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ビールを持ってて何が悪い! (エッセイ)

小学生の子供を持つお父さん(お母さんもかな?)にとっては、ちょっと哀しい話になります。

──《酒》に対する寛容度は育った家庭環境により、かなり異なる。

父は、夏はビール、冬は熱燗、と年中晩酌(昭和の響きがする言葉ですな)を欠かさない人だった。
私も、いつ頃飲み始めたのかは憶えていないが、高校生の頃には自宅でバンド練習や麻雀の卓を囲んでいると、夏なら母がビールを出してくれた(といっても、グラスにひとり1-2杯分程度ですが)。

中には、
「え、えええ? ……いいんですか?」
と驚く新顔がおり、
「ビールなんて、お茶替わりだがね!」
母はカラカラ笑うのだった。

我が家だけが特別なのではなく、同じように酒類を出す友人宅もあった。
「おつまみは何がいい?」
と尋ねる友の母に、
「そうですねえ。── 土器かわらけに、味噌を少し』
と《古文》で読んだ兼好法師を気取ったりする ── まあ、そんな年頃だった。


── 時は流れ ──
長女が小学校3年の時に雲梯うんていから落ち、手の付き方が悪かったのだろう、腕の骨を折ったことがあった。
しばらく片手を吊って通学したので、治るまで祖母(私の母)がランドセルを持って送り迎いした。
ある土曜日(まだ小学校は半ドンだった)のこと、
「たまには俺が迎えに行くよ」
と母を制して小学校に出かけた。

── まだ授業中らしく、校舎は静まりかえっている。
(……ちょっと早く来すぎたかな……)
時間つぶしに近くのスーパーに立ち寄ると、キリンラガーの安売りをしていた(当時はたいてい瓶だった)。
「おお! これは買わねば!」

3年生の教室に行くと、午前中最後の授業が終わり、子供たちが廊下に飛びだしてきた。
教室を覗き、長女に合図をする。
── すると。
私の右手の周りに、クラスの男子が群がって来た。
「ああ、学校にビールを持ってきてる!」
「ビールだ、ビールだ!」
「先生! **のお父さん、学校にビール持ってきていまーす!」
「学校にビール持ってきていいのかよ!」

── 大騒ぎになってきた。

しかし、私のミッションは、娘のランドセルを持って帰ることであーる。
教室に入り、彼女の席に行ってランドセルを左手、そう ── 大瓶4本を下げてはいない方の手で持って、
「さ、行こか」
と声をかける。
娘はなぜか顔を真っ赤にしている。

ランドセルを左手に、ビール4本を右手に廊下を歩く私の後ろに、悪童が何人かついて来て、
「ビールだ、ビールだ!」
「ビール飲ませろ!」
「俺にも飲ませろ!」

うるさくて仕方がない。
「ばかたれ! 10年早いわ!」
そう言った後、本当に10年で大丈夫か、計算してみる ── 法的には少し足りないが、まあいいだろう。

3年生の教室から逃れて校庭に出ると、そこには、既に帰り支度の1年生が整列していた。
「おう! ##じゃねえか!」
次女の姿を見つけて声をかけるが、こちらは怯えたような素振りである。
(── この不審者と、わたしは何の関係もありません)
と言わんばかりだった。
妙だな、と思っていると、やはり、彼女の周りの1年生男子が、
「ああ! ビール持ってる!」
「先生に言いつけるぞ!」
「ビール飲ませろ!」
「飲ませろ、飲ませろ!」

と騒ぎ始めた。
厄介な連中だ。どういう家庭環境なんだ! ビールを持ってるくらいで大騒ぎするんじゃねえ!
その時気付いたのだが、子供たちの視線の高さは、手に持ったビールの高さにかなり近いのだ。奴らがみな、大人の背丈ならば気づかなかったであろうに……。

「ばかたれ! 10年早いわ!」
と再び叫んだのだが、もう1度計算し、7歳に10年足しても、やや早いかな、でも俺はその頃には飲んでいたな ── などと思いながら帰宅した。
長女は私から5メートルぐらい後方を、警戒しながら歩いていた。

そして ── その日、
「お父さんは2度と学校に来ないで!」
と、私は娘たちにきつく言い渡されたのでありました。

それだけでは不安だったのでしょう、彼女たちは妻にも、
「《あの人》を学校に近づけないようにして!」
と厳しく言い渡したのでした。
── おいおい。
ホントに《怪しい不審者》扱いだった。

でもね、学校でビールを飲んであばれたわけでもなんでもなく、たまたま持ってただけだろ? ── と思うのですが。

良識あるnoterのみなさんは、どう思われるでしょうか?

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