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無職になったって何も変わらないと思っていた

 先月、仕事を辞めた。今までで1番長く勤めた会社だった。

 決して仕事が嫌になった訳ではなかった。むしろ大好きだった。誇りもあった。自分は素敵な仕事をしている。ずっと続けていきたい。そう思っていた。

 周りの期待に応えたい。できる限りのことはなんだってしたい。後輩の手本になりたい。レスポンスはスピード重視。常に新しい企画の準備を。打ち合わせも積極的に。お客様の立場になって考える。なんだって引き受けたし、なんにだってチャレンジした。(もちろん失敗もその分多かったが)

 結果、疲れてしまった。突然電池が切れたように動けなくなり、それまでのように頭が回転しなくなり、完全にフリーズしてしまった。

 辞めよう、とちゃんと決心するまで、えらく時間がかかった。

 周りにはずっと「辞めたら?」と言われてきたし、そうすべきだと本当はわかっていた。どう考えたって休暇が必要で、だけどそれを許してもらえるような会社ではなかった。

 うまく息ができなくなり、死がずっとそばにいるような感覚だった。もちろん死にたい訳ではなかったし、楽しいこともあったはずなのに、ごはんの味もわからなくなり、仕事をしているとき以外はなにもできず座り込むような日もあった。

 辞めようと思ったのは、日曜日に大好きなアーティストのコンサートに行きたかったからだ。そんなことで、と思われるかもしれないけれど、接客業だったので、日曜は絶対に休めない。チケットがとれたら辞めよう、とれなかったらもう少しがんばってみよう、それにすべてを賭けていた。もうそうすることでしか決められなかった。

 そして先月、退職した。

 辞めたらしてみたいことはたくさんあった。着々と叶えていきながら、「働いていない」ことにひどく不安になる日も多くある。「何にもしない」をしようと決めていたのに、最初はどうにも効率よく動きたくて、仕事モードから抜けられなかった。

 それもあってか何か目標がほしくなり、ずっとやってみたかったダイエットを始めた。筋トレと糖質制限をするかなりガチガチのダイエットだ。おかげで痩せてきているけれど、食事制限があるので食を楽しみにお出かけすることができず、家にいることが増えた。それもあって最近はゆっくりできているように思う。いまはNetflixを見ていたら1日が終わることも多い。

 それでも不安に襲われ、ひとり泣いてしまう日もある。

 だいぶ元気になったと思っているのに、仕事のことを思い出して苦しくなったり、エネルギーが湧かないこともある。仕事を探そうという気持ちも起きず、それなのに不安で、矛盾した気持ちを抱えて眠れないこともある。

 変わったことはたくさんあるし、変わらないことも同じくらいある。時間ができて、選択肢が増えて、単純にできることの幅が広がった。そしてなにより、「わたし」自身が少し変わった。気持ちが穏やかになり、イライラすることも減り、少しだけ前向きになれた。先月までは自分の人格を疑う程怒りが湧くこともあったし、訳も分からず涙が止まらないことも多かった。一生そのままなんだと思っていた。でも、違った。

 もちろんすべてを仕事のせいにはしないけれど(大好きだったことに変わりはないから)、わたしにとっては、変われる一歩を踏み出す大きなきっかけになった。

 わたしはこれから、好きな髪の色で好きな服を着て、いつだって行きたい場所へ行ける。「仕事」を失ったあとに得たものを、大切に守っていく。そしてそれを守りながら、ゆっくりとできることを探すんだ。

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