6月が好きになったのは
いつからだろう。
雨のイメージの6月は、あまり好きじゃなかったんだけど。
でも、雨が降るからこそ思い出も色濃く刻まれて、気づいたら6月が好きになっていた。
結婚した翌年
夫婦で箱根を旅した。
箱根登山鉄道の車窓から、可憐なガクアジサイが雨に濡れているのを見ていた。
降り立った強羅は土砂降りで、駅舎から一歩も出られなかった。
しばらく空を見上げていたけれど、一向に止む気配がなくて、そのまま箱根湯本に戻ったんだったなぁ。
あの土砂降り…、こんな日も夫と生きていくんだなと感じた、若い日の私。
子育てが一段落したころ
派遣で働くようになった。
スーツを着て、派遣先の会場へ向かう。
こんな私に、仕事できるのかな。
でも、待っていてくれる人がいる。
緊張しながら歩く駅までの道。
角を曲がるところで香ってくるのは、クチナシの花だった。
ハッとするような甘い香りが、私を勇気づけてくれたっけ。
10年前、娘はバンクーバーに住んでいた
私がしてやれることなど何もない中、休学届を出しワーホリに出かけていった。
どんなアパートに住んで、どんな生活をしているのか、たまにアップする写真と月に一度送ってくる絵葉書が全てだった。
迷いもしたが、これを逃したら次にカナダに行くのはいつになるかわからない。
そう思い立った6月、私はチケットを予約した。
「トーテムポールのとこにいるから」
ツンデレな娘のその一言だけを頼りに、私はひとりバンクーバーへ旅立った。
想像していたトーテムポールとちがう。
ここでいいの?
待ち合せの人たちは、笑顔でハグしながら次々に去っていく。
少し不安になりかけたころ、知ってる顔がこちらに走ってくるのが見えた。
久しぶりの再会で、先に泣いたのは娘の方だった。
私のいない家、私のいない研究室
それもたまにはいいかもと、先月末から一週間の休暇を取った。
育休明けの娘一家を助け、京都で気分転換し、自分と向き合う時間に…、少しはなったかな。
でも、帰宅後の体調不良で、多くの人に迷惑かけちゃった。
気づいたらもう、庭のクチナシが咲いている。
雨の日には雨の中を、風の日には風の中を。
by相田みつを
そんな6月もいいものだと、今は思っている。