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「真のアメリカ野球文化はAAA(トリプルA)にこそある」説(エッセイ)

米国から日本のプロ野球に移籍する選手は、なぜか「助っ人」と呼ばれます。
なんだか、黒駒勝蔵くろこまのかつぞうとの「出入り」をひかえた清水の次郎長が合力を頼んだ「食客」たち ── みたいな《アナクロ臭》がします。

「助っ人」はたいてい、前シーズン、メイジャーリーグ(MLB)か、その下、マイナーリーグの中では一番上位にあたるAAAトリプルA、このどちらかに所属していた選手です。
「新外国人」として紹介されるスポーツ欄の記事には、
『昨シーズンまで3年間、ヤンキース傘下の3Aでプレイ、ホームラン数は通算64本……』
なんて書かれてたりしますよね。
この『3A』というのが『AAAトリプルAです。

AAAトリプルAって?


アメリカの会社に勤務している時、部署の「Excursion(遠足)」として、AAAトリプルAの試合観戦が企画されました。

ええ? AAAトリプルA MLBのタイガース球場じゃなくて?」
私の反応に、この遠足を企画した同僚は、
「何言ってんだい! アメリカ野球の『真の文化』は、むしろマイナーリーグにあるんだぜ。行ったことないのかよ!」

それまで、シアトルのマリナーズ球場、デトロイトのタイガース球場には行ったことがありましたが、日本でウェスタン・リーグの試合を見に行ったことがないのと同様、マイナーリーグ(MiLBと表記)にまったく関心はありませんでした。

(マイナーリーグって、要はファームでしょ? 普通の野球ファンはわざわざ試合なんか見に行かないでしょ)
なんて思っていたわけです。

さて遠足当日、何台かに分乗してミシガン州からオハイオ州に入った所にある人口30万人程度の工業都市、Tredoに乗り込みました。
この町に、AAAトリプルA球団、トレド・マッドヘンズToledo Mud Hens)があるのです。

Henは雌鶏、「Mud」は「Mad(頭がおかしい)」ではなく、「泥/ぬかるみ」の方です。

MLBは大谷がいるアメリカン・リーグとダルビッシュが現在所属するナショナル・リーグがあります。
AAAトリプルAには、米国東側のインターナショナルリーグと西側のパシフィックコーストリーグがあり、両リーグでプレイオフを勝ち抜いたチーム間でAAAの優勝決定戦が行われます。

トレド・マッドヘンズToledo Mud Hens)はMLBのデトロイト・タイガースの傘下にあり、インターナショナルリーグに属しています。

本拠地の球場は結構、立派です。

本拠地球場はフィフス・サード・フィールド

さて、観客席に入ると、とにかく、客席とグラウンドが近い! 大金を出さないと豆粒のように小さな選手しか見えないMLBの巨大観客席とはまったく異なり、安いチケットでそこそこ前方の席を確保できる。
それに、日本の球場と違って、1塁側・3塁側に「防球ネット」がない。当然、ライナー性のファウルボールが飛び込んでくる場合もあります。
MLBは安全のために球場の「防球ネット」を増設しているそうだから、今ではマイナーリーグもそれに倣っているかもしれませんが。

防球ネットがないのでちょっと怖いけど、臨場感はありますね
BudweiserではなくBud Lightなのは、酔っ払い対策かな?

試合途中に球団マスコット(ここでは、雌鶏?のMuddy)が出てきてファンサービスするのはMLBや日本のプロ野球と同じですが、これが高頻度、かついくつもの《地元密着型のファンサービス》が仕組まれている。

球団マスコットのMuddy

例えば、チケットの番号で抽選があり、この地域のスポンサーから何種類もの景品が出ます。
当たり番号の発表のたびに客席はけっこう盛り上がるし、地元企業にとっても、かなり安い宣伝費で済むんじゃないかと思います。

この日、たまたま日本からの若いお客さん(米国の大学研究室に短期留学中の某企業研究員と東工大の博士課程学生)が訪問中だったので一緒に球場に行くかい、と誘ったのですが、球場で喜んでいましたね。

確かにAAAトリプルAは、
選手とファンの距離が近く、
地域密着型で、
古き良き時代のアメリカンベースボールがまだ息づいているように思えました。

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