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おじゃまいたします

 これはフィクションです。
 と、俺が読む様な文庫本には大体書いてあった。
 ノンフィクションかフィクションか、そんなことはどうでもイイというのは変だろうか。

 大学卒業後、地元の不動産営業所が何故か拾ってくれた。
 卒業間際、バイト仲間であり、バイク仲間であり、同級生でもあるよーすけと俺は就職が決まっていなかった。
 俺達はカラオケBOXのカウンターの中でフリーのリクルート雑誌をペラペラとめくり合っていた。
 お、これイイね、とよーすけが言ったページを俺も見ていた。
 よーすけはいつも、俺や店長達のやり取りを見て面白がっていた。俺達はいつも酔っ払っていたし、博打の話ばかりしていた。
 証券会社の募集だった。いかにも俺が面接の候補に入れそうだ。反応が遅れたのは、2ページ前にチラッと見た葬儀屋の募集に引っ掛かっていたからだ。
 「俺、ここ行ってみるよ。」
 よーすけは言った。
 そのときに、いかにもよーすけが面接の候補に入れそうな会社が目に止まった。
 俺は不動産の営業マンになり、よーすけは証券マンになった。
 不動産営業所は俺を新卒扱いではなく中途と同期としてぶち込んだ。5月頭からの出勤だった。
 初任給はいつだ?見習い期間が3ヶ月有ると聞いた。3月でバイト辞めて金の算段は無かった。
 俺は土日は競馬場に朝から入り浸り、最終レース後はパチンコ屋に行くか、朝迄雀荘で凌ぐか、みたいな生活を始めた。
 仕事が始まればスーツ着てバイクで出勤。カワサキZRX1052cc。初日に許されるかも解らず玄関横に乗り付けたらガラスがマフラー音でビリビリ言うのにびっくりされたが許可された。
 仕事が終われば近くのパチンコ屋に飛び込んだ。会社の誰も帰ろうとしていなかったが研修期間の間は17時で帰社出来た。
 1週間位経った日、店長が今日はもうすぐ終わるから最後迄居なよ、と言ってきた。こりゃ近いな、と思った。
 俺は早く営業がしたかった。入社してからスーツ着て家に帰る迄にやってる仕事はパチンコだけだった。
 契約を取れば給料になる。ならこれで稼いでやろう、と企んでいた。
 その日は雨が降っていて駐車場代と天秤にかけてモノレールで来ていた。俺のクルマはまだ会社の奴等にバレていない。目立つから街を走ってたらすぐ見付かる。その頃サニトラに乗っていた。電気自動車の時代にキャブ車に乗っていた。
 結局終わったのは19時半だった。先輩の松本さんがモノレールだと知ったので一緒に駅へ向かった。
 松本さんは今月まだ契約を取れていなかった。3、4回カウンターでの接客をすぐ隣で伺っていたが、松本さんは常に緊張していた。指がぷるぷる震えていた。何かに怯えている様だった。そしてお客さんはそんな松本さんを残して、契約を結ぶことなく帰って行った。
 今日は営業所で3件の新規申し込みがあった。松本さんのお客さんでは無かった。店長は松本さんを怒鳴り付けた。俺はそれも仕方ないと思った。違う人が接客すれば契約したかもしれない、と思った。
 「営業、キチぃすか?」
松本さんなら営業のキチぃところを沢山知ってそうだった。幾つか聞き出して、心に留めておいた。
5月が終わり、6月になり、限界がきた。店長に懇願した次の日、とうとうチャンスが来た。綺麗目な女性2人組だった。違う営業マンが接客していたのを店長が引き継ぎ、俺に案内してくる様に、と部屋と営業車のカギを渡してきた。エステサロンを始めようとしている、との事だった。案内先は駅から徒歩圏内の高層マンションだった。部屋は店としては少し狭く見えたが、2人は気に入った様だった。エレベーターで降りてきてオートロックを出たところにマンションの規約の看板が有った。
 規約一覧の下の方に「店舗営業の禁止」と書いて有った。2人は気にした。
 俺は営業所に報告の電話を入れ、2人を連れて帰った。管理会社に交渉する、という条件付きで申し込みになった。
 6月は9件の申し込みを受け、2人を含む3件がキャンセルになり、6件が残った。接客数辺りの申し込み率とキャンセル率で市内3件有る系列全店トップになり少し目立った。
 年末になると給料が安定して入る様になった代わりにパチンコ屋に行く頻度が極端に減った。周辺の物件の記憶を武器に、カウンターで喋り散らかしていた。俺の指が震えるようなことは無かった。新規の客を待ち構えていた。どっかの会社のお偉いさん、馬主、小説家、風俗嬢、新入生、医者、警察官、生活保護受給者、漫画アシスタント、新婚、ヤクザ、詐欺師、色んな人達が俺の客になった。トップ営業マンの先輩と俺2人で契約を取り合っていた。
 休みの前の日、営業所の控室で社長が帰社してから麻雀を打つことになった。店長とトップ先輩と違う営業所の店長を呼び出した。その日初めてマットと牌を持って来るのにサニトラに乗って出勤した。社長がクルマをジロジロ見ていた。
 2人の店長達はそれなりに打てたが人数合わせで半ば無理矢理同卓したトップ先輩は牌の扱いがかなり覚束無い様だった。
 先輩が俺に痛恨の裏々一発付きの北単騎七対子を振り込んで飛んだところで初日はお開きになった。一人負けの先輩は稼ぎを全部彼女に預けていて手持ちが無く全額付けになった。次はレート倍を提案することにした。
 社会人としてなんとかやっていけそうと思った。


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