくなる。


しかし、秘書と言っても所詮私はパートのおばちゃんだ。
ファイル抱えて研究室を行き来してるだけなら楽しいのに、ダメダメ英語で外国人研究者の対応もすれば、学会のレセプションパーティで民族舞踊を踊ったこともある。

大した能力もないのに、とりあえず御手洗に言えば何とかするはずと、信じて使っていただけたことは感謝しかない。

そして自分自身も、よくやるよまったく…だ。
自分じゃなかったら、そんな仕事やる必要ないよと言ってるだろう。

それもすべてひっくるめて、先生方にはお世話になった。
よその仕事では出会うことのない方々とお目にかかったり、貴重なお話を聞くこともできた。
そして今、一研究室の秘書に戻ってからも、部屋を訪ねてくださる人がいるのは嬉しいことだ。

辞める準備はできています。
心に辞表を忍ばせて今日まできたけれど、あと一年で、今度こそ退職のつもりだ。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
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