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《就職面接》の➀前と➁後に受けた《天からの「やめとけ」啓示》 (試験の時間)

就職のための面接というのも、一種の試験なのでしょう。
大学4年時のたらい回し面接については既に書きました。
砂漠のように《不毛》な面接でした。

その後、大学院修士課程の2年が経過し、再び就職先を探さねばならなくなりました。しかも、私は大学院入学時に結婚していたので、就職はより真剣な《筈》でした。

結論から言うと、国立研究機関1件と企業3件で面接を受け、とある企業に就職しました。

今回は、最初に訪れた国立の研究機関の話です。
国家公務員試験というのは、合格すると3年間有効(当時)でした。
私は学部4年で合格していたので、修士課程を終える年まで有効と言うことになります。

どういう伝手つてだったのか、はっきりしませんが、ある人(Aさん、としましょう)を仲介して国立研究所のそこそこエライ人と事前面接を行うことになりました。

当日、決められた時間の少し前にAさんのオフィスを尋ねました。
そこは20畳ほどもあるだだっ広い実験室で、その片隅に彼の机がただひとつありました。
ノックをして部屋に入ると、ジジジジ―ッと音がします。
薄暗いその部屋にいるのは、ひとりの中年男性で、来客 ── つまり私 ── の方を振り返るでもなく、電気シェーバーを頬にあてていました。

(ひょっとして、気付いていないのかな?)
そう思い、側に近づき、
「あの……」
と話しかけようとしました。

すると、彼(後で確かにAさん自身だと判明)は、片方の手の平を立てて、
《待て》のポーズをしながら、どうやらとても重要な儀式らしい《ヒゲソリ》を中断することはありませんでした。
私も傍らでじっと待ちました。何せ、事前面接の仲介をしていただく方ですから。

彼は数分かけて、頬、鼻下、あご、最後に喉までしっかり剃り終え、シェーバーのスイッチを切りました。
(……ふう)
私は、ここで《安堵》の息をついたと思います。

「あの……、今日面接に来た ──」
そこでA氏は再び片方の手の平をたてて、私を遮りました。

そして、外刃の付いた枠を外し、ゴミ箱にかぶさるようにして、小さなブラシで内刃についた「ヒゲ屑」を落とし始めたのです。
そして、初めて私の方を振り返って言いました。
「これねえ、毎日ちゃんと手入れしないと、錆びたりすることもあるんだよ」
「……はあ」
力なく相槌を打つ客をさらに待たせ、ひょっとしたらヒゲを剃ること自体より重要な儀式なのかもしれない《清掃作業》を終えた後、A氏は内刃にオイルを付け、外刃をしっかりとはめ、さらにシェーバーを黒いケースに納めた上で、初めて全身をこちらに向けました。
まだ坐った姿勢のまま、
「── で、なに?」
……全身から力が抜けていきました。

《エライ人》との面接は特に可もなく不可もなく、無難に行われました。
「君の志望はわかった。あとは正規のルートで本面接を申し込みなさい」
ということでした。

ところが、その3日ほど後のことです。
A氏から電話を受けました。
くだんの《エライ人》が、突然お亡くなりになった、というのです。
「どうする? 後任の《エライ人》が決まったら、再度面接するかい?」

それは、《天》が、
➀ 電気シェーバー
と、
➁ 《エライ人》の突然死を使って、
私の人生に、何か重要な《啓示》を与えているような気がしました。

「……少し考えさせてください」
と電話で答えた私は、結局、こちらからA氏に再び連絡することはなく、国立研究所の公務員になることを諦めました。

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